「殺しの烙印」「ロング・グッドバイ」 : 芝山幹郎 テレビもあるよ

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コラム:芝山幹郎 テレビもあるよ - 第48回

2013年4月25日更新

映画はスクリーンで見るに限る、という意見は根強い。たしかに正論だ。フィルムの肌合いが、光学処理された映像の肌合いと異なるのはあらがいがたい事実だからだ。

が、だからといってDVDやテレビで放映される映画を毛嫌いするのはまちがっていると思う。「劇場原理主義者」はとかく偏狭になりがちだが、衛星放送の普及は状況を変えた。フィルム・アーカイブの整備されていない日本では、とくにそうだ。劇場での上映が終わったあと、DVDが品切れや未発売のとき、見たかった映画を気前よく電波に乗せてくれるテレビは、われわれの強い味方だ。

というわけで、毎月、テレビで放映される映画をいろいろ選んで紹介していくことにしたい。私も、ずいぶんテレビのお世話になってきた。BSやCSではDVDで見られない傑作や掘り出し物がけっこう放映されている。だから私はあえていいたい。テレビもあるよ、と。

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「殺しの烙印」

清順、大和屋らが「深夜プラス1」「悪党パーカー/人狩り」等の犯罪小説に触発されて製作した奇想天外なカルト映画の傑作 清順、大和屋らが「深夜プラス1」「悪党パーカー/人狩り」等の
犯罪小説に触発されて製作した奇想天外なカルト映画の傑作
(C) 日活 [拡大画像]

宍戸錠はニューヨークで人気がある。知名度ならば、石原裕次郎小林旭よりも高いくらいだ。上映会では拍手が起きる。

無理はない。宍戸錠はモダンだ。田宮二郎天知茂も昭和のハイカラだったが、その上を行く。情念や感傷でだぶついたりせず、動きが速くて冗談好きだ。クライテリオンからは、「拳銃(コルト)は俺のパスポート」や「殺しの烙印」の高画質DVDが出ている。

というわけで、「殺しの烙印」だ。

私はこの映画を1970年代初めに池袋の文芸坐で見て、仰天した。当時の日活社長が「わけがわからん」といって鈴木清順監督を解雇したのは有名な話だが、私は社長の頭を疑った。これほど面白いアクションに、なぜいちゃもんをつけるのか。

トンネルを使った縦構図の銃撃戦。荒野と廃墟のロングショット。防波堤で車の下に隠れ、滑車を使って敵に接近するシーン。追われた宍戸が愛人のアパートに潜伏する場面。そして、ボクシング・ホールでの最終対決。

どのアクションにも、思わず拍手を送りたくなる。固唾を呑むというよりは、どこかにヌケのよさがあって、爽快感とふくみ笑いを呼び起こすのだ。

逆にいうと、この映画にはダレ場も少なくない。とくに宍戸錠がふたりの女と絡む愛欲場面は、どちらもいただけない。工夫と気取りはわかるのだが、アクション・シーンに比べていまひとつ野暮ったく、ついついあくびが出てしまう。

まあ、こちらはご愛嬌だ。宍戸錠の俊敏な動きと不敵なユーモア感覚は、その欠点を補ってあまりある。それと、よく見ればわかることだが、この映画の筋立てはけっして支離滅裂ではない。妙な喧嘩をふっかけられて、鈴木清順もさぞかしやれやれと思ったことだろう。

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殺しの烙印

WOWOWシネマ 5月15日(水) 19:00~20:45

監督:鈴木清順
脚本:具流八郎(鈴木清順大和屋竺木村威夫田中陽造曽根中生岡田裕山口清一郎榛谷泰明
撮影:永塚一栄
音楽:山本直純
出演:宍戸錠真理アンヌ、小川万里子、南原宏治玉川伊佐男南廣
1967年日本映画/1時間31分

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「ロング・グッドバイ」

松田優作も憧れたグールド=マーロウ。70年代のグールドは「破壊!」「カプリコン・1」など多くの話題作に出演した 松田優作も憧れたグールド=マーロウ。70年代のグールドは
「破壊!」「カプリコン・1」など多くの話題作に出演した
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フィリップ・マーロウは誤解されている。みんながみんなとはいわないが、「汚れた裏町をひとり歩いていく気高い男」という一節に幻想を抱く人たちは、いまも珍しくない。ただ私は、フィリップ・マーロウはボギーではないと思う。まあ、ロバート・ミッチャムならば、ある種の説得力を持つのだが。

では、エリオット・グールドが演じた「ロング・グッドバイ」のマーロウはどうか。異を唱える人が多いのを承知でいうが、彼は1970年代に紛れ込んだ50年代の迷子だ。ダークスーツに臙脂(えんじ)のナロウ・タイという服装。ひっきりなしに煙草を吸い、事件の謎を解くどころか、謎に振りまわされてばかりいる不器用な探偵。この肖像に思い至った瞬間、監督のアルトマンは指を鳴らしたのではないか。

映画の舞台は、70年代前半のロサンゼルスだ。マーロウは夜中の3時に猫の餌を買いに〈スリフティ〉へ出かけるような男だ。そのあと彼は、頼ってきた友人を、自分の車でティワナまで送る羽目になる。こういうときは大体、危ない金の持ち逃げが絡む。案の定、マーロウはギャングに痛めつけられる。

アルトマンは謎解きに力を入れない。チャンドラーの原作から登場人物を抽出し、本筋から逸脱するような会話ばかりを重ねさせる。アルコール依存症の作家や、命取りになりそうな女は出てくるが、銃撃戦やベッドシーンの起こりそうな気配はまず感じられない。

だが、「ロング・グッドバイ」は退屈な映画ではない。犯罪がらみのