「予算200億円の超大作」ワン・バトル・アフター・アナザー Dickさんの映画レビュー(感想・評価)
予算200億円の超大作
❶相性:上。
➋時代:特定されないが、16年前:2004年前後と、現在:トランプ政権下の2020年前後と推定。
❸舞台:カリフォルニア:聖域都市バクタン・クロス(Baktan Cross、架空)、サンデェゴ、テキサス、メキシコ国境。
❹主な登場人物
①“ゲットー”・パット・カルフーン / “ロケット・マン” / ボブ・ファーガソン(レオナルド・ディカプリオ、50歳):
主人公。極左革命グループ「フレンチ75」のメンバー。爆発物の専門家“ロケット・マン”として権力との闘争に挑む。グループのリーダー的存在で過激なパーフィディアと親しくなり、ひとり娘シャーリーンをもうけるが、パーフィディアが逮捕され仲間を裏切ったため、グループは壊滅する。16年後、夢破れたパットはボブに、シャーリーンはウィラに改名し、共にバクタン・クロスで暮らしていた。ボブはアルコールと薬物依存で精神的にも脆くなっていた。そんな親子にロックジョーの魔の手が迫る。ボブは昔の仲間たちに協力を求め、奔走する。
★薬で気が抜けていたり、パスワードを思い出せない等のダメ要素がある一方、娘を助けるためには、命がけになる。そんな父親を演じたレオナルド・ディカプリオに親近感が沸く。
②スティーブン・J・ロックジョー大佐(ショーン・ペン、64歳):
カリフォルニアの移民収容所の指揮官。フレンチ75の活動を粛清するため追跡・逮捕・殺害を指示する。パーフィリアと関係を持つ。16年後、革命組織を検挙した功により表彰され大佐に昇進し、米国安全保障機関の大立者となる。白人至上主義の秘密結社「クリスマス・アドベンチャラーズ・クラブ」に入会するが、クラブでは異人種間の肉体関係を厳しく禁じているため、混血の娘ウィラがDNAテストで実子であることが分かり消そうとするが失敗し、クラブ側に処分される。
★変態軍人を怪演するショーン・ペンが天晴れ。
③セルヒオ・セント・カルロス(センセイ)(ベニチオ・デル・トロ、57歳):
ウィラに空手を教える先生で、移民コミュニティの支援者。フレンチ75の元メンバー。ボブとウィラを守るためリーダーシップを発揮する。
★いかなる危機にも冷静に対処し信頼を勝ち取るベニチオ・デル・トロが儲け役。
④ウィラ・ファーガソン / シャーリーン(チェイス・インフィニティ、24歳):
パットとパーフィディアの娘。16 歳になり、父親が作った“危険から守るためのルール”の中で成長している。近所の道場でセンセイから空手を習い中級者レベルになっている。その後、実の父がロックジョーと判明し、ロックジョーに襲撃されるがデアンドラに救われ、修道院に匿われる。その中で母パーフィリアの裏切りなどの真実を知り、自分のアイデンティティと向き合う。
⑤パーフィディア・ビバリーヒルズ(テヤナ・テイラー、34歳)
「フレンチ75」のメンバーの有色人女性。ボブの同志で妻となる。グループのリーダー的存在。「武力革命が唯一の方法」と信じて実行部隊として果敢に行動する。ロックジョーを性的・政治的・心理的に挑発し、それがロックジョーの執着と復讐心を煽る。娘シャーリーンを産むが、革命の道を優先させ、ボブとシャーリーンを捨てる。銀行強盗の失敗で逮捕されるが、ロックジョーに情報を与えることで刑務所行きを回避する。その後メキシコへ逃亡。終盤には娘への手紙を残すなど、かつての行動を反省し、自分なりの希望を見せる。
⑥デアンドラ(レジーナ・ホール、54歳)
「フレンチ75」のメンバー。ボブとパーフィリアの古くからの同志であり、ウィラを守ろうとする革命活動の中で情に厚い“母性的/支え役”的な存在として機能する。ウィラが襲撃を受けた際救出し修道院へ送り届ける。
⑦ティム・スミス(ジョン・フーゲナッカー):白人至上主義の秘密結社「クリスマス・アドベンチャラーズ・クラブ」に暗殺者として雇われる。ウィラとロックジョーを追い詰める。
⑧その他
