台湾映画でVFXも活用したサスペンスアクションのイメージはあまりなかったが、このジャンルでも十分に楽しめる快作を撮れることを証明した。本作「96分」は、いくつかの点で日本と少なからぬ縁があるのも注目ポイントだ。
走行速度に反応する爆弾が高速鉄道に仕掛けられるという設定は、当然「新幹線大爆破」を想起させる。ただし「96分」の脚本初稿は2017年、撮影は2024年というから、手本にしたとすれば2025年のリメイク版ではなく、1975年のオリジナルのほう。高倉健や千葉真一が出演した同作は米国をはじめ海外でも公開されて好評を博し、以降の“乗り物サスペンスアクション”に影響を与えたと考えられる。
1994年のキアヌ・リーブス主演作「スピード」でも、路線バスに同様の爆弾が仕掛けられる。脚本を書いたグレアム・ヨストは、父親から「暴走機関車」(黒澤明原案の1985年米国映画)の話を聞いて着想を得たが、その不正確な話には機関車が爆弾のせいで止められなくなるという「新幹線大爆破」の設定が混じっていたらしい。従って、「新幹線大爆破」は間接的に「スピード」にも影響を与えたと言えそうだ。一方「スピード」と「96分」の共通点としては、爆弾の設定のほかに、主人公が爆弾処理のエキスパートであることや、彼が並走する2台の乗り物を移動するシーンなども挙げられる。
「96分」の序盤では、映画館に仕掛けられた爆弾に主人公カンレンが対応した3年前の事件がまず描かれ、続いて現在の台湾高速鉄道を舞台にした事件に移る。時系列でいうと映画館の事件の前にトンネルで発生した第1の爆弾事件があり、それが第2、第3の事件と深い関わりがあることが徐々に明らかになっていく。ただ、第1の事件については台詞で言及されるのみで説明不足の感が否めず、物語の構成も含めてもう少し分かりやすく描いてほしかった。
それでも、列車2台にそれぞれ爆弾が仕掛けられて対応がより複雑になったことに加え、序盤から中盤にかけて犯人と疑われる人物らもその後の展開に有機的にからんでくることや、誰かを救うために別の人(々)を犠牲にすることの倫理的な問い(「トロッコ問題」や「トロリー問題」と呼ばれる)について観客に考えさせるテーマ性など、過去作を手本にしつつもより良いものを目指す姿勢が伝わってくるのは好ましい。VFXに関してはハリウッドからバーチャルアート技術を約5億円以上も費やして導入し、カンレンが列車を飛び移るシーンなどで活用している。2025年台湾映画の興行収入1位もうなずける出来栄えだ。
なお、2007年に開業した台湾高速鉄道には、新幹線で実績のある日本の技術(車輌、保安装置、軌道の大部分)が採用されている。この台湾版新幹線の開通に携わった日台の人々を描く小説「路」(ルウ)を吉田修一が書き、波瑠主演でテレビドラマ化もされた。「96分」の舞台になった台湾高速鉄道への日本の関わりに興味を持ったら、ぜひこの小説やドラマにもあたってみてほしい。
最後に、台湾高速鉄道についての余談。レビューの下調べで知ったのだが、2013年の邦画「藁の楯 わらのたて」に出頭した犯人を警察官らが護送する際に新幹線を使うシークエンスがあり、このロケ撮影で台湾高速鉄道の駅と車両が使われていた。配信の本編映像で確認したところ、乗り込む小倉駅のシーンが実際は高雄に近い左営駅、降りる新神戸駅ホームのシーンは台南駅でそれぞれ撮影されたようだ。台湾新幹線の特徴的な車体外側のオレンジ色の線もそのまま映っているし、鉄道ファンならすぐ気づいただろうか。40分7秒あたりの駅の外観を収めた空撮ショットでは、「KOKURA STATION」の駅名や「小倉けいりん」のビル広告などをCGで描き加えているが駅舎は左営駅のもので、細かく見ると駅の隣の駐車場に入っていく自動車数台が右側通行(笑)。とはいえ、そんなところにも日台の縁が感じられてちょっと嬉しい。