「愛に乱暴」チェコの映画祭での反応は? 森ガキ侑大監督、現地の観客は「映画の読み取り能力が高すぎる」
2024年7月8日 18:00
チェコのカルロヴィ・ヴァリ映画祭(第58回)のメインコンペティション「クリスタル・グローブコンペティション部門」に選出された森ガキ侑大監督の長編映画第3作「愛に乱暴」(主演:江口のりこ)が、現地時間7月4日にワールドプレミア上映を迎えた。このほどレッドカーペットの模様、ワールドプレミア上映の舞台挨拶と上映後の様子、翌日に行われた現地映画祭参加者とのQ&Aの模様が明らかになった。
世界で最も古い映画祭のひとつとして、1946年から開催されているカルロヴィ・ヴァリ国際映画祭は、毎年世界中から200本の映画が上映される。「クリスタル・グローブコンペティション部門」は、2000本を越える応募作品の中から選りすぐりの12作品が選出され、映画への優れた芸術的貢献に対して最優秀作品賞をはじめ5つの賞が授与される。東欧・中欧の映画ファンが一同に会する映画の祭典となっており、世界中から700名を超えるジャーナリストたちも集まった。
ワールドプレミアとなる公式上映は、7月4日午後8時(現地時間)からメイン会場・グランドホール(1131席)で満席スタート。冒頭に一緒に映画を観るコンペの審査員たち(「パスト ライブス 再会」などのプロデューサー:クリスティーン・ベイコン、エミー賞受賞俳優のジェフリー・ラッシュ、「LAMB ラム」の脚本家ショーンら)が紹介された後に、森ガキ監督、横山蘭平プロデューサー、吉田卓麻プロデューサーが登壇した。
森ガキ監督がチェコ語で「やあ!」という意味の「アホイー!」と第一声を上げると、会場は笑い声のあとに拍手が広がり、さらに覚えたてのチェコ語で「カルロヴィ・ヴァリ映画祭へご招待頂きありがとうございます。幸せです」と挨拶をすると、会場は大きな拍手と歓声に包まれた。その後、日本語で「この映画愛に溢れる映画祭にお呼ばれして、こうやってチェコで皆さんの前でこの映画が上映できることを本当に幸せだと思っています。この作品も(このような場で)皆さんに見て頂けるということは、すごく幸せな作品だと思っています。今は僕らだけがここに立っていますが、たくさんの日本のスタッフと丁寧に丁寧に紡いで本当に自信のある作品になったと思っています。そのスタッフへの敬意も込めて、今日は皆さんに楽しんで頂ければと思っています」と日本に残るスタッフへの感謝を込めたメッセージを披露した。
上映中は途中で笑い声が起こりながらも、後半になると水を打ったように静まり緊迫感が会場内に充満。映画が終わり、場内が明るくなると、満面の笑みの観客たちが森ガキ監督に惜しみなく拍手を送り続けた。その後ホールのロビーでは鑑賞後の観客たちに囲まれ質問攻めにあった森ガキ監督は「熱量がすごかった。本当に皆さん映画が好きなんだと感じた。ものすごく考察されていて、ここはどうだったのかと色々感情的なことも技術的なことも聞かれた。質問に対して『その通りです』というと、『おー!予想が当たった!』と盛り上がったりしてくれました。あと画面が美しかったと、とにかくビューティフル、ビューティフルと言われました」と語っていた。
翌日は「007 カジノ・ロワイヤル」の撮影でも使われたグランドホテルプップ内のプップホールでQ&A付きの上映が行われた。こちらも416ある座席は即日完売。上映が終了して森ガキ監督が登壇すると、拍手が沸き上がり質問を募ると次々と手があがった。
観客からはまず「主人公の桃子の演技が素晴らしかった。撮影中は演じるのが苦しかったのでは?」という質問が。「桃子はどんどん追い込まれて崩壊していく役なので、後半になるにつれて撮影は苦しかったと思います」と応じると、続いて「桃子役のキャスティングはいつも組んで信頼している俳優をキャスティングしたのか?」という問われ、森ガキ監督は「江口さんとは以前ドラマとCMでご一緒したことはありますが、映画は初めてでした。すごく難しい役だったので、この役は江口さんじゃないとできないんですと、ラブコールしました」と話していた。
また以下のようなQ&Aも展開した。
A. 主人公桃子の機微を、観客に彼女の目線と一緒になって感じてもらいたかった。余分な情報をなるべく入れずに彼女と一心同体になるようにスタンダードサイズにしました。
A.ロケができる家を探すのはめちゃくちゃ大変でした。母屋とはなれがあって、床下を掘ってもよくて、最後に家を××してもいいところという大変な条件を満たせる家を探すのに1年ぐらいかかりました。
