コラム:上質映画館 諸国漫遊記 - 第14回

2026年10月2日更新

上質映画館 諸国漫遊記

映画を愛する人にとって、テレビやネット動画もいいけれど、やはり映画は映画館で観るものだと考える方は多いだろう。本コラムでは全国の映画館の中から「これは」と思う上質なスクリーンを訪問し、その魅力をお伝えしたい。(取材・撮影・文/ツジキヨシ)


台湾の映画館訪問記その1 台北と高雄の映画館で「ルックバック」を味わう

港湾にある再開発エリア「駁二芸術特区(Pier-2 Art Center)」にあるのが「in89駁二電影院(in89 Pier2 Cinema)」。7スクリーン、約500席
港湾にある再開発エリア「駁二芸術特区(Pier-2 Art Center)」にあるのが「in89駁二電影院(in89 Pier2 Cinema)」。7スクリーン、約500席

▼台湾の映画館を訪ねる

映画館という場所は、その国の映画文化を知るうえで、なかなか興味深い。スクリーンの大きさや映写方式、音響設備といった「映画を観るための環境」はもちろんだが、チケットの買い方、ロビーの雰囲気、売店(コンセッション)システム、そしてそこに集まる観客の様子まで眺めてみると、その土地ならではの映画文化が見えてくる。

「上質映画館 諸国漫遊記」の番外編として、今回は日本を飛び出し、台湾の映画館を訪ねた。9月の台湾滞在中、台北と高雄の劇場を実際に回り、それぞれで映画を観てみたのである。台湾の映画館事情は日本のシネコンとよく似ている部分がある一方、チケットの購入方法や劇場の使われ方などには、ちょっとした違いもあった。世界各地の映画館を訪ねるという個人的なライフワークもあり、今回は9月の台湾を訪れた。

台北バスターミナル
台北バスターミナル

最初に訪れたのは、台北駅に隣接する台北バスターミナルと一体になった「Qスクエア(京站時尚廣場)」という商業施設内にある「台北京站威秀影城(Vieshow Cinemas Taipei Qsquare)」である。

9月12日土曜日の10時過ぎ、成田発の飛行機で台北・桃園国際空港に到着。午後4時に台北のホテルにチェックインし、すぐ「台北京站威秀影城」に向かう。夕方18時10分からの是枝裕和監督版「ルックバック」のチケットを購入するためだ。

Qスクエアの入口。バスターミナルやシネコン、ホテルなどが一体になった巨大施設だ
Qスクエアの入口。バスターミナルやシネコン、ホテルなどが一体になった巨大施設だ

この映画館が入っているQスクエアは、台北駅に隣接するバスターミナルと一体になった大型商業施設である。ハイブランドからスポーツ、カジュアルまでさまざまなアパレルショップが並ぶほか、地下にはスーパーマーケットやフードコートもある。映画館への入口は4階にあり、劇場本体は5、6階に位置している。台北京站威秀影城は9スクリーン、1,769席を備えるシネマコンプレックスだ。

台北駅周辺は、台湾高速鉄道、台湾鉄路、地下鉄、バスが集まる台湾最大級の交通拠点である。そのすぐそばにある映画館という立地は非常に便利だ。実際、駅から地下街を歩いていけば、ほとんど雨に濡れることなく劇場まで辿り着くことができる。ただし、台北駅の地下街が東京・新宿や大阪・梅田レベルの巨大さなので、時間には余裕を持ったほうがよいだろう。

台北京站威秀影城(Vieshow Cinemas Taipei Qsquare)には、Qスクエアの4階からエスカレーターを利用して入場する
台北京站威秀影城(Vieshow Cinemas Taipei Qsquare)には、Qスクエアの4階からエスカレーターを利用して入場する

今回、少し戸惑ったのがチケットの購入だった。台湾の映画館ではネット予約が便利なのだが、今回のケースでは台湾のID番号や電話番号の入力が必要となり、何度かチャレンジしたものの、日本からの旅行者には少々ハードルが高かった。言語の壁もある。そこで、ホームページで作品と上映時刻を確認したうえで、現地の発券機を利用することにした。

発券機の表示言語を中国語から英語に切り替えると、操作そのものは意外なほど簡単だった。作品と上映時間、座席を選び、クレジットカードで決済する。日本のシネコンにある自動券売機と基本的な考え方は同じである。

エスカレーターを上がると劇場のホワイエとなる。土曜日の夕方とあって多くの人々が集っていた
エスカレーターを上がると劇場のホワイエとなる。土曜日の夕方とあって多くの人々が集っていた

ただし、購入時にもうひとつ気になったのが、コンセッションと呼ばれる館内販売の飲食物との組合せだ。台湾の映画館では、チケットとポップコーンやドリンクなどのコンセッションをセットにした料金設定が比較的目立つ。コンセッションなしの鑑賞料金は大人1名360元。日本円にするとおよそ1,700円前後で、料金的には日本の一般的な大手シネコンと大きく変わらない。今回確認した料金設定では、コンセッション付きが基本となっており、単純に映画だけを観たい場合には、むしろ割高になるような料金体系だった。このあたりは、日本の映画館とは少し感覚が違う。無事、18時10分からのチケットを購入したので、いったん劇場を出て、Qスクエアや、台北市内を散策した。

自動券売機。タッチパネル式のディスプレイの右下にある、「English」を選び、表示言語を英語に変更する。日本語は選択できなかった
自動券売機。タッチパネル式のディスプレイの右下にある、「English」を選び、表示言語を英語に変更する。日本語は選択できなかった

▼台北の若者たちと実写版「ルックバック」の新鮮な体験を共有

さて、肝心の劇場はどのようなものなのかを紹介していこう。台北京站威秀影城に上映30分前に戻ると、土曜日の夕方ということもあり、ホワイエには若い観客が非常に多かった。友人同士で訪れているグループも多く、劇場全体がかなり活気づいている。映画館というよりも、若者が集まるエンタテインメント施設といった雰囲気だ。

座席を選ぶ。決済はクレジットカードで行なった
座席を選ぶ。決済はクレジットカードで行なった

劇場のつくりそのものは、日本のシネコンとほぼ変わらない。チケットカウンター、自動券売機、コンセッション、ロビー、そして複数のスクリーンが並ぶ。海外の映画館に来たという感覚はあるものの、「映画館」という施設そのものに大きな文化的な違いを感じるわけではない。

むしろ印象に残ったのは、その「普通さ」である。日本では映画館といえば、かつては都市部の大劇場や単館系映画館など、それぞれに個性があった。しかし現在では、ショッピングモールや駅に直結したシネコンが映画鑑賞の中心になっている。台北でも同じような光景が広がっているのである。

では、映画を観る環境はどうだったのか。今回鑑賞した「ルックバック」は、藤本タツキの同名漫画を原作に、是枝裕和が監督・脚本・編集を手がけ、出口夏希、蒔田彩珠らが出演する実写映画である。台湾では日本での公開と同日の9月11日に上映が開始されたばかりだった。本作は日本のみならず海外でのプロモーションツアーが行なわれ、台湾でも、ここで紹介している台北京站威秀影城を含むいくつかのシネコンで、監督や主演俳優陣による上映挨拶イベントが9月19日と20日の両日実施されたとのことだ。

©藤本タツキ/集英社 ©2026 K2 Pictures・集英社
©藤本タツキ/集英社 ©2026 K2 Pictures・集英社

本作は日本国内ではドルビーシネマ上映も行なわれた作品だが、台湾ではさらに興味深い上映方式にも出会った。ドルビービジョンによるHDR映像とドルビーアトモスによる3次元立体音響を組み合わせた「DVA(Dolby Vision+Atmos)」である。DVAは、ドルビービジョン映像とドルビーアトモス音声という二つの技術を組み合わせたプレミアム上映方式で、ドルビーシネマと同じ二つのドルビーの独自技術を採用する一方、専用の劇場設計やブランド基準を含む「ドルビーシネマ」とは区別されている。台湾では秀泰影城(SHOWTIME CINEMAS)がDVAフォーマットを導入、「ルックバック(実写版)」でもDVAフォーマットで上映された。

海外の映画館を巡ると、こうした日本ではまだ馴染みの薄い上映フォーマットに出会うことができる。ちなみに台湾でドルビーシネマは、新光影城(Shin Kong Cinemas)や美麗華影城(Miramar Cinemas)で採用されているが、「ルックバック(実写版)」の上映は行なわれていなかったようだ。

チケットを同行者の分もまとめて購入、大人1名360元が2枚で720元だった。1元をおよそ5円として、1名1,800円だ
チケットを同行者の分もまとめて購入、大人1名360元が2枚で720元だった。1元をおよそ5円として、1名1,800円だ

今回鑑賞した台北京站威秀影城のスクリーン2は、DVAではなく通常のデジタル上映で、座席はD列10番。ほぼ中央付近の絶好のポジションが確保できた。座席は硬めの座面ながら非常に座りやすく、隣席との間隔も十分に広い。冷房の効き具合も絶妙で、暑くも寒くもなく快適だった。

スクリーン2の画面アスペクト比はビスタで、中央が奥まったカーブド仕様。サラウンドスピーカーは左右が各4基、後方が4基、合計12基が壁掛け設置されていた。プロジェクターのメーカーや型番までは確認できなかったため断定は避けたいが、実際に観た印象では2Kクラスのデジタル上映と思われ、画面の明るさはそれほど高くない。

ちょっと驚いたのは、スクリーン左右にある緑色の非常口案内表示が、上映中も常時点灯していたことだ。暗部の情報量や画面の立体感を含め、最新の4Kレーザープロジェクターを導入した高品位な劇場と比較すると、映像面で際立ったクオリティを感じるまでには至らなかった。ただ、本作のフィルムルックの印象はしっかりと伝わってくる。だからこそ、もう少しコントラストが高ければ、という思いにかられたのも事実である。とりわけ暗い場面では、常時点灯している非常口表示の明かりの影響も小さくなかったように思う。

スクリーンのエントランスは6階に設けられている。そこからホワイエを撮影してみた。様々な映画のポップが飾られ、雰囲気を醸し出す
スクリーンのエントランスは6階に設けられている。そこからホワイエを撮影してみた。様々な映画のポップが飾られ、雰囲気を醸し出す

音響についても同様だ。もちろん、台詞や音楽を聴き取ることに問題があったわけではない。しかし、近年の日本の高品位なシネコンやドルビーアトモス対応劇場などで感じる、スクリーンから周囲へ音が大きく広がっていくようなサラウンド感は、それほど強く感じられなかった。

その一方で、スクリーン面から発せられる音そのものはクリアーで鮮明だった。二人の主人公が一心不乱にペンを走らせる「音」が映画のリズムを形作り、主人公たちの心象を語るように、朴葵姫や岡本拓也によるクラシックギターの音色が空間を彩っていく。

漫画を描くことで世界が広がっていく瞬間の、まばゆい輝き。そこにフィルムテイストが滲み出る映像の柔らかな雰囲気(誤解なきよう説明すると、映像が甘いという意味ではない)とギターの温かな響きが重なっていく。そのフレッシュな世界を、台湾での公開翌日、劇場に足を運んだ異国の若者たちと共有したのである。

▼高雄で思わぬ高品位映画館に遭遇

台北市内から約350km離れた高雄、塩埕区にある「in89駁二電影院(in89 Pier2 Cinema)」
台北市内から約350km離れた高雄、塩埕区にある「in89駁二電影院(in89 Pier2 Cinema)」

そして翌日。今度は台北を離れ、高雄へ向かった。台北駅から台湾高速鉄道に乗る。日本の新幹線システムをベースに導入された高速鉄道で、2007年に開業して以来、台湾西部を南北に結ぶ重要な交通機関となっている。台湾高速鉄道の運行システムは、日本の新幹線技術が用いられているそうだ。

