「もうすでに戦後生まれが89%という国で、どうすれば戦争を伝えることができるのだろうか」木の上の軍隊 Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
もうすでに戦後生まれが89%という国で、どうすれば戦争を伝えることができるのだろうか
2025.7.29 アップリンク京都
2025年の日本映画(128分、G)
原作は井上ひさし『木の上の軍隊』
終戦後も沖縄県伊江島にて留まった二人の軍人を描いた戦争映画
監督&脚本は平一紘
物語の舞台は、1945年の沖縄県伊江島
沖縄決戦を間近に控えた伊江島では、地元民と軍隊が共同で空路を作り、戦線基地の構築に励んでいた
そんな中、地元民の安慶名セイジュン(山田裕貴)と幼馴染の与那嶺幸一(津波竜斗)は、軽口を叩きながら作業をしていた
監督官を務める少尉の山下(堤真一)は、作業を怠る地元民を虐めながら、来たるべく地上戦に向けての指導を行なっていた
ある日のこと、空路予定地が爆撃に遭い、安慶名は辛くも塹壕に逃げ込んだ
そして、そこに与那嶺の母(大湾文子)と妹(玉城凛)がやってきてしまう
兵士は民間人を入れられないというものの、安慶名は自分が外に出ると言って二人を非難させた
だが、その直後に塹壕は爆撃に遭ってしまい、与那嶺の家族たちは亡くなってしまう
その後、なんとか与那嶺と合流した安慶名だったが、その事を突きつけざるを得なくなる
与那嶺は放心状態のまま戦地に置き去りにされ、家族と同じ場所に向かってしまったのである
物語は、辛くも敵襲から逃げ延びた安慶名と山下が、ガジュマルの木によじ登って難を逃れる様子が描かれていく
そこからが本編という感じで、山下と安慶名の噛み合わない掛け合いが続いていく
二人は終戦を知らないまま木の上で過ごすのだが、彼らはすでに地元民には認知されていた
米兵が残したもので空腹を満たし、時には普段食べないものも食する事を強いられる
当初は米兵のものなどという感じで突き放していた山下だったが、安慶名は衰弱を恐れて日本製の缶詰に入れ替えたりしていく
だが、徐々に山下の精神状態もおかしくなってしまい、奇行が増えていく
そして、ある日、彼らの食糧の隠し場所に一通の手紙が入っていたのである
映画は、山下と安慶名の会話劇となっていて、徐々に戦争状態から乖離していく様子が描かれていく
英語の読めない彼らはゴミの山で漁ったりもするのだが、そこには「Warning Restricted Area - Keep Out Authorized Personnel Only (警告 立入禁止区域 許可された人以外は立ち入り禁止)」と書かれていた
その場所は地元民のゴミ漁りの場にもなっていて、戦争の爪痕がしっかり残っている場所でもある
彼らがそこに到達するのは1年半後ぐらいだったが、彼らが木の上から降りた2年後でも変わらずに放置されていた
地元民の生活は見かけ上は元に戻ったが、もう引き返すことのできない現実というものが、そこかしこに残っていると言えるのだろう
この会話劇を楽しめるかどうかだが、重すぎる内容なのにそこまで感じさせない何かがあった
戦争が終わっている観客からすれば、彼らがどのようにして真実を知るのかを追いかけていくことになる
それは突然やってくるのだが、彼らも薄々感じていたのかもしれない
だが、予感を信じるに値するものがなければ動けず、それが悲劇を生み出しているとも言える
少しでも早く帰りたい安慶名は手紙で童心に返り、任務が唯一の拠り所である山下は、何かにつけて帰る事を拒んでいく
そして、ゴミ捨て場で会った老人(山西惇)から戦争が終わった事を聞き、そこに捨てられていた雑誌を見つけて悟ることになった
疑念渦巻く山下がどのような心の落とし所を見つけるのか、というのが本作のポイントであり、これまで信じ続けて、自分を鼓舞してきたものの瓦解というのは、意外にもあっさりしたものだったのである
いずれにせよ、リアリティが凄い作品で、二人しか出てこないのに飽きが来ない作品だった
睡眠不足で突入するとヤバそうだが、現地言葉で何を言っているのかわからないということもないので大丈夫だと思う
今年は戦後80年の節目の年であり、例年以上に戦争関連の映画も多い
さらにリバイバル上映なども重なるし、談話のためにしがみついている人もいたりする
いまだに戦後処理が終わらない国ではあるものの、戦争を経験していない国民の割合はすでに9割に達している
そう言った中で次世代にどうやって繋いでいくかが命題であるものの、昨今の情勢やモニターで見る他国の戦争、映画を通じて知るカッコよく描かれる戦争などの影響もあるので、ますます知らない人が増えるだろう
そんな中で泥臭い本作の訴求効果はいかほどかはわからないが、美化されがちな遠い島の話がこれほどまでに身近に思えるのは凄いことなんだと思った
