トッド・ヘインズ監督らを発掘した注目の映画スタジオ キラー・フィルムズって知ってる?
2024年6月14日 13:00
「KILLER FILMS(以下:キラー・フィルムズ)」という映画制作会社を知っているだろうか? 聞いたことがないという映画ファンも、もしかしたらウサギのロゴを見れば、ピンとくる方がいるかもしれない。
ヒラリー・スワンクがアカデミー賞、ゴールデングローブ賞の主演女優賞に輝いた「ボーイズ・ドント・クライ」(99)や、同じくジュリアン・ムーアが主演女優賞を総なめにした「アリスのままで」(15)、本年度アカデミー賞作品賞・脚本賞にノミネートされ、4月に日本公開された「パスト ライブス 再会」(23)など、賞レースを賑わす作品を多数世に生み出してきた映画スタジオで、その名は知らずとも手掛けてきた数々の名作は映画ファンならきっと馴染みがあるはずだ。
ニューヨークを拠点とする映画スタジオと言えば、近年はA24を思い浮かべる人も多いだろう。キラー・フィルムズは、A24よりも少し歴史が古く、クリスティーン・ベイコンとパメラ・コフラーによって1995年に設立、来年で30周年を迎える。90年代の設立以降、ラリー・クラーク監督・ハーモニー・コリン脚本の「KIDS(1995)」(95)やトッド・ソロンズ監督の初期作「ハピネス」(98)、オフ・ブロードウェイのミュージカルを映画化し今でも伝説的な人気を誇る、ジョン・キャメロン・ミッチェルの「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」(01)など映画シーンを塗り替えた名監督たちを多数輩出してきた。
とりわけ、トッド・ヘインズ監督との結びつきが強く、キラー・フィルムズの歴史はヘインズ監督の華麗なる映画作品の歴史と言っても過言ではない。なぜなら、キラー・フィルムズが手掛けた記念すべき1本目は、ヘインズ監督の長編デビュー作「ポイズン」(91)であり、その後日本でもヒットした「ベルベット・ゴールドマイン」(01)や、「エデンより彼方に」(02)、「キャロル」(15)、そして最新作「メイ・ディセンバー ゆれる真実」(7月12日公開)に至るまで、すべてのヘインズ監督の制作に携わっている。
スタジオ設立者の一人、ベイコンとヘインズ監督が大学時代の同窓生で、それから30年以上公私にわたり良好な関係を続けていることが大きい。
そんな、長年ヘインズと友人、そしてビジネスパートナーとして彼を支えるベイコンは、最初に脚本を読んだナタリー・ポートマンからヘインズに監督のオファーがあった「メイ・ディセンバー ゆれる真実」について、こう振り返る。
「彼のもとに脚本が届いたら、通常まず私が“彼はどんな反応をするだろうか”と考えながら読むんです。なぜなら私は30年も彼と仕事をしてきて、その点のレーダーを持っているから。面白かったのですぐに彼にも読んでもらったら『もうひとりの役はジュリアン(・ムーア)だ』と電話をかけてきたんです。既に脚本に入り込んでいました」
また、本作がヘインズ監督にどう響いたのかについて、「ストーリーはもちろん、多くのことが彼を魅了していました。ひとつはナタリー・ポートマンと初めて一緒に仕事ができる機会を得ること。また、彼女とジュリアンの化学反応も。さらに、チャールズ・メルトンのような貴重な逸材を発見していくプロセスもまた彼を魅了したようです」と語っている。
甘美な世界観と複雑に交錯する人間模様を映し出し多くの映画ファンを虜にしてきたトッド・ヘインズが、ナタリー・ポートマンとジュリアン・ムーアという豪華オスカー女優を迎えて贈る最新作『メイ・ディセンバー ゆれる真実』。
ふたりが繰り広げる演技合戦と心理戦のゆくえとともに、映画スタジオの歴史に想いを馳せながら鑑賞してみるのもいいかもしれない。
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