劇場公開日 2026年6月19日

「わたしの話を聞いてぇ〜!」マジカル・シークレット・ツアー kazzさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5 わたしの話を聞いてぇ〜!

2026年7月22日
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鑑賞方法:映画館

意外と面白かった。
中部空港で韓国籍の主婦らが金塊の無許可輸入で逮捕され有罪判決を受けた2017年のニュースに着想を得たという本作。同じ時代設定で創作されているが、完全なフィクション。
東京税関の協力で製作されているから、ちゃんと捕まる。そして、2018年以降金の密輸に対する取締りや罰則が強化されたことが映画の最後にテロップで示される。
2017年当時から比べると金の価値は5倍くらいになっているし、消費税率も8%から10%に上がっているから、いま同じ量の金塊を密輸すれば儲けはかなり大きい。その分金の仕入れ値が高くなるし、極端な円安で渡航費や滞在費も高くなっているだろうから、元手資金がそれなりに必要にはなるが…。

闇バイト(2017年にはなかった言葉だと思うが)に参加してシンガポールで知り合った3人の女性による犯罪物語なのだが、ピカレスクロマンというよりスラプスティック要素が強い。
3人は全く境遇が異なっていて、普通なら知り合う機会などなかっただろう3人だ。

主人公の小川和歌子(有村架純)は2児の母で専業主婦。ほとんどの場面で0歳児を抱っこひもで抱っこしている。免許はあっても運転はできない。
最年長の角田清恵(黒木華)は細胞生物学(だか何だか)の研究室に籍を置く独身の研究員。韓国(?)男性アイドル・グループの熱烈なファンで、時々踊る。
最年少の日野麻由(南沙良)はキャバ嬢で、アバズレの母親と高校生の妹がいる。妊娠しているが夫はいない。
彼女らの三者三様のやむにやまれぬ事情がちゃんと描かれているが、とことん不幸だったり、とことん不運だったりするのは本人に全く原因がないとは言いきれない。
我慢を続けているうちに、気がつくと自力では現状を打破することができなくなってしまっている…そんな人は少なくないのではないか。かく言う私も、その一人だ。
彼女らにもそんな面があったとして、それでも夫や上司や母親にほとんど原因があった。その元凶の人たちのキャラクターは極端で、かなり酷い。さらに、家族や同僚や社会の状況が彼女らを追い詰めていくのだから、世の中が悪いと彼女らが結論づけてしまうのは無理からぬところだ。
そこに一脈の説得力はあるから、我らはすっかり彼女たちの味方になってしまう。

金塊の密輸を始めてからのスラプスティックが軽妙かつ危なっかしくて面白い。
そして、どこか爽快感すらあって『テルマ&ルイーズ』を想起しないでもない。

主人公の和歌子は親や兄弟、親戚などから〝決めつけ〟られて育ったようだ。
「昔からそういうところがあった」「いつもそうだ」何気なく親しい人に対して言ってしまいがちなひと言だが、いろんな人からそんなことを言われ続けている側にとってはたまったものじゃない…と、気付かされた。
あんたに私の何がわかるのか…と言いたくても言えずに今日まで生きてきたのだろう。
和歌子の「わたしの話を聞いて!」という叫びは痛烈に私の胸を突き刺した。
我慢の人だった和歌子が遂にひらき直り一大決心をすると、ペーパードライバーなのにスポーツカーも運転できてしまう。
この火事場の馬鹿力的な大胆行動をハラハラしながら応援しないではいられない。
彼女自身がモノローグで語るとおり、「こうなることは分かっていた」結末を迎えても、まだ彼女には未来があるはずだ。
和歌子が乗ったバスの行き先は、彼女の新たな未来であってほしい。

有村架純は人気女優のトップクラスを走り続けているが、演技者としての高い評価はあまり聞かない。
同世代の女優陣をながめると、岸井ゆきの、門脇麦、趣里、吉岡里帆、のん、志田未来…なかなかの激戦区にいる。
ルックスや癒し系キャラが好感度を上げていることもあってか、演じてきた役に意外性があまりなかったのが演技者として着目されにくい要因なのかもしれない。
幼児を抱えて犯罪に走る本作の役はチャレンジングなのかとも思ったが、逆境にさらされても最後には頑張るというやはり彼女らしい役柄だった。だとしても、演技者としてももっと評価されていい女優ではないかと思う。

さて、和歌子に負けず大胆な行動を起こした清恵はどうなっていくのか、麻由は子供を産んであの母親がいる環境で無事に育てていけるのだろうか、と他の2人の未来も気にかかる。

kazz