「湖の女たち」原作者・吉田修一×監督&脚本・大森立嗣が対談 映画化へ向かった“縁”と“挑戦”とは?
2024年5月17日 09:00
福士蒼汰と松本まりかが初共演を果たした映画「湖の女たち」が、5月17日から全国公開を迎えた。このほど、原作者の吉田修一氏と、監督を務めた大森立嗣の“対談”の内容が披露された。映画化へ至った流れ、原作・吉田氏が本編を見た時の驚き、福士と松本が体当たりで演じたインモラルな関係についてなどが語られている。
本作は、介護施設での殺害事件を発端に、刑事と容疑者の衝撃的な関係の行方と、事件に隠された真実が暴かれていく物語。福士は刑事・濱中圭介役、松本は事件が起きた施設の介護士・豊田佳代役を演じている。
映画化への道のりについて「(「さよなら渓谷」と)同じ空気感や流れを感じました」と語っているのは、メガホンをとった大森監督。吉田氏の原作を映画化した「さよなら渓谷」とは、「週刊新潮」で連載された小説であるという点でも、週刊誌の記者が重要な役割を果たすという点でも重なる。
原作「湖の女たち」を読んだ時「素直に感動」し書評を書くことになるが、やはりそこは映画監督として「映画化したいな」という思いが頭の片隅によぎったという。そんなタイミングで編集者から「『大森監督が映画化してくれないかな』と吉田さんがつぶやいています」と伝えられる。「これはすごい縁だ!と思って嬉しくて。なんとかできないかとプロデューサーに相談し、企画が始まりました」(大森監督)と小さな縁がつながり、映画「湖の女たち」は産声を上げた。
メガホンをとった理由として「身の回りのものばかり書いている場合ではない。広がりのある『歴史』の中に僕たちがいるんだ」という表現として、「こういう映画を作ってみたいという思いが強かった」と語る大森監督。「内容が深くて、一筋縄ではいかない。群像劇的で登場人物も多い。満州の描写や歴史を遡ったりもします。これは挑戦だな」と襟を正したという。
それに対し、吉田氏は「一映画ファンとしては、これを映画にするのはどれくらい大変なのかもなんとなくわかる」としながらも「大森さんは僕が言うのも失礼でしょうけれど、本当にスケールが大きくなってきている監督だったので、期待を膨らませて完成を心待ちにしていました」と、全幅の信頼を寄せていたことを明かす。そして、ついに完成した映画を見て「何から語ればいいかわからないくらい、素晴らしい出来栄えでしたし、圧倒的な映画作品を見たな、と感じた」と大絶賛だ。
吉田氏「伊佐美という刑事を演じた浅野忠信さんはもう、モンスター(笑)。改めてすごい俳優だと思いました。そんなモンスターに食らいついていく圭介役の福士蒼汰さんは、警察犬じゃないけれど、なにかを咥えて離さない犬みたいな感じで、福士さんが浅野さんに挑んでいることが伝わってきて。それに、とても色気があるじゃないですか。主役の顔をしているというか、主役を張る俳優さんというのはこういう人なんだな、という魅力を感じました」
吉田氏「もう一方の、佳代を演じた松本まりかさんは“湖”みたいな感じ。打ってもどこか響いてこなくて、ぬるっと引きずられていくような。彼女の持っているリズム感、演技、佇まい、それに台詞の口調から、なにからなにまでがこの映画を象徴する“湖”のように、映画の中にずっといてくれるんですよね。財前直見さん(松本郁子役)も本当にすさまじかった。映画を見終わって、まずはキャスティングの素晴らしさ、俳優さんたちや演出の力を感じました」
それに対して、大森監督は「キャストもスタッフも琵琶湖に泊まり込みで撮影をしたのですが、特に北側の方は独特でした。湖の他には何もないような。小説と同じように、佳代の自宅の撮影で“川端”(かばた)を生活用水にしている民家をお借りできたのも、とても有意義だった」とロケーションの素晴らしさに助けられたことを付け加える。
吉田氏も「『さよなら渓谷』は川で、今度は湖。僕も取材で琵琶湖の北のほうを回ったときに、本当によそ者を拒んでいるような不思議な雰囲気がありました。静かにこちらをじっと見つめてきて。でも、はっきり拒まれている感じがします。海はどこかにつながっていると思えるのですが、湖は閉じているんです。京都の隣という地理的な条件や歴史もあるし、物語が生まれるポテンシャルが高い」と語り、“湖”が持つ特殊性について言及している。
