劇場公開日 2025年10月31日

「盛り上がりに欠ける前半戦からの、後半戦に巻き返す手堅い勝ちパターンは何気に試合巧者」ひとつの机、ふたつの制服 TWDeraさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5 盛り上がりに欠ける前半戦からの、後半戦に巻き返す手堅い勝ちパターンは何気に試合巧者

2025年11月5日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

今週は制作や宣伝にお金を掛けていて“力の入れよう”が判る邦画3本が一斉に公開されていますが、私的には諸々の理由でいずれの作品にも触手は伸びずに“配信待ち”を決定。このまま見送ることも考えましたが、劇場で一度だけトレーラーを観た覚えのある本作が気になったことを思い出し、サービスデイの本日に新宿武蔵野館にて鑑賞することにしました。
1997年、小愛(チェン・イェンフェイ)は娘の将来を気にかける母(ジー・チン)の強い後押しに渋々、進学校である名⾨⼥⼦校・第⼀⼥⼦⾼校の“夜間部”への入学することに。同校の制服は全日制/夜間部共に同じものですが、胸部に縫い込まれる刺繍の色がそれぞれに異なります。そして授業初日、全日制との入れ替えで教室へ入る小愛は自分の席に座る“机友(きゆう)”全日制の生徒・敏敏(シャン・ジエルー)と初の対面。夜間部である自分を見下しはせぬかと不安の面持ちでいると、意外にも敏敏は気やすく小愛に声を掛けてきて大変にフレンドリー且つクールなタイプ。その時はあっけにとられるばかりで返す言葉が出ず仕舞いだった小愛は、机の中に敏敏宛ての手紙を残します。すると、それを機に二人のデスクメイトは仲を深めていくこととなり、当初は嫌々だった小愛の学生生活は敏敏から受ける影響で一転していきます。
うまくいっていたはずの友情が“気になる男性”の登場によって怪しい方向へ向かう展開は古典中の古典。また、非常に特徴的なアイテムを身に着けているにもかかわらず、先生や生徒に気づかれないという設定の不自然さは“映画的な嘘”として見過ごすとして、、兎も角、90年代後半と言うこともあってまだまだ社会規範やモラルに対する意識も低く、世間は覆しようのないヒエラルキーに支配されていると思い込んでついつい卑屈になる小愛は、上位者たちに対する“対等”を偽装するために嘘を重ね続け、そして予想に易く案の定に“破綻”します。
まぁ、それぞれのキャラクターの良さもあって決して悪い印象はないものの、今一つ盛り上がりに欠けると感じる前半戦。ところが後半戦に入り、小愛等が高校3年になっていよいよ大学受験までのカウントダウンに真の焦りを感じるその年、現実の世界にも起こったある“大きな出来事”をきっかけに物語はブーストし、小愛の“目を見張る成長”と“明るい将来への期待”で作品を手堅く勝ちパターンへ導いています。監督・ジュアン・ジンシェン、脚本・シュー・フイファン&ワン・リーウェン、いい仕事しています。監督の旧作もU-NEXTで配信されているようなので近いうちに鑑賞してみよう。
そして、小愛を演じたチェン・イェンフェイ。元々童顔ではあるものの、実年齢をにおわせない衣装やヘアメイクも助けとなって“自分に自信を持てない少女”を見事に演じています。『無聲 The Silent Forest(20)』では第57回金馬奨最優秀新人俳優賞を受賞しているとのこと。こちらもU-NEXTにあるようで次いでマイリストへ追加。
台湾映画はまだまだ勉強不足な私にとって、新たな興味を沸かせてくれた本作。逃さずに観て良かったです。

TWDera