そして「チェコの離婚率は60%と非常に高い。主人公は中々離婚しないが日本は離婚しにくいのか?」「日本では女性が一度キャリアをリタイアすると復帰が難しいのか?」「映画にX(旧twitter)を使ったトリックが出てきたが、日本人はSNSをあまり利用しないイメージがあった。実際はどうなのか?」など日本の社会への関心が高い質問も相次いだ。
映画を深く考察しようとする質問も多く「ラストシーンで桃子が着ていた服装が表す意図はなにか?」「主人公は夫の浮気相手という憎むべき相手に何故スイカを持って行ったのか?」「ゴミ捨て場が燃えているシーンにはどんな意図があるのか?」など質問が次々と上がると、ここでも森ガキ監督は「映画の読み取り能力が高すぎる」と舌を巻いていた。
最後にタイトルの意味について質問されると「人を好きになることは幸せなことなんですが、人を愛しすぎると人は狂っていく。愛の中に乱暴さがあり、乱暴さの中に愛がある、という物事は表裏一体、紙一重であることがタイトルに込められていると僕は捉えています」と答え、Q&Aを締めくくった。
「愛に乱暴」は、8月30日から全国公開。
フォトギャラリー
関連ニュース
五輪史上最悪の事件を“追体験” 1972年ミュンヘン五輪で起きた人質テロを描く「セプテンバー5」25年2月14日
2024年11月27日 08:00
映画.com注目特集をチェック
ライオン・キング ムファサ NEW
【ディズニー史上最も温かく切ない“兄弟の絆”】この物語で本当の「ライオン・キング」が完成する
提供:ディズニー
中毒性200%の特殊な“刺激”作 NEW
【人生の楽しみが一個、増えた】ほかでは絶対に味わえない、尖りに尖った映画体験
提供:ローソンエンタテインメント
【推しの子】 The Final Act NEW
この実写化はファンを失望させないか? 原作ファンが“企画した人”に忖度なしでインタビュー
提供:東映
ラスト5分、涙腺崩壊――
【珠玉の傑作】いじめで退学になった少年の、再生と希望の物語。2024年の最後を優しい涙で包む感動作
提供:キノフィルムズ
映画を500円で観る“裏ワザ”
【「2000円は高い」というあなたに…】知らないと損する“超安くなる裏ワザ”、こっそり教えます
提供:KDDI
モアナと伝説の海2
【モアナが歴代No.1の人が観てきた】神曲揃いで超刺さった!!超オススメだからぜひ、ぜひ観て!!
提供:ディズニー
【眠れなくなる衝撃作】
ショッキングな展開に沼落ち確定…映画.comユーザーに熱烈にオススメしたい圧巻作
提供:hulu
関連コンテンツをチェック
シネマ映画.comで今すぐ見る
内容のあまりの過激さに世界各国で上映の際に多くのシーンがカット、ないしは上映そのものが禁止されるなど物議をかもしたセルビア製ゴアスリラー。元ポルノ男優のミロシュは、怪しげな大作ポルノ映画への出演を依頼され、高額なギャラにひかれて話を引き受ける。ある豪邸につれていかれ、そこに現れたビクミルと名乗る謎の男から「大金持ちのクライアントの嗜好を満たす芸術的なポルノ映画が撮りたい」と諭されたミロシュは、具体的な内容の説明も聞かぬうちに契約書にサインしてしまうが……。日本では2012年にノーカット版で劇場公開。2022年には4Kデジタルリマスター化&無修正の「4Kリマスター完全版」で公開。※本作品はHD画質での配信となります。予め、ご了承くださいませ。
父親と2人で過ごした夏休みを、20年後、その時の父親と同じ年齢になった娘の視点からつづり、当時は知らなかった父親の新たな一面を見いだしていく姿を描いたヒューマンドラマ。 11歳の夏休み、思春期のソフィは、離れて暮らす31歳の父親カラムとともにトルコのひなびたリゾート地にやってきた。まぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、2人は親密な時間を過ごす。20年後、当時のカラムと同じ年齢になったソフィは、その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、大好きだった父との記憶をよみがえらてゆく。 テレビドラマ「ノーマル・ピープル」でブレイクしたポール・メスカルが愛情深くも繊細な父親カラムを演じ、第95回アカデミー主演男優賞にノミネート。ソフィ役はオーディションで選ばれた新人フランキー・コリオ。監督・脚本はこれが長編デビューとなる、スコットランド出身の新星シャーロット・ウェルズ。
ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。