福士演じる圭介と、松本が演じる佳代のインモラルな関係は「世間一般の言葉でいえば不倫。湖と同じで、彼らの関係はどこに行くこともないし、何も生み出さない。いわば“生産性のない関係”」だが、大森監督は「生産性とは別次元の、自分の存在を際立たせる行為というものがある。それが二人の間で繰り返される、SMとも何とも言えない奇妙な行為。人間という生物は経済的合理性だけでは生きていけない。生産性なんてなくたっていいんじゃないか」と語っている。
吉田氏は「圭介と佳代という二人の関係と、どこにもつながっていない湖の、湖面の美しさがリンクしていた。二人の自慰のシーンとかを世間の人が美しいと言ってくれるかどうかはわからないですけど、僕はすごく美しいシーンばかりだと思っています。不倫だとか正義だとか道徳といったものは、まったく二人の眼中にはない。社会通念みたいなものが一切なくなっていった先に、彼らの関係の強さがある」と、物語の本質を語っている。
“映画「湖の女たち」オリジナル・サウンドトラック/世武裕子”が、5月17日より順次配信開始。収録曲数は全15曲(品番:PCSP-05847/発売元:ポニーキャニオン)
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
ライオン・キング ムファサ NEW
【ディズニー史上最も温かく切ない“兄弟の絆”】この物語で本当の「ライオン・キング」が完成する
提供:ディズニー
中毒性200%の特殊な“刺激”作 NEW
【人生の楽しみが一個、増えた】ほかでは絶対に味わえない、尖りに尖った映画体験
提供:ローソンエンタテインメント
【推しの子】 The Final Act NEW
この実写化はファンを失望させないか? 原作ファンが“企画した人”に忖度なしでインタビュー
提供:東映
ラスト5分、涙腺崩壊――
【珠玉の傑作】いじめで退学になった少年の、再生と希望の物語。2024年の最後を優しい涙で包む感動作
提供:キノフィルムズ
映画を500円で観る“裏ワザ”
【「2000円は高い」というあなたに…】知らないと損する“超安くなる裏ワザ”、こっそり教えます
提供:KDDI
モアナと伝説の海2
【モアナが歴代No.1の人が観てきた】神曲揃いで超刺さった!!超オススメだからぜひ、ぜひ観て!!
提供:ディズニー
【眠れなくなる衝撃作】
ショッキングな展開に沼落ち確定…映画.comユーザーに熱烈にオススメしたい圧巻作
提供:hulu
関連コンテンツをチェック
シネマ映画.comで今すぐ見る
内容のあまりの過激さに世界各国で上映の際に多くのシーンがカット、ないしは上映そのものが禁止されるなど物議をかもしたセルビア製ゴアスリラー。元ポルノ男優のミロシュは、怪しげな大作ポルノ映画への出演を依頼され、高額なギャラにひかれて話を引き受ける。ある豪邸につれていかれ、そこに現れたビクミルと名乗る謎の男から「大金持ちのクライアントの嗜好を満たす芸術的なポルノ映画が撮りたい」と諭されたミロシュは、具体的な内容の説明も聞かぬうちに契約書にサインしてしまうが……。日本では2012年にノーカット版で劇場公開。2022年には4Kデジタルリマスター化&無修正の「4Kリマスター完全版」で公開。※本作品はHD画質での配信となります。予め、ご了承くださいませ。
父親と2人で過ごした夏休みを、20年後、その時の父親と同じ年齢になった娘の視点からつづり、当時は知らなかった父親の新たな一面を見いだしていく姿を描いたヒューマンドラマ。 11歳の夏休み、思春期のソフィは、離れて暮らす31歳の父親カラムとともにトルコのひなびたリゾート地にやってきた。まぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、2人は親密な時間を過ごす。20年後、当時のカラムと同じ年齢になったソフィは、その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、大好きだった父との記憶をよみがえらてゆく。 テレビドラマ「ノーマル・ピープル」でブレイクしたポール・メスカルが愛情深くも繊細な父親カラムを演じ、第95回アカデミー主演男優賞にノミネート。ソフィ役はオーディションで選ばれた新人フランキー・コリオ。監督・脚本はこれが長編デビューとなる、スコットランド出身の新星シャーロット・ウェルズ。
ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。