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村上春樹、唯一映画化してほしい長編作品は「アンダーグラウンド」 原作の映画化に期待することは?

2024年6月17日 13:00

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登壇した村上春樹、ピエール・フォルデス監督
登壇した村上春樹、ピエール・フォルデス監督

作家の村上春樹氏が、6月15日に母校である東京・早稲田大学大隈記念講堂で行われたアニメーション映画「めくらやなぎと眠る女」のイベントに登壇。自身の原作を始めてアニメ映画化したピエール・フォルデス監督との対談に参加し、映画化への思いを語った。

本作は、フォルデス監督が村上氏の6つの短編(「かえるくん、東京を救う」「バースデイ・ガール」「かいつぶり」「ねじまき鳥と火曜日の女たち」「UFOが釧路に降りる」「めくらやなぎと、眠る女」)を翻案し、2011年の東日本大震災から5日後の東京に生きる人々を描いた物語。大地震によって人生に行き詰まっていることにすら気付いていなかった人々が、自己のなかの真実を見つめる。早稲田大学国際文学館の「初夏の文芸フェスティバル」のなかで行われた本イベントには、村上氏との共著もある翻訳者の柴田元幸氏、同大学の権慧助教授も登壇した。

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最初に、映画の感想を問われた村上氏は、「僕、2回見たんだけど、とても楽しく見ることができました。僕、アニメの映画は正直言って、あまり見ないんです。どうしてかは分からないんだけれど、あまり興味が持てなくて。でも、アニメだということを意識しないで見ることができて、面白かったです」と語る。そして「ずっと昔に書いた短編なので、何書いたか、覚えていないんですよね。次どうなるのか、全然分からなくて。これは映画のためのオリジナルのシーンなのか、僕が書いたシーンなのか、違いも分からなかった。だから、すごく面白かったです」と、新鮮に楽しんだことを明かし、会場は笑いに包まれた。

画像3(C)2022 Cinema Defacto - Miyu Prodcutions - Doghouse Films - 9402-9238 Quebec inc. (micro_scope - Prodcutions l’unite centrale) - An Origianl Pictures - Studio Ma - Arte France Cinema - Auvergne-Rhone-Alpes Cinema

話題は、劇中に登場し、原作ファンの人気も高いキャラクター、“かえるくん”について。村上氏は、「かえるくん、東京を救う」が所収された短編集「神の子どもたちはみな踊る」の制作時を振り返り、「6つか7つ、小説が入りますので、それぞれに個性的な違いを作っていかないと、難しいんですよね。皆、退屈しちゃうから。そうしているうちに、変なものが出てくるんですよね。本作の場合だと、かえるくん。どうしてかえるくんが出てくるのか、いまとなっては全く思い出せないんだけれど。書いているうちに、かえるくんが出てきて。2階から侵入してくるみたいに。僕、文芸誌にその短編を連載していたので、編集者が『ちょっとこれは…‥』と首をひねっていて。いわゆる純文学から離れたスタイルだったので。でも、本にしてみると世界中で、かえるくんが1番うけるんですよね。僕も好きだし」と、愛着をのぞかせる。

フランス語版と英語版で、かえるくんの声を務めたフォルデス監督も、「私も映画化にあたって、脚本を書いているとき、急にかえるくんが出てきたんです。本当に素晴らしい瞬間で、素晴らしいキャラクターだと思いました。すごく教養があるし、同時に大胆だし、そういうキャラクターを映画のために作ることを楽しみました」と頷く。村上氏は、「ピエールさんの映画のかえるくんも、僕のイメージによく合っていて、面白かったです」と賛辞をおくった。続いて村上氏は、「短編6作品の組み合わせがとても面白くて、そのあたりを聞きたいです」と質問。短編小説を選ぶことにとても苦心したというフォルデス監督は、以下の通り、製作過程を述懐した。

フォルデス監督「『かいつぶり』を当初は入れていたんですが、最終的には、地下の通路という部分だけを残しています。最初はどうするか、全く決まっていなかったんです。ただ、これらの短編が好きで、すごく神秘的でマジカルなものをどうにかとらえたかった。最初は5つの短編、それぞれのアニメを作ろうと思ったんです。それで『かいつぶり』は、それぞれの短編の間にジョークのように、少しずつ入れていこうと。ただ、映画を作る過程はかなり時間がかかりますので、思考を深める時間、脚本について考える時間がたっぷりありました。少しずつ少しずつ、自然に物語と物語の間がつながってきたんです。植物の根が絡み合っていくように。そして、いろんな短編の登場人物が、もしかしたら同じ人の別の側面なのかもしれないと感じるようになったんです。このような形で、徐々につながりが見えてきて、村上先生のいくつかの短編を、ひとつの物語につなぎ合わせてきたんです」