ⓐ「フレンチ75」のメンバー:メイ・ウエスト(アラナ・ハイム)、ラレド(ウッド・ハリス)、ジャングル・プッシー(シェイナ・マクヘイル)、コムラッド・ジョシュ(ダン・カリトン)、タリーランド(ディジョン・ドゥエナス)、ハワード・サマーヴィル / “ビリー・ゴート” / “グリンゴ・コヨーテ”(ポール・グリムスタッド)。
ⓑ白人至上主義の秘密結社「クリスマス・アドベンチャラーズ・クラブ」のメンバー:ヴァージル・スロックモートン(トニー・ゴールドウィン)、サンディ・アーヴァイン(ジム・ダウニー)、ロイ・ムーア(ケヴィン・タイ)、ビル・デズモンド(D・W・モフェット)。
ⓒアヴァンティQ(エリック・シュヴァイク):ウィラの処分”を命じられるが、ウィラの人間性に触れて心が揺れ、命を賭してウィラを守る方向に動く。
ⓓダンヴァース(ジェームズ・レターマン):スティーブンの副官。
ⓔミニー(スターレッタ・デュポア):パーフィディアの祖母。
❺要旨
①16年前の極左革命グループ「フレンチ75」の活動から幕が開く。アメリカとメキシコの国境でフレンチ75は、捕えられた難民や移民を解放する、政治家を脅迫する、銀行を襲撃する等々の反権力闘争を繰り広げていた。その中にペルフィディアとパットがいた。
②ペルフィディアが、彼女に性的関心を持つロックジョーに逮捕される。ロックジョーは、仲間の情報を教えれば保護すると提案し、乗ったパーフィディアは情報を明かしてロックジョーと性的関係を結んだ後、メキシコに逃亡する。
③ロックジョーは情報を基にメンバーを次々と射殺や逮捕や逃亡に追い込む。
④パットはパーフィディアとの間に生まれた赤ん坊シャーリーンと共に身を隠す。
④16年後、カリフォルニアの聖域都市バクタン・クロスで暮らすパットは、ボブ・ファーガソンと名乗り、アルコールと薬物依存の情けない中年親父になっている。娘のウィラは聡明で快活な高校生に育っている。
⑤ロックジョーは、革命組織を検挙した功により表彰され大佐に昇進し、米国安全保障機関の大立者となっていた。
⑥ロックジョーは、白人至上主義の秘密結社「クリスマス・アドベンチャラーズ・クラブ」に入会するが、クラブでは異人種間の肉体関係を厳しく禁じている。
⑦ボブとウィラの居所を突き止めたロックジョーは2人を逮捕しようとする。ウィラの空手の師センセイの尽力によ
り、ウィラは、かっての同志デアンドラによって修道院に匿われるが、ボブは逮捕される。
⑧センセイはボブを脱獄させ、ウィラのいる修道院に運ぶ。
⑨ロックジョーは、ウィラのDNをテスト結果、自分の子であることが分かる。そのことが秘密結社に知られるとやばいので、彼女を消そうとする。
⑩ボブとウィラは協力してロックジョーを倒す。実際にロックジョーを倒したのはウィラであり、ボブの行動は空回りに終わった。
★見せ場がなかったレオ(笑)。
⑪死んだかに見えたロックジョーは瀕死ながら生還して秘密結社に迎えられる。しかし、彼は毒ガスで殺され、焼却される。
⑫帰宅したボブとウィラ。ボブはウィラにパーフィディアからの希望の手紙を渡す。もはや娘の将来を案じることのないボブは、オークランドの抗議運動に参加しに行くウィラを快く見送る。
★映画一巻の終わりでございます。まずはお楽しみ様でした(笑)。
❻考察
①26歳の若さで長編監督デビューをした1970年生れのポール・トーマス・アンダーソン(PTA)の作風は、
ⓐ初期(20歳代)は、ダイナミックなカメラワークと、ロバート・アルトマン式群像劇による混沌とした人間模様。
ⓑ中期(30歳代以降)は、人物を内省的なアプローチで掘り下げ、テーマを追求する。
ⓒ共通的には、登場人物の不器用性と、セリフ・映像・音楽を組み合わせた感情の追求、そして権威的は男性像、等に特徴があった。
ⓓ奇想天外で度肝を抜かれるものもあり、『マグノリア(1999)』で、カエルの大群が空から降ってくるシーンは今でも記憶に新しい。