今回は外国人旅行者向けの「台湾高鉄パス」を利用した。3日間、高鉄が乗り放題になるパスで、短期滞在の外国人旅行者が利用できる。指定席を利用する場合は、事前に座席を予約すれば追加料金はかからない。今回は空港から台北への移動なども含めた台湾旅行向けのパッケージ「Taiwan PASS (高鉄版)」を利用した。8時10分台北駅発の207号に乗車する。列車はほぼ満席。車窓を眺めながら南へ向かい、約1時間40分で終点である高鉄左営駅に到着した。

高雄で最初に向かったのは映画館ではない。事前に調べていたアヒル肉料理の名店「鴨肉珍」である。高鉄左営駅からMRTに乗り換え、塩埕埔(イエンチョンブー)駅へ。スマホで体感気温37度と表示されるなど、南台湾らしい熱帯の暑さのなか、絶品のアヒル肉料理に舌鼓を打った後、いよいよ今回の目的地へ向かった。

翌日は、台北から高雄まで高速鉄道で移動。終点の高雄左営駅まで約1時間40分の道のりだ。日曜ということもあり、指定席はほぼ満席だった
翌日は、台北から高雄まで高速鉄道で移動。終点の高雄左営駅まで約1時間40分の道のりだ。日曜ということもあり、指定席はほぼ満席だった

高雄・塩埕区にある「in89駁二電影院(in89 Pier2 Cinema)」。ここが実に面白いシネコンなのだ。映画館があるのは、高雄のウォーターフロントに広がる「駁二芸術特区(Pier-2 Art Center)」。そのなかに残る古い倉庫群のC1・C2倉庫をリノベーションして、映画館として利用しているシネコンで、現在は7つのスクリーンを擁し、アート作品やドキュメンタリー、アニメーションなども上映する、いわばアート&商業映画館だ。日本でも有名な誠品書店が隣接している。

映画館のウェブサイトには、この場所について実に詩的な文章が掲げられている。日本語に訳すとこんな内容になる。

「かつての商業の重鎮であり、かつて映画館が林立した輝かしい歳月。潮が満ち、潮が引くように、記憶の中の繁栄した景色は消え去り、没落した古い旧市街は、転換を経て、その美しさを再起させました。(略)歴史の衣服をまとった陳旧な倉庫群が、芸術文化映画館へと脱皮しました。7つの精緻なスクリーンがその中に身を置き、想像力で美妙な夢を織りなしています」

文章だけを読むと、映画館というより何かの文化施設を訪ねているような気分になる。実際、その建物を目の前にすると、ここに映画館があること自体が少し不思議に思える。古い倉庫の外観を残しながら、その内部に7つのスクリーンを収めているのである。

塩埕埔駅では可愛らしいキャラクター像がお出迎え。駅から目的地のin89駁二電影院までは徒歩で約11分
塩埕埔駅では可愛らしいキャラクター像がお出迎え。駅から目的地のin89駁二電影院までは徒歩で約11分

このin89駁二電影院のスクリーン7で、12時25分からの「ルックバック(実写版)」を観た。料金は300元なので、日本円で約1,500円。チケットは窓口で購入した。窓口では言葉はほとんど通じなかったが、映画のタイトルと上映時間を示し、指で人数を伝えて、無事にチケットを購入することができた。昔、香港でカンフー映画を見た時も、サンフランシスコの場末の映画館でスパイ映画を見た時も感じたが、映画館という場所は、言葉が通じなくても意外となんとかなるものだ、と再確認した。

チケットは台北京站威秀影城と同じように、ドリンクやポップコーンなどが付いたセットが割安になる料金設定もあったが、今回は映画単独のチケットを購入した。

▼倉庫をリノベした映画館とは思えぬ上質さ

港湾にある再開発エリア「駁二芸術特区(Pier-2 Art Center)」にあるのが「in89駁二電影院(in89 Pier2 Cinema)」。7スクリーン、約500席
港湾にある再開発エリア「駁二芸術特区(Pier-2 Art Center)」にあるのが「in89駁二電影院(in89 Pier2 Cinema)」。7スクリーン、約500席

