父と僕の終わらない歌のレビュー・感想・評価
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厚労省がバックにいる割に配慮が足りない(内容につき核心に触れるためネタバレ扱い)
今年133本目(合計1,674本目/今月(2025年5月度)18本目)。
実はこの映画は厚労省は後援扱いではないですが、厚労省のサイトに応援していますというページがあり「今後、各市町村の役所や、老人ホーム等趣旨が当てはまるところにポスターの掲示を依頼する予定です」とあります。この意味ではドラえもんやパリピ孔明ほか一般の映画とはそもそも扱いが違います。
95分ほどの映画で、かつ、イギリスの原作品をもとにした映画であるため、原作を無視することはできない関係上、95分ほどの作品であちらこちらバラバラに触れるのがどうかな…と思いました。LGBTQの話などは最たる例で、その告白シーンやなじられるシーンほかはありますが、一方でLGBTQの当事者が婚姻やパートナーを組むとかという展開にならないし(もちろん、一般指定なので行為自体は描写もされない)、この設定も原作準拠なのだろうと思いますが、日本においては例えば、同じく差別対象になりやすい、軽度知的障害や「戸籍の問題」等、日本においてなじみのある内容に差し替えても良かったのでは、と思います。
趣旨的には一部、「うぉっしゅ」と似た部分があり、専門用語はそれより少な目ではありますが「見当識(けんとうしき)障害」といった、ある程度の認知語彙がないとわからない語彙が序盤に出てくるのがややどうかな、と思いました(言い換えや、補助字幕があっても良かったのでは、とは思える)。
ほか、「厚労省が実質的なバックにいる映画である」などのことを踏まえ以下まで採点しています。
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(減点0.2/厚労省がバックにいる映画であるのにエンディングロールに配慮が足りない)
厚労省がバックにいる映画は少なくはなく2か月に3本はあるかな(=1か月に0.67本ペース)といったイメージですが、自死を扱った「ザ・ホエール」だったか、それを最後まで見ると、厚労省からのお知らせとして「自死を考えている方はこちらまでお電話ください」という趣旨のメッセージ(いわゆる、いのちの電話)が最後に流れました。
本映画も結局のところ、アルツハイマー・認知症の面倒を誰が見るのかという論点がどうしても存在し、そのような「当事者の方で介護にお困りの方はこちらにお電話ください」等のメッセージがあっても良かったでは、と思います(映画内では何も存在しない)。
(減点0.2/法務省とのタイアップも足りない)
もちろん95分ほどの映画で色々あれもこれもは難しいですが、LGBTQによる差別的言動はいわゆる人権のお話になりますし、また、アルツハイマーにせよ認知症にせよそれが進んでいくと成年後見がつきます(ひとつの目安。これらの診断がついていると家裁で考慮の一つにされる)。このことについて触れても良かったのではないかと思いますが(これらを扱うのが家裁である以上、これらは法務省と厚労省の共管的な部分は一部存在します)、いかんせん95分の映画ですので…。
(減点0.2/通謀虚偽表示と第三者対抗要件の解釈が微妙)
通謀虚偽表示においては、当事者は善意の第三者に対抗できません(94条)。
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歌声が続いて欲しい
今日明日どころか瞬間に変わる父・哲太を寺尾聰さんが見事に自然に演じ、アルツハイマーの症状を考えさせられた。息子・雄太の松坂桃李さんと妻・律子の松坂慶子さんの難しい顔に胸が苦しくなる。
周りの人達は皆優しい。過去にそれだけの歌や活躍があってのことだが支えるのは家族だけではない。
それでも明日どうなっているかは分からない。雄太は涙をもっと流すのかもしれない。アルツハイマーの症状をよく知らない人間が勝手に言うことだが、歌が途切れたらかつてのテープを流し続け「どこかにいる」哲太を呼び戻して欲しい。
歌にならなくなる日が来るかもしれない。でもこの家族なら、周りの人達なら側を離れないだろう。寺尾聰さんの歌声が誰ものことを包み込んでいるように聞こえ、一人にしなければ大丈夫だよと言っているように思えた。
惜しいなと感じたのがディーン・フジオカさん演じる雄太のパートナーの亮一。とても優しい人で好感が持てるが一人で歌まで歌うので、その分の尺を親子三人に回しもっと見せて欲しかったと思ってしまった。ここまで出すのならいっそ雄太や律子と共に暮らすようになり、哲太を支える一人になるくらい重要人物にしても良かったのでは。やや中途半端で出た方がいいのか出ずに雄太がパートナーに電話するだけに留める方がいいのか考えてしまった。
認知症と向き合うには、患者の中にある古き良き思い出を探すことなのかなと思った
2025.5.23 イオンシネマ久御山
2025年の日本映画(93分、 G)
原案はサイモン・マクダーモットのエッセイ『The Songminute Man: How Music brought my father home again』
認知症になった音楽好きの父と向き合う家族を描いたヒューマンドラマ
監督は小泉徳宏
脚本は三嶋龍朗&小泉徳宏
物語の舞台は、神奈川県横須賀市
楽器店を営む間宮哲太(寺尾聰)は、根っからの音楽好きで、若い頃にはミュージシャンを目指していた
ある理由からそれを断念することになったが、高齢になった今でも、知り合いの結婚式で歌ったり、老人ホームでパフォーマンスを披露していた
幼馴染の聡美(佐藤栞里)の結婚式のために帰省した雄太だったが、その帰りに父の異変に気づいてしまう
それは、帰り道がわからないというもので、家族一緒に病院で検査をしてもらったところ、「初期型のアルツハイマー」と診断された
雄太は東京に戻ることをやめ、パートナーの亮二(ディーン・フジオカ)にその旨を伝える
そして、父に免許の返上をさせ、生活の支援をしていくことになったのである
物語は、施設の職員・田所(大島美幸)から、「本人のルーティンを続けさせれば」というアドバイスを受けて、父の好きな音楽を一緒になって歌う様子が描かれていく
そして、その時だけは父に戻ることがわかり、雄太はその様子を動画に取り留めていく
その動画は聡美によってネット上に拡散され、やがてはファンを獲得していき、レコード会社も動き始める、という流れになっていた
それと並行して、雄太の本業の様子が描かれ、そして、バズり倒した挙句に、その広告のステマだったのでは?と炎上案件へと発展してしまうのである
アルツハイマーにどう向かっていくかとか、その病気の実態をリアルに描くというテイストよりは、地元に愛されて支えられた家族が描かれていて、この部分が原案の骨子なのかな、と感じた
原案の中の人がどのようにレコードを出すに至ったのかはわからないが、この映画の延長線上で父がレコードを出せるとは思えない
どのような環境を用意して、どのような過程で実現させたのか、というところが気になってしまうのだが、そもそも音楽の風土が違うので、詳細に描いても意味はないのかな、と感じた
いずれにせよ、認知症によって起こる家族との断裂という部分がクローズアップされていく作品で、息子がどのように父の忘却を受け入れていくか、が描かれていたのだと思う
認知症患者の言動に右往左往するのが家族だと思うし、そこで傷つくのは家族側だけというところがキツくて、それをどのようにして落とし込めるのかは、それぞれの関係性に依ると言える
雄太と父の場合は、音楽という絆があって、それが最後の橋渡し的な役割を果たしていた
父が高齢で過去の接点を続けているかはわからないが、そう言ったものがある人なら、この映画は理解への一歩になるのかもしれない
認知症患者が最後まで覚えているのは、もっとも深いところにある良い記憶だと思うので、哲太にとっては「雄太の音楽の先生になった瞬間」というものが、一番大事なものだったのかな、と感じた
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