「横田選手の青春をスクリーンに描いたウソを感じさせない良作」栄光のバックホーム ひぐまさんさんの映画レビュー(感想・評価)
横田選手の青春をスクリーンに描いたウソを感じさせない良作
若くして病に散った元プロ野球選手・横田慎太郎とその家族の物語。大部分が実録であり訴求力は高い。しかも所属した阪神タイガースが協力を惜しまず、幻冬舎をはじめとしたスタッフチームも作品と真剣に向き合った。当然遺族も現存しているわけだし、極力 作品から創作のないリアルな世界を描き出そうとしている。創造力という言葉を自分勝手に都合よく解釈する某まんがとは異なり、スタートの時点から好感が弾ける(お前のことだH田)。
主演の松谷鷹也も実物の横田選手も実父が元プロ野球選手。ともに左投げ左打ち。体格も似通っている。野球のシーンも松谷は実在の社会人チームに長期間加入し、劇中で擦り切れるほど披露する素振りなど、ホンモノの雰囲気作りにかけては「国宝」をも凌ぐかもしれないほどの完成度の高さを見せた。チームメイトとなる選手たち、とりわけ2013年ドラフト組(北條は1年先輩)にほとんど野球経験がある無名の役者陣を起用した点もまた正解だったといえる。
キャスティングに難癖をつけるならば元プロ野球選手のレジェンドたちだ。かつての有名選手に配慮したのか否かは不明なれど、有名であればあるほど有名無名に関わらず実物に雰囲気の近い面々に演らせるべきではないかと思う。白衣の医療陣に小澤征悦、田中健、佐藤浩市といった顔ぶれを配するのはいいのだ。対して元選手たちは掛布に古田新太、平田に大森南朋、金本に加藤雅也。加藤は少しマシだったが、名前に比してユニフォーム姿を見ると皆がっかりしてしまう。胸板が違う。肩幅の厚さも違う。…スカウトの秀太はふだん着のみなので萩原聖人でもいいと思うが、最も見ていてしんどかったのは柄本明がどうしても川藤さんには見えないところだ。完全にどう見ても最初から最後まで柄本明。一方の現場の新聞記者たちも若手ばかりが画面に出てくるのは名門タイガースの番記者としては逆にリアルではない。デスクの長江健次みたいな顔ぶれを数名でいいから現地組にも入れるべきだった。一方で伊原六花、トレーナーの上地雄輔はともに良い仕事をしたと思う。知る人は多いと思うが上地もリアルに元横浜高校の捕手だった。
本作は横田慎太郎の輝ける時と闘病で苦しむ時を家族の視点で描いている。ゆえに母役の鈴木京香に父役の高橋克典、姉の山崎紘菜と、いずれも確かに役柄に入り込める信頼できる面々を選んだ。製作陣としてはこの時点で勝ったも同然と手ごたえをつかんだかもしれない。
あとは嘘が嘘に見えないように気を付けて撮っていけばいい。特にハイライトの引退試合でのバックホームのシーン。白眉だった。CGは一切使っていないらしい。以後、終盤にかけて泣かせのシーンへと傾いていくのだが、結局どうなるのかは見に来るお客さんも全員知っているゆえ、今少しさらっと終われなかったものかと引っかかった。あまりに泣かせがしつこかったのえはないかと感じている。全体を見ても子供のころから現代に至る長期の構成を選んでしまったせいで、前半はずっと駆け足が続きしかもテンポがバラバラに感じる。どこか一点か二点くらいに絞ることはできなかったのか。
とはいえ、映画化が発表された時点から長い間ずっと楽しみにしていた一本。はい、僕は阪神ファンです(キリッ!)。それゆえ総じて肯定評価をしたい。実物の横田は九州の逸材としてドラフトで高卒2位。しかも背番号24と、球団も我々阪神ファンも非常に高い期待を向けていた。物語の終わりは実際の映像も加味した2年前のあのシーンとなる。エンドロールにも横田さんご本人の引退あいさつや生前の姿も見え、主要人物の現在の姿もオーバーラップされる。特にバックホームの現地映像はさっき見たものとほとんど同じではないか。
前述のように本業は役者ではないスタッフ兼任を多数起用したことも、なにやら「侍タイ」に近いテイストを感じさせた。正直に、誠実に、嘘ではない嘘をスクリーンに全力で描いた。その甲斐あってか前評判に比して動員も好調なようだ。
「横田慎太郎の生きざまを皆さんに知っていただきたい」という彼本人や遺族、関係した人々の願いは、この映画のヒットによって叶えられるであろう。野球を知らない人や、阪神ファン以外の方たちにもお勧めしたい。
映画チケットがいつでも1,500円!
詳細は遷移先をご確認ください。