そして、シアターに入ってみて驚いた。古い倉庫を改装した映画館という事前情報から想像していたものより、はるかに広々として清潔感に溢れている。スクリーンのアスペクト比は、一般的なスコープでもビスタでもない、やや特殊なサイズに見えた。「ルックバック(実写版)」はビスタ画角の作品だが、上映画面の左右には黒帯が残っていた。サラウンドスピーカーは露出設置タイプで、左右3基ずつ、後方2基の合計8基。座席は前から4列目、左から4番目を選んだ。

そして、映画が始まった。ここで、また驚かされた。古い倉庫を改装した映画館からイメージするものとは全く違う、素晴らしいクオリティだったのである。映像はシャープで色鮮やか。音もナチュラルで、実に心地よい。「ルックバック」という作品が持つ世界観にもよくフィットしている。

別アングルから撮影した。一見、古い倉庫にしか見えないが、ちょうど「ディスクロージャー・デイ」のポスターが掲示されていた
別アングルから撮影した。一見、古い倉庫にしか見えないが、ちょうど「ディスクロージャー・デイ」のポスターが掲示されていた

前述したように、この映画では東野と京本という二人の主人公たちが紙にペン(や液晶タブレットに電子ペン)を走らせる「キュッ、キュッ」という音と、ギターのアルペジオが何度も繰り返し登場する。それらの音が、スクリーンの向こう側から劇場全体へと広がっていく。

そして、改めて音に耳を澄ましてみると、この作品が実に緻密なサウンドデザインによって成立していることに気づく。もちろん、ハリウッド大作映画のように、激しく大胆な効果音が矢継ぎ早にこれでもかと使われるような作品ではない。物語上極めて重要なある場面では強い音響効果が使われていたが、それ以外の多くの場面では、フォーリー、つまり足音や衣擦れの音、あるいは街や自然の環境音が、実に細やかで精緻に配置されていることが音響上のポイントである。

シネコンのエントランス。アート系シネコンらしく、映画館の雰囲気はあまり感じられなかった
シネコンのエントランス。アート系シネコンらしく、映画館の雰囲気はあまり感じられなかった

そうしたデリケートな「小さな音」が、in89駁二電影院ではよく聴こえた。いや、正確にいえば、小さい音が小さいまま、ディテールを損なわずに、確かな実感を持って観客席まで届いたのである。これは映画音響を考えるうえで、とても重要なことだと思う。

大きな音を迫力たっぷりに鳴らすことは、映画館の音響性能を語るうえで分かりやすい。しかし、映画のなかには、むしろ小さな音によって感情を伝える作品が存在する。そう、「ルックバック」では、ペン先が紙を擦る音、足音、衣擦れ、床のきしみ、街のざわめき、雪のなかの静けさといった、注意しなければ聞き逃してしまいそうな音が、物語の空気を作り、映画世界へのリアリティを構築している。

シネコンに入ると上映案内とチケット売り場、売店がコンパクトにレイアウトされている
シネコンに入ると上映案内とチケット売り場、売店がコンパクトにレイアウトされている

それらの音が、夜の雪道の孤独も、都会の喧騒も、神社への祈りも、二人の別れも、全てを現実の風景として立ち上げていく役割を担う。「ルックバック」を観て、聴いて改めて感じたのは、映画音響とは単に「音を聞かせる」ためのものではないということだ。自身の内部からなにかを作り出そうともがく、東野と京本というクリエイターたちの孤独と友情、別れ、成長、葛藤、そして後悔。そうした言葉だけでは表現しきれない感情を、観客へ伝えるための重要な道具として「音」が機能していたのだ。