画像4(C)2022 Cinema Defacto - Miyu Prodcutions - Doghouse Films - 9402-9238 Quebec inc. (micro_scope - Prodcutions l’unite centrale) - An Origianl Pictures - Studio Ma - Arte France Cinema - Auvergne-Rhone-Alpes Cinema

村上氏はさらに気になるポイントとして、「ピエールさんは、日本に長期滞在したことはあるんですか? 日本の風景が面白く、よく描かれていたから、とても感心したんです」と質問。フォルデス監督は、長期での滞在はなく、自身の解釈やインスピレーションで、日本の描写を形作っていったことを説明した。村上氏は「北海道のラブホテルがすごくリアルだった、内装が」と笑い交じりに指摘すると、フォルデス監督は「ラブホテルの写真をいろいろ見て、自分のバージョンを作ってみたんです」と、笑顔で返していた。

画像5(C)2022 Cinema Defacto - Miyu Prodcutions - Doghouse Films - 9402-9238 Quebec inc. (micro_scope - Prodcutions l’unite centrale) - An Origianl Pictures - Studio Ma - Arte France Cinema - Auvergne-Rhone-Alpes Cinema

村上氏は、自身の原作が映画化されることを、どう感じているのだろうか。村上氏は、「僕、本作の前に、『バーニング』『ドライブ・マイ・カー』という映画があって、どちらも短編小説から作った映画なんですよね。短編って、わりに映画にしてもらうのは嫌じゃないんですよね」と語る。柴田氏が「長編はあまり望まないとおっしゃいますが……」と聞くと、「短編小説だと、映画を1本作るには、監督自身のものを足していかないといけないから、そうすると面白いものができる傾向がある。長編はどうしても引く作業になってしまうんですよね、映画におさめるのは大変だから。そうすると、短編から作った方が意欲的なものができる気がするんですよね」と思いを吐露し、次のように考えを伝えた。

村上氏「本作を見て思ったのは、だんだん、僕がどういうものを求めているか、映画関係の方が理解してきてくれているんじゃないかなと。『バーニング』『ドライブ・マイ・カー』、そして本作にしても、わりにぴったり、やりたいことと、やってほしいことが合っているんですよね。それが、すごく素晴らしいことだと思うんです。僕の書いたものをそのまま映画にするんじゃなくて、そこに何かを付け加えて、新しいものにしてほしいというのが、僕の求めていることなんです」

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最後に、映画化したい&映画化してほしい作品について、話が及んだ。フォルデス監督は、「ドライブ・マイ・カー」を、自分も映画化したいと考えていたそう。村上氏が、「唯一映画化してほしい長編作品」として選んだのは、地下鉄サリン事件の関係者62人にインタビューを敢行した「アンダーグラウンド」。「映画にしてくれると、すごく嬉しいなと思うけど、難しいでしょうか」「いままで、(映画化の)話はなかったです。いろんな人のボイスが詰まっている本だから、そういうものを映画にしてもらえると、すごく面白いだろうなという気はするんですが」と、期待を寄せる。「あれは“日本人の再起”みたいなものの集積だと思ってるんです。フィクションなのか、ノンフィクションなのかわからないけれど、とにかく映画にしてもらえるといいな」と、呼びかけた。

イベントの締めくくりとして、村上氏は「僕は1968年に早稲田大学に入りまして、文学部の映画演劇科に行ったんですよね。映画を本当にやりたかったけど、小説家になって良かったです。というのは、小説家の方が楽だから。通勤ないし、会議ないし、資本を集めなくていいしね。本当に楽で良いですね」と挨拶。イベントは盛況のうちに幕を閉じた。

めくらやなぎと眠る女」は、7月26日からユーロスペースほか全国公開。


【「めくらやなぎと眠る女」あらすじ】
画像7(C)2022 Cinema Defacto - Miyu Prodcutions - Doghouse Films - 9402-9238 Quebec inc. (micro_scope - Prodcutions l’unite centrale) - An Origianl Pictures - Studio Ma - Arte France Cinema - Auvergne-Rhone-Alpes Cinema

物語の舞台は、2011年の東京。東日本大震災から5日後、被害を伝えるテレビのニュースを見続けたキョウコは、置き手紙を残して、夫・小村のもとから姿を消した。妻の突然の失踪に呆然とする小村は、図らずも中身の知れない小箱を女性に届けるために、北海道へと向かうことになる。同じ頃のある晩、小村の同僚・片桐が家に帰ると、そこには2メートルもの巨大な“かえるくん”が彼を待ち受けていた。かえるくんは迫りくる次の地震から東京を救うため、こともあろうに控えめで臆病な片桐に助けを求めるのだった。

めくらやなぎ、巨大なミミズ、謎の小箱、どこまでも続く暗い廊下――大地震の余波は遠い記憶や夢へと姿を変えて、小村、キョウコ、片桐の心に忍び込む。人生に行き詰まった彼らは、本当の自分を取り戻すことができるのだろうか――。

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