「毎熊さんのルックスで煙に巻かれがち」「桐島です」 かばこさんの映画レビュー(感想・評価)
毎熊さんのルックスで煙に巻かれがち
令和の時代の、つい昨年まで桐島が潜伏できていたことに驚き。
意外と現代の日本にもエアポケットのようなところがあって、それなら現在逃亡中の過激派も日本のどこかに潜伏しているかもしれない。
もっとも、手配されたのが50年も前だから、可能だったんだろうとは思う。
今なら顔写真付き映像付きで手配されたとたんにスマホで撮られSNSで追い詰められてそこまで逃走できない。「正体」の主人公のようになるでしょう。
職場に昔、三菱重工のすぐそばの職場にいて爆破事件に遭遇した人がおり、時々その惨状を話していたのを思い出した。
桐島はこの事件に関わってはいないが、その後の一連の爆破事件には関わり重傷者を出している。
「過激派」と呼ばれる人たちは、元々は社会正義について真摯に考えているまじめで純粋な人たちなんだろう。劇中の「さそり」の黒川が国家や資本家を糾弾する理屈はわかるしその通りと思うが、目的と手段となると理解を超える。彼らの目的は虐げた人たちへの償いでも搾取構造の是正要求でもなく、暴力と破壊行為によるただの報復と制裁に見える。実りがない。なぜ多くの人が賛同すると思ったんだろうか。
どんな素晴らしい思想でも、ちゃんと聴いて貰えなければ意味がない。過激な破壊行為に訴えて良いことなんかまるでない。むしろ優れた思想が、訴求手段のせいで悪しきものと認定されてしまうこともある、最低の悪手だ。
活動に身を投じた彼らはおおむね高学歴のインテリ、そして世間知らずで若い。
彼らの中には、もしかすると、びっくりするほど幼い「美しい戦士願望」があったかも。
かつて日本中を戦慄させた某宗教団体の幹部が、「宇宙戦艦ヤマト」にインスパイアされていた事実もある。
人って案外そんなものだったりする。
すべてが若気の至りだが、笑って思い出にできないほどの大事を引き起こしてしまったのが彼らだったりしないか。
逮捕された者は刑務所で現実と向き合い、刑期を終えたら出所して社会で市民として歩くことも出来たが、逃亡を続けるものは若気の至りから脱却できずにその延長線上を走り続けて拗らせてしまったかも。
以上は彼らと同時代性もなく、特に詳しい訳でもない自分のただの感想なので、もしかするとものすごく稚拙なものかもしれません。
演じた毎熊克哉が細身の穏やかで優しげで感じの良いインテリ風ワカモノなこともあり、本作の桐島は、一見、凶悪な過激派というよりあまり主体性がなく、まじめで誠実(なインテリ)であるがゆえに活動に参加、実直に破壊行為の役割を果たし、追われる身になった、不運な流転の人に見える。
朝目覚ましが鳴ると、おそらくトラウマになっているビル爆破のシーンを一瞬脳裏によみがえらせ、歯を磨きお湯を沸かし、インスタントコーヒーを飲む。長年にわたるルーチンに、少しづつ変化があることで、平穏な長い年月を表していて、この表現はうまいと思う。
そして、インスタントコーヒーの瓶の淵のシールがきれいに剝がされていたり、角砂糖をわざわざポットに入れていたり、インスタントコーヒーの詰め替えを律儀に瓶にいれかえたりする、桐島の几帳面な性格もこのシーンで良くわかる。
実直に仕事をし、人に優しく、壊れたアパートの階段を黙って修理してしまうような人。周囲の人望も厚く、なじみのライブハウスで仲間も作って、つつましく、だが豊かな日常を送っている桐島は、よくいわれるように「パーフェクトデイズ」を生きているように見える。
若い同僚が遅刻癖を注意されて逆切れして「俺が在日だからって差別してるんでしょう」と言い放つシーンと、不法と知りながら日本で働きたい外国人を出して、桐島が自分の物事の見方が浅く一元的であったことや、時代の移り変わりを思い知らされるところをさくっと描いている。
それでも桐島の思想を根っこから覆すには至っていないよう。
「時代遅れ」が刺さるのは、時代についていけない自分を投影して、そのままで良いと肯定されているようだから。
この桐島には、自分の人生に対する悔恨はあるけれど、しでかしたこと、多くの人を傷つけ恐怖に陥れたことに対する悔恨は見えない。反省も贖罪の意識も持っていないようだ。
メタボ検診を、「国と製薬会社の癒着」と吐き捨てるところ、当初の志がぶれていないのを感じた。
この映画を見たら、実在の桐島が最期に「桐島です」と名乗ったのも、もしかすると公安を欺ききった自分、公安に勝った自分を世間に誇りたかった気持ちが大きかったんじゃないかと思いました。
毎熊さんの風貌と雰囲気で大分煙に巻かれるが、実は若気の至りを、根本から修正することなく温存している、結構ヤバ目の人物として描かれているような気がする。
最後にAyaが出てきて、実はまだ生き残りがいるのを思い知った。「桐島くん、お疲れ様でした」と銃口を向けるAyaが、事件はまだ終わっていないと知らしめて、不穏を醸し出して終わる。
関根恵子さん、今でも匂い立つような美人です。
あや子は実は桐島のように日本に潜伏してたりして。
ただひとり桐島に気づいた多分空巣の、隣の甲本雅裕が良い味で面白かった。
そして、「桐島」が世の中で話題になった、今でしか作れなかったであろう映画と思いました。
メタボ健診は厚労省と日本医師会の癒着であることはバレバレ。製薬会社まで潤ったかは疑問ですが、ジェネリック医薬品会社と高橋英樹が潤ったことは確かでしょうね。
コメントありがとうございます。😊確かに役所広司さんの『パーフェクトデイズ』。
コレで爆・💣やってなければ 普通のイイ人だったかもですね。
ただ パン一個の窃盗でも 立ち小便でも 警察に捕まるわけにはいかないので 猫かぶってたのかもですね。
『逃げ切った勝利』を示すので無く 『真人間となって自首』を示して欲しかったです。
コメントありがとうございます。
キーナさんに惚れたのもそうでしょうが、自分でも練習してましたからねー元カノの放ったパワーワード・・でもテロに流行りも廃りも無いですが。
事実の部分はわかりませんが、この作中で描かれている霧島は正に「反省も贖罪の意識も持っていないようだ」なんですよね。
ある意味リアルであり「パーフェクトデイズ」を生きていても、ドラマとしては葛藤か更なる破綻の一つもみせてくれたらと感じてしまいました。




