「ブラッド・ワーク」「リオ・ブラボー」 : 芝山幹郎 テレビもあるよ

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コラム:芝山幹郎 テレビもあるよ - 第5回

2010年8月10日更新

映画はスクリーンで見るに限る、という意見は根強い。たしかに正論だ。フィルムの肌合いが、光学処理された映像の肌合いと異なるのはあらがいがたい事実だからだ。

が、だからといってDVDやテレビで放映される映画を毛嫌いするのはまちがっていると思う。「劇場原理主義者」はとかく偏狭になりがちだが、衛星放送の普及は状況を変えた。フィルム・アーカイブの整備されていない日本では、とくにそうだ。劇場での上映が終わったあと、DVDが品切れや未発売のとき、見たかった映画を気前よく電波に乗せてくれるテレビは、われわれの強い味方だ。

というわけで、2週間に1度、テレビで放映される映画をいろいろ選んで紹介していくことにしたい。私も、ずいぶんテレビのお世話になってきた。BSやCSではDVDで見られない傑作や掘り出し物がけっこう放映されている。だから私はあえていいたい。テレビもあるよ、と。

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「ブラッド・ワーク」

ボートハウスで暮らすマッケイレブ(イーストウッド)。原作の設定は40代半ば ボートハウスで暮らすマッケイレブ(イーストウッド)。
原作の設定は40代半ば
Photo:Album/アフロ [拡大画像]

謎解きとしては安直すぎる。

スリラーとしてはひねりに欠ける。

アクション場面の迫力が足りない。

追う側と追われる側の倒錯した心理も、さほど深化されていくわけではない。

というわけで、「ブラッド・ワーク」には不満な点が少なくない。とくに、クリント・イーストウッドの映画を見馴れていない人は「ゆるい」と感じるかもしれない。

だが、「ブラッド・ワーク」は妙に忘れがたい映画だ。主人公テリー・マッケイレブ(イーストウッド)の姿や言動は、見る側の脳裡に忍び込んで、しぶとく留まりつづける。
 マッケイレブは、連続殺人犯を追跡中に心臓発作で倒れたFBI捜査官だ。事件から2年後、心臓移植を受けた彼は、マリナ・デル・レイのボートハウスで静かに暮らしている。

ところがある日、心臓提供者の姉(ワンダ・デ・ジーザス)と名乗る女が、マッケイレブの前に現れる。女はさまざまな探索の糸をたぐって、彼の存在を突き止めたらしい。そして頼む。妹を殺害した犯人を見つけ出してほしい、と。

さあ、胸に他人の心臓を埋め込んだ高齢の捜査官は、果たして機能できるのだろうか。マッケイレブは、もと同僚や隣人の力を借りて、ロサンゼルスのさまざまな地域に足を伸ばしはじめる。

その姿が、やはり眼に残る。胸の手術痕を不安げに撫でさすり、周囲に顔色の悪さを指摘されながら、マッケイレブは捜査を進めていく。その動きが、長まわしの多い撮影や編集のペースによく似合う。そしてわれわれ観客は、否応なく彼の体調を案じてしまう。不思議な引力だ。素っ気なく見えて執念深いマッケイレブは、やはり「ダーティハリー」や「タイトロープ」の主人公と精神的血縁を持っているにちがいない。

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ブラッド・ワーク

WOWOW 8月23日(月) 1:53~3:50(22日深夜)

原題:Bloodwork
製作・監督:クリント・イーストウッド
脚本:ブライアン・ヘルゲランド
出演:クリント・イーストウッドジェフ・ダニエルズワンダ・デ・ジーザス、アンジェリカ・ヒューストン、ディラン・ウォルシュ
2002年アメリカ映画/1時間51分

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「リオ・ブラボー」

ジョン・ウェイン(左)とディーン・マーティン ジョン・ウェイン(左)とディーン・マーティン Photo:Album/アフロ [拡大画像]

 「リオ・ブラボー」は西部劇なのだろうか。私は何度か首をかしげたことがある。

主人公はテキサス州の小さな町を一歩も出ない。しかも、保安官事務所やホテルや酒場など、室内の描写が圧倒的に多い。逆にいうと、荒野や砂漠や大平原は描かれない。

にもかかわらず、「リオ・ブラボー」は狭苦しくない。むしろ豪快で闊達で、なおかつ繊細な後味を残す。不思議な映画だ。

筋書はみなさんご存じだろう。町の保安官チャンス(ジョン・ウェイン)が、ごろつきのジョーを逮捕する。チャンスはジョーを連邦保安官に引き渡そうと考えるが、到着までには6日以上も時間がかかる。ジョーの兄のネイサンは、弟を奪回しようとして無頼漢を大勢雇う。一方、チャンスの味方は3人だけだ。元助手でいまはアル中のデュード(ディーン・マーティン)、足の悪い老人スタンピー(ウォルター・ブレナン)、早射ちの若者コロラド(リッキー・ネルソン)。もうひとり、曲者の女賭博師フェザーズ(アンジー・ディキンソン)がチャンスに恋をする。

ゆったりしたペースを採用しながら、「リオ・ブラボー」にはゆるみがない。男たちがいたわりあう関係や、チャンスとフェザーズの触れ合いは、とてもこまやかに描かれる。しかも、味わいは映画以外の何物でもない。「室内劇」は表面だけの設定なのだ。

要するに「リオ・ブラボー」は、観客が安心して身を委ねられる映画だ。この年62歳のハワード・ホークスにとっては、4年ぶりの現場復帰だった。撮影初日、気負いと緊張のあまり、彼はセットの裏手で嘔吐したくらいだ。だが完成したのは、大らかで正直で心をゆさぶる傑作だった。私は、ジョン・ウェインアンジー・ディキンソンのラブシーンが大好きだ。

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リオ・ブラボー

NHK衛星第2 8月30日(月) 1:00~3:22

原題:Rio Bravo
製作・監督:ハワード・ホークス
脚本:ジュールス・ファースマンリー・ブラケット
出演:ジョン・ウェインディーン・マーティンアンジー・ディキンソンウォルター・ブレナンリッキー・ネルソン
1959年アメリカ映画/2時間22分

[筆者紹介]

芝山幹郎

芝山幹郎(しばやま・みきお)。48年金沢市生まれ。東京大学仏文科卒。映画やスポーツに関する評論のほか、翻訳家としても活躍。著書に「映画は待ってくれる」「映画一日一本」「アメリカ野球主義」「大リーグ二階席」「アメリカ映画風雲録」、訳書にキャサリン・ヘプバーン「Me――キャサリン・ヘプバーン自伝」、スティーブン・キング「ニードフル・シングス」「不眠症」などがある。

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