②『リコリス・ピザ(2021)』から3年振りとなる本作は、原題の「戦いに次ぐ戦い」の通り、スピーディで、ハイテンションで、クレイジーで、荒唐無稽な出来事が次々と展開する。
③描かれるのは、白人至上主義の秘密結社「クリスマス・アドベンチャラーズ・クラブ」が陰で支配するアメリカ政府と、それに反対してレジスタンス活動を行う過激派革命組織「フレンチ75」との闘い。「暴力には暴力を」の世界である。
❼まとめ
①予算200億円の超大作なので、ヴィジュアル面での迫力ある見所が満載である。
②荒っぽい話だが、文句なしに楽しめる。多くの人が死ぬのは頂けないが、反面教師となっている。
③トランプ政権下の今のアメリカを批判する政治的メッセージが読み取れた。描かれた世界には同意出来ないが、観客に対し、「こんな世界にならないように皆さんが責任を持って行動して欲しい」との期待が込められていると感じた。
❽トリビア1:『アルジェの戦い(1966伊・アルジェリア)』
①ボブが自宅で『アルジェの戦い』を観ているシーンがある。彼のお気に入りの作品のようだ。
②『アルジェの戦い』は、フランスの支配下にあったアルジェリアで1954年から1957年にかけて首都アルジェで起きた事件を、脚本フランコ・ソリナス、監督ジロ・ポンテコルヴォにより、アルジェリア市民8万人の協力を得てドキュメンタリータッチで描いたもので、ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を受賞している。当時現地入りしていたフランス代表団が反発し、フランソワ・トリュフォーを除く全員が会場を退席したという逸話が残されている。
③フランス政府はベテランのマシュー将軍の指揮する空挺部隊をアルジェに送って鎮圧しようとする。その方法は、市内に数多くの検問所を設け厳しく取締まり、抜き打ち的に民家やアパートを襲って強制逮捕し、拷問で情報を吐き出させるというもの。口を割らない者は容赦なく殺された。その結果、レジスタンス組織は壊滅する。
④マシュー将軍の方法が、本作のロックジョーの方法と酷似している。成果をあげたロックジョーは表彰され大佐に昇進し、米国安全保障機関の大立者となるのだ。
⑤『アルジェの戦い』では、「フランスはアルジェの戦いには勝ったが、アルジェリア戦争には負けた」ことを示唆して終わる。
➒トリビア2:メキシコとアメリカの壁(出典:Wikipedia、globe.asahi.com)
①本作には、頑丈で長く高い壁が登場する。「メキシコとアメリカの壁」である。
②アメリカとメキシコの国境は、全長3,145kmに及ぶが、その内、1,100㎞以上に高さ4~9mの壁が設置されている。
★有名な「ベルリンの壁」は全長155Km、高さ約3〜4m。この壁は1989年11月に崩壊し、大部分が取り壊されたが、一部が保存され観光名所になっている。私は1996年に見学した。
③メキシコからアメリカへの密輸や密入国を防ぐことを目的としたこの壁は、トランプ氏以前の1990年に建設が始まり、今なお増強が続いている。
④トランプ氏は2016年の大統領選で、不法移民対策としてメキシコ国境に壁を建設することを公約したが、予算や議会の反対等で計画通りは進んでいない。
★その後も壁は世界で増え続けている。
❿トリビア3:アダム・ソムナー(出典:Wikipedia英語版)
①クレジットの最後に「For Adam」と出る。2024/11ガンのため57歳で亡くなったアダム・ソムナーへの献辞である。
②アダムはイギリス系アメリカ人の助監督兼映画プロデューサーで、ポール・トーマス・アンダーソの盟友であり長年にわたる協力者だった。他にもマーティン・スコセッシ、スティーヴン・スピルバーグ、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ、ポール・トーマス・アンダーソン、リドリー・スコット等と仕事をしたことで知られている。
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