「現状の日本が抱える問題にも間接的に触れる作品。おススメ。」TATAMI yukispicaさんの映画レビュー(感想・評価)
現状の日本が抱える問題にも間接的に触れる作品。おススメ。
今年72本目(合計1,614本目/今月(2025年3月度)6本目)。
この作品で扱われていること「それ自体」は史実ではないですが実際にあったできごとを他の問題(後述)と絡めて描いた作品で、それが日本でも一部当てはまる部分にもなっており良かったな、というところです。
まず、映画で示されるように、イランとイスラエルは歴史的にも非常に険悪な状況でにらみ合い状態です。このように、試合をするのも嫌だから棄権しろというのはよくある話で、柔道にせよサッカーにせよ、いわゆる「地域予選」があるような大手のスポーツではイラン、イスラエル(イスラエルを主軸とするとやはり衝突する国も多い)ほか一部で試合が成立しない等も見られます。
もっとも日本をはじめ多くの国では「政治とスポーツほかは別扱い」としますから、ロシアのウクライナ侵攻があっても、アイスホッケー等ロシアのスポーツ等の交流はもちろん続いていますし、諸般あって国として承認していないところでも試合が組まれれば政治論とは別に試合はします。台湾や北朝鮮等がそれにあたります。日本をはじめ大半の国はそうなのですが、政治とスポーツの交流をごっちゃごちゃにする国がいくつかあり、100年どころか500年も1000年もいがみ合うような国ではそれが今現在でも顕著で、その代表例がパレスチナ問題で、それに付随するイランということになります。
実際に起きた事件は男性の柔道出場がテーマとなっていましたが(結果的に棄権をほぼ強制された)、この映画では女性に主人公が変わっています。
このことは、イランにおいて女性特有の帽子(ヒジャブ)の着用を巡って国内で対立が起き、軍隊まで出動して難民まで出てきた「マフサ・アミニ(氏/さん)事件」を参照しており、彼女はいわゆるクルド人にあたります。この事件もいくつかの国は制裁を科していますが、日本は「遺憾に思う」程度で終わっています。
一方で日本のクルド人といえば1990年頃に、日本でもうすでに3K仕事として避けられていた解体業等に積極的に参加していた(イラン他ではメジャーな仕事なので、当時からいる方からすると「日本人はなぜこの仕事を嫌がるのか」ということのよう)彼らが住み着いたまま30年以上がたつ状況です。一方で日本の解体業といえばどうしても高齢者には難しいし、かといって若者が最初につく仕事としてはあまり認知されていない仕事になってしまっています。こうした「(純粋に日本人が就職できる仕事という観点で、社会から消えつつある職業」がまさにこの「解体業」であり(※後述)、一方でクルド人というカテゴリも上記のようにイラン・イラクのように人権思想が無茶苦茶な国に強制送還しましょうということにもできず、一方で日本で暮らすうえでは最低限のルールは守ってねということになるわけで、そうしたバランスを取りながら日本は動いているわけです。
※ 行政書士の資格持ちの一人の意見としては、日本が社会的にも世界的にも認知されている先進国だからこそ、客観的に見て明らかな難民は受け入れていく責務があるというように考えています。
※(上記後述としたもの) ほか、ダイヤモンドなどの貴金属を、ネックレスや腕輪などに加工する「高級(宝石)装身具作成」も、日本では在日韓国・朝鮮の方がその従事者では7~8割を占めます(東京には「御徒町」というその専門を扱う一帯がありますが、その部分の大半は韓国籍の方です。これも「日本人ができない、やりたくないことを引き受けて歴史が途切れていない例」になります(解体業ほど難しい仕事ではないが、独り立ちするのにかなりの年数を要する)。
映画の中ではクルド人といった語はでませんが、原作で参照されている事件の男性を女性にしたこと、またこの女性の上記の事件がクルド人であり難民となったことなども日本は全く無関係というワケではなく(先進国としてお金や経済物資を送っても何も解決しない)、日本がこれからどうあるべきか、より広義にいえば、「西アジア(トルコやイスラエル等含む)とどう向き合うべきか」という問題提起も(日本で見る分には)あるように思えます。
採点上特に気になる点までないのでフルスコアにしています。
決して「派手な」映画ではありませんが、日本からはるかかなたにある「人権侵害が無茶苦茶な国」で何が起きているのかといった知識をアップさせるには良い作品かな、というところです。