▼映画館のありように、都市の空気が包含されている

台北の台北京站威秀影城では、映像の明るさやサラウンドの広がりに少し物足りなさを感じた。しかし、高雄のin89駁二電影院では、全く違う印象を受けた。最新の巨大シネコンだから全てが上質とは限らない。

窓口で身振り手振りを駆使、親切なスタッフに助けられて無事チケットを購入。現金で300元、約1,500円だった
窓口で身振り手振りを駆使、親切なスタッフに助けられて無事チケットを購入。現金で300元、約1,500円だった

古い倉庫をリノベーションした小規模な映画館でも、映像と音に対する丁寧な設計があれば、観客の心に残る上質な映画体験をつくることができる。そのことを、今回の高雄での鑑賞は教えてくれた。

映画館を訪ね歩くということは、単に映画を何本も観ることではない。その土地で人々がどのように映画を楽しんでいるのか、そして映画館という場所が、その都市のなかでどのような役割を担っているのかを観察することでもある。

「駁二芸術特区(Pier-2 Art Center)」のエリアマップ。シネコンがあるC1、C2倉庫が地図の右側にあるのがわかる
「駁二芸術特区(Pier-2 Art Center)」のエリアマップ。シネコンがあるC1、C2倉庫が地図の右側にあるのがわかる

台北では、駅と大型商業施設に直結したシネコンに若者たちが集まっていた。高雄では、歴史ある倉庫群のなかに映画館が生まれ、アートや街の記憶とともに映画が上映されている。

同じ台湾でも、映画館のあり方はずいぶん違う。そして、その違いこそが、映画館を訪ね歩く面白さなのだろう。

さて、台湾映画館漫遊記は、もう少し続く。

Pier-2 Art Centerは、雰囲気抜群の観光スポット。熱帯特有の抜けるような青空と日差しの強さが印象的だった
Pier-2 Art Centerは、雰囲気抜群の観光スポット。熱帯特有の抜けるような青空と日差しの強さが印象的だった

■今回の鑑賞料金
台北京站威秀影城(Vieshow Cinemas Taipei Qsquare)
360元

in89駁二電影院(in89 Pier2 Cinema)
300元

筆者紹介

ツジキヨシのコラム

ツジキヨシ。1969年千葉生まれ。オーディオ専門誌の編集部を経て、オーディオビジュアル専門誌の編集に携わって四半世紀。大型スピーカーと100インチスクリーンによるドルビーアトモス対応サラウンドシステムを構築。日夜、映画と音楽に込められたクリエイターの想いを、いかに再生していくか、試行錯誤中。

Amazonで今すぐ購入

映画ニュースアクセスランキング

本日

  1. マーベル、久々の新作実写ドラマを発表

    1

    マーベル、久々の新作実写ドラマを発表

    2026年10月12日 15:00
  2. 「バイオハザード」首位! 「ママせか」「DIGGER」「汝、星のごとく」「ファーストボイス」がアップ【映画.comアクセスランキング】

    2

    「バイオハザード」首位! 「ママせか」「DIGGER」「汝、星のごとく」「ファーストボイス」がアップ【映画.comアクセスランキング】

    2026年10月12日 14:30
  3. 風間駿介「救命病棟24時」に13年ぶり出演!「喜びを噛み締めています」【本日放送スタート】

    3

    風間駿介「救命病棟24時」に13年ぶり出演!「喜びを噛み締めています」【本日放送スタート】

    2026年10月12日 05:30
  4. 北村匠海×出口夏希「君の話」主題歌はMrs.GREEN APPLEの書き下ろし楽曲「本と彗星」!【本予告あり】

    4

    北村匠海×出口夏希「君の話」主題歌はMrs.GREEN APPLEの書き下ろし楽曲「本と彗星」!【本予告あり】

    2026年10月12日 06:30
  5. モナキ&酒井一圭による「BOSS ボス」クセつよキャラ満載の日本語吹替版予告編完成!

    5

    モナキ&酒井一圭による「BOSS ボス」クセつよキャラ満載の日本語吹替版予告編完成!

    2026年10月12日 18:00

今週