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「雨の中の慾情」片山慎三監督、「1本1本新しい挑戦をしようと意識しています」【第37回東京国際映画祭】

2024年10月27日 17:00

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片山慎三監督
片山慎三監督

第37回東京国際映画祭のコンペティション部門に選出された「雨の中の慾情」の片山慎三監督が、取材に応えてくれた。

貧乏な漫画家・義男(成田凌)はある日大家の男に誘われ、文学青年崩れの伊守(森田剛)と共に、薄幸な女性・福子(中村映里子)の引っ越しを手伝う。数奇な三角関係のストーリーが展開される中、次第に義男の苛酷な人生が浮かび上がる。

自主製作で作った「岬の兄妹」(2018)が劇場公開され、2作目の「さがす」(2022)が日本映画監督協会新人賞、ブリュッセルのシネマアジア・フィルム・フェスティバルで作品賞を受賞した、片山慎三監督の長編第3作。海外でも翻訳が出版され、いまや国際的評価の高い漫画家・つげ義春(1937~)のいくつかの短編を、ラブストーリーの中に再構成し、原作漫画のシュールな味はそのままに、映画独自の話法を試みた斬新な作品となっている。

撮影を行なった台湾のロケーション効果は絶大で、どこか無国籍風。迷宮めいた本作にはネタバレ厳禁の要素が多く、上映前に記事にできることは限られているが、映画を観てから読んでいただければ、より明確な作品像を思い描けるように取材を行ったつもりである。【取材・文/赤塚成人(四月社)】

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──監督は東京国際映画祭のコンペ初選出になります。

片山慎三監督(以下、片山監督):コンペに選出されるなんて光栄です。

──単独の長編監督作としてはこれが3作目。「岬の兄妹」「さがす」、そしてこの「雨の中の慾情」と、一作ごとに違う作風を試している印象を持ちましたが?

片山監督:1本1本新しい挑戦をしようと意識しています。まだ自分の作風は定まっておらず、撮り続ける中で見つければいいと。どんな作品が自分に合うのか、模索している最中です。

──今回、つげ義春さんの作品の映画化ということで、意識したことは?

片山監督:つげさんの漫画に描かれる人物は、どこか哀愁があってチャーミングです。だからその魅力を損なわないように、出番の少ない俳優でも印象が残るように心を配りました。

──タイトルにもなった「雨の中の慾情」は、1981年に発表されたわずか19ページの短編です。本作ではこれに「夏の思いで」「池袋百点会」「隣りの女」の3編がブレンドされて、意想外の世界が展開されます。

片山監督:4つの話をまとめるにあたって、まずラブストーリーにしたいという思惑がありました。それで「池袋百点会」に登場する貧乏な漫画家とウェイトレスの福子、文学青年崩れの伊守、「隣りの女」に登場する大家の4人をピックアップし、恋愛劇に仕立てました。主人公である義男の感情が全編を貫いていれば、映画としてうまくいくと考えました。

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──プレスシートに「ラブストーリー」を構想する一方、「別れ」をテーマにしたとあります。

片山監督:その通りです。ラブストーリーといっても、うまくいく男女のイメージは自分には湧かず、これまで観てきた恋愛映画も別れをテーマにした作品が印象に残っていたことから、その路線で物語を思い描きました。

──つげさんというと、読者は夢と旅、そして私小説的な四畳半の世界を思い浮かべるはずですが、この映画は夢と旅の要素はあっても、全然私小説的じゃない。ある種、壮大でオペラティックな作品に仕上がっています。つげさんの持つイメージをラブストーリーの要素を加えて、モダン化しようとされたのでしょうか。

片山監督:自分が描きたい世界を見つめたとき、原作をそのままやってよいのかという迷いがあり、より映画的に、ドラマティックに見せるにはどうすればよいのか思い悩みました。台湾にシナリオ・ハンティングに行った際、城や戦争のシーンを思いついて、シナリオに加えることにしたんです。

──すると台湾の風景に触発されて、話は変わっていった。シナリオ・ハンティングに行かなかったら、戦争の部分はなかったかもしれない?

片山監督:なかったです。

──つまり、最初は大江崇允さんと2人で脚本を書いていましたが、 城や戦争の設定は後で片山監督自身が盛り込んだ?

片山監督:そうです。

──それだけ、台湾の風土に深く魅了されたのですね。

片山監督:風土はもちろんですが、歴史に触発されました。台湾は中国に近く、僕が撮影する候補地を探しに行った2022年、金門島は軍事的緊張に包まれていました。そうした状況に接し、日本とアジアの歴史を反映させたいと思いました。

──台湾は都市部のほか、地方にも映画を撮影するサポート制度があって大変充実しているそうですね。嘉義市での撮影はいかがでしたか。

片山監督:台湾の映画スタッフやロケーション協力してくださった方々は、監督がやりたいことを実現させるために熱心に動いてくれるので、撮影は日本よりもやりやすかったですね。折角、ロケハンしても日本ではたいてい許可が下りませんが、台湾では希望した場所でおおよそ撮影することができました。対応がすごくフレキシブルなんです。僕は直感的な人間だから、場所から得たインスピレーションを持って撮影に臨めるのは、大変有り難かったです。

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──映画は、夢と現実が絡み合う展開で、すんなりわかりにくい部分もあります。でもどれが現実の場面なのか、見定めることができれば、「なるほど」とわかる仕掛けになっています。たとえば、ビリー・ワイルダーの「サンセット大通り」(1951)のような、倒叙形式による語り口を意識した?

片山監督:それは凄くあって、「ジェイコブス・ラダー」(1990)や「エターナル・サンシャイン()2004)のように、主人公の感情が魂みたいに漂っていて幻想を見ている。大事なことはそれだけで、あとは時系列が少々たどれなくても、義男が味わう悪夢を直に体験してもらえたらそれでいいと考えました。

──義男役の成田凌さんは、演じていて時系列が混乱したのでは?

片山監督:しかも、現場では飛び飛びに撮影していきますからね(笑)。でも実際のところ、成田さんは各シーンをとてもよく理解してうまく演じてくださいました。

──福子役の中村映里子さんも、そこはかとない感じが役にぴったりでした。

片山監督:中村さんは呑み込みが早く、現場で出す指示にも的確に演じてくださいました。「岬の兄妹」のオーディションに来て頂いてからのご縁で、本人は割りかしあっけらかんとした性格です。演者によってはジメジメしそうな役柄ですが、適度な情感を装ってくださいました。

──伊守役の森田剛さんが堂に入った演技を見せます。

片山監督:森田さんは無口で、役への向き合い方がストイックですが、現場で僕が何か言う度に笑ってくださり、いい演出をできたと思わせてくれます。おかげで、撮影中は心の安定を保つことができました(笑)。

──本作の映像は、監督の従来の作品に比べて色使いがカラフルですね。

片山監督:台湾ならではの光を意識して、緑と赤を多く用いました。日本と同じ光じゃないなと。

──東京国際映画祭には海外の来場者も大勢いらっしゃいます。来場される観客にどう作品をご覧になってほしいですか。

片山監督:先入観なく純粋にフラットに見てほしいですね。戦争や娼館のシーンもありますが、それらは過去の歴史的事実です。それより、主人公の義男が何を感じてどう生きたのかを見つめ、物語の底にある反戦への思いを汲んでいただけたらうれしいです。

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