【世界の映画館めぐり】韓国・全州 レトロな老舗劇場「チョンジュ・シネマタウン」でイ・ソンギュンさん遺作を鑑賞
2024年8月17日 12:00
映画.comスタッフが訪れた日本&世界各地の映画館や上映施設を紹介する「世界の映画館めぐり」。今回は夏休みに韓国を訪れた編集部スタッフが、全州(チョンジュ)国際映画祭の開催地、全州市の映画館を訪問しました。
古都、全州はソウルから200kmほど南に位置する内陸の街です。今年5月の開催で第25回を迎えた全州国際映画祭では43カ国からの232作品が上映されたそう。今年は三宅唱監督の「夜明けのすべて」がオープニング作として選ばれ、9月6日公開の太田達成監督作「石がある」が2023年のインターナショナル・コンペティション部門グランプリ受賞と日本映画ともゆかりの深い映画祭です。
筆者の2024年上半期公開の劇映画のベスト1が「夜明けのすべて」だったので、いつか全州国際映画祭に行ってみたいと興味を持ち、また、過去に同映画祭の審査員や司会を務めた韓国の名優クォン・ヘヒョさんが「WALK UP」(ホン・サンス監督)のPRで来日した際には、 街の魅力(https://eiga.com/news/20240629/4/)を教えていただいたので、ソウルから足を延ばしてみました。
ソウルからは高速バスで約3時間。KTX(韓国高速鉄道)を使えば2時間強くらいで到着できます。1時間ほど高速を走ると、車窓からは日本の東北地方のような田園風景が広がり、同じ稲作文化を持つ東アジアの国なのだなあと親近感が沸きます。
高速バス内では、前方のモニターで無音でテレビ番組が放映されていました。ハングル字幕なので詳細はわかりませんでしたが、タイミングよく映画のコーナーが始まり、役所広司さんがカンヌ映画祭で男優賞を獲得した「PERFECT DAYS」が取り上げられていました。外国で日本映画がどのように捉えられているのか、興味深いですね。
道中やや渋滞に巻き込まれ、30分ほど遅れて無事全州のバスセンターに到着。“韓屋(ハノク)”と呼ばれる、瓦屋根の建造物が立ち並ぶ、古い町並みが残る旧市街に宿泊するため、市内中心部から路線バスで移動しました。タクシーでもさほど時間も料金もかかりませんが、googleマップや翻訳機能を駆使して、地元の方々が利用するバスに乗り込むのは、「果たして行先は正しいのだろうか…」と不安と冒険心が掻き立てられる、旅の楽しみの一つです。
全州国際映画祭は、全州市・完山区で行われます。映画館のほか、たくさんのレストランやショッピングスポットが立ち並ぶ繁華街です。筆者は全州に来る前に、富川国際ファンタスティック映画祭を訪問しており、オブジェ設置などで富川市街地が映画祭の街であることをPRしていたのが印象的でしたが、全州はそれ以上。
「映画通り」と名付けられた通りがあり、映画を撮影する人々の銅像や街と映画の歴史を説明する看板が通りの入口付近に設置され、残念ながら1館は休館していましたが、シネコンや中規模劇場が数館まとまっていて、歩いてはしごが可能です。映画関係者や研究者が集うシネマテークのような施設もありました。
筆者が気になったのは、壁面に「ニュー・シネマ・パラダイス」をはじめ、世界の往年の名作のワンシーンが描かれた古い大きな映画館です。ここ、看板がすべてハングル表記のため、ネットでの地図情報を駆使して「チョンジュ・シネマタウン」という名の劇場であることを確認しました。映画祭開催期間ではない、普通の週末だったからでしょうか、入り口の照明がやや落とされた暗い雰囲気に入場を一瞬ためらいましたが、一歩入ると、レトロな雰囲気の広いロビーに、古い映写機が展示され、映画ファンのための空間が広がっていました。
シネコンで見かけるような券売機はなく、チケット売り場の女性に尋ねたところ、この日は4作の上映があり、すべて韓国映画で英語字幕はない、とのこと。どれも新作で、チラシを指さし、これはコメディ、これはホラーなど、簡単にジャンルを説明してくれました。筆者が気になったのは、7月12日に封切になったばかりで、カンヌ出品のロゴのついた「탈출」という作品。英題は「Project Silence」のようです。主演俳優に見覚えがあるなあ……と記憶をたどると、「パラサイト 半地下の家族」などに出演、昨年末に亡くなったイ・ソンギュンさんでした。
日本ではちょうどイさんが出演する「スリープ」(23)が公開中、「Project Silence」についての情報はまだ出ていませんが、2023年製作のこの作品もイさんの遺作の一つのようです。俳優としても活躍するキム・テゴンが監督、昨年のカンヌ映画祭ミッドナイトスクリーニング部門に出品され、日本でも人気の高いチュ・ジフンも出演していました。
濃霧の日に連鎖追突事故が起き、空港へ繋がる大橋は崩壊の危機。そこで、統制不能となった軍事用実験犬たちが逃げ出し、取り残された人々を襲う……という極限状態を描いたスリリングな物語でした。セリフはなにひとつわかりませんでしたが、災害脱出ものなので話の筋は大体理解でき、とりわけハイレベルなCGの迫力に驚きました。日本での公開を期待したいです。
古いビルの数フロアそれぞれにスクリーンがある「チョンジュ・シネマタウン」は、1980年代~90年代半を思わせる内装がレトロで、テーマパークにいるような気分に。座席は近年に新調したのか、とてもきれいでクッション性の高い椅子の座り心地がとても良かったです。しかし、この回の観客は私ひとり(その理由は後述します)。大きなスクリーンでの上映だったので、お客がいないさみしさはありましたが、まるで映画会社重役のための特別試写のようなぜいたくな気分で鑑賞できました。チケットは7000ウォン、最新作なのにとても安い!
映画祭が開催されるほどの街なのに、「シネマタウン」にはなぜお客がいなかったのだろう……と思いましたが、実は、韓国の最大手シネコンが「シネマタウン」の目の前にあるのです。最新韓国映画は同じラインナップを上映しており、ゲームセンターも併設されたチケットフロアは若者中心に大賑わいでした。しかも、「インサイド・ヘッド2」や「ドラえもん」など外国の最新作も上映されています。もちろんネットでチケット購入できたり、ポイント特典などもあるのでしょうから、スマホ世代はこちらのシネコンに流れてしまうのだろうなあと推察しました。
しかし、劇場を楽しむ、という点では全州にしかない老舗劇場「シネマタウン」で特別な経験ができるので、日本から全州を訪れる映画ファンには最新シネコンとぜひレトロな老舗劇場をはしごするのをおすすめしたいです。映画通り一帯にはたくさんのお店があるので、グルメもショッピングも楽しめます。
全州の旧市街にある韓屋村は、日本だと京都、奈良、金沢、沖縄の竹富島のような雰囲気です。朝鮮王朝時代の史跡「慶基殿」をはじめ、多くの映画やドラマのロケ地にもなっているそう。「全州、ロケ地」で検索すると、たくさんのタイトルが並びます。大きな通りはかなり観光地化されていますが、細い道沿いにはアートギャラリーがいくつもあり、映画も含め、全州市民の文化芸術への関心の高さがうかがえます。
グルメの街としても知られているそうで、韓国の無形文化財にも指定されたビビンパ発祥の地なのだとか。筆者は、週末に夜市が開かれる下町の市場で見つけた全州のもうひとつの名物、スンデが気に入り2泊3日の滞在で異なる店で3度も食べてしまいました。全州特産のマッコリとの相性も抜群です。お酒を飲まない方には「ハノクマッコリ」と名付けられた、アルコール分を飛ばして、シナモンなどで風味付けした飲料がおススメ。これは飲むスイーツのようで、甘くさわやか、発酵飲料でもあるので美容や健康にも良さそうです。
地方都市のいいところは、街の見どころがコンパクトにまとまっていること。インターネットから予約できる韓屋ゲストハウスもたくさんあり、今回は、「娘が日本に住んでいるんです」と日本語で優しく対応してくださったオーナーさんのお宅の一室にお世話になりました。映画をはじめ、古都&アート散策&市場めぐりと、さまざまな楽しみ方ができる全州、今後の映画祭開催中の訪問への期待がひときわ高まりました。
フォトギャラリー
Amazonで関連商品を見る
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
中毒性200%の特殊な“刺激”作 NEW
【人生の楽しみが一個、増えた】ほかでは絶対に味わえない、尖りに尖った映画体験
提供:ローソンエンタテインメント
ライオン・キング ムファサ NEW
【ディズニー史上最も温かく切ない“兄弟の絆”】この物語で本当の「ライオン・キング」が完成する
提供:ディズニー
大人気マンガを実写化…大丈夫か!? NEW
「ファンを失望させない?」製作者にガチ質問してきたら、想像以上の原作愛に圧倒された
提供:東映
ラスト5分、涙腺崩壊――
【珠玉の傑作】いじめで退学になった少年の、再生と希望の物語。2024年の最後を優しい涙で包む感動作
提供:キノフィルムズ
映画を500円で観る“裏ワザ”
【「2000円は高い」というあなたに…】知らないと損する“超安くなる裏ワザ”、こっそり教えます
提供:KDDI
モアナと伝説の海2
【モアナが歴代No.1の人が観てきた】神曲揃いで超刺さった!!超オススメだからぜひ、ぜひ観て!!
提供:ディズニー
【衝撃作】ハマり過ぎて睡眠不足に注意!
ショッキングな展開に沼落ち確定…映画.comユーザーに熱烈にオススメしたい圧巻作
提供:hulu
関連コンテンツをチェック
シネマ映画.comで今すぐ見る
内容のあまりの過激さに世界各国で上映の際に多くのシーンがカット、ないしは上映そのものが禁止されるなど物議をかもしたセルビア製ゴアスリラー。元ポルノ男優のミロシュは、怪しげな大作ポルノ映画への出演を依頼され、高額なギャラにひかれて話を引き受ける。ある豪邸につれていかれ、そこに現れたビクミルと名乗る謎の男から「大金持ちのクライアントの嗜好を満たす芸術的なポルノ映画が撮りたい」と諭されたミロシュは、具体的な内容の説明も聞かぬうちに契約書にサインしてしまうが……。日本では2012年にノーカット版で劇場公開。2022年には4Kデジタルリマスター化&無修正の「4Kリマスター完全版」で公開。※本作品はHD画質での配信となります。予め、ご了承くださいませ。
父親と2人で過ごした夏休みを、20年後、その時の父親と同じ年齢になった娘の視点からつづり、当時は知らなかった父親の新たな一面を見いだしていく姿を描いたヒューマンドラマ。 11歳の夏休み、思春期のソフィは、離れて暮らす31歳の父親カラムとともにトルコのひなびたリゾート地にやってきた。まぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、2人は親密な時間を過ごす。20年後、当時のカラムと同じ年齢になったソフィは、その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、大好きだった父との記憶をよみがえらてゆく。 テレビドラマ「ノーマル・ピープル」でブレイクしたポール・メスカルが愛情深くも繊細な父親カラムを演じ、第95回アカデミー主演男優賞にノミネート。ソフィ役はオーディションで選ばれた新人フランキー・コリオ。監督・脚本はこれが長編デビューとなる、スコットランド出身の新星シャーロット・ウェルズ。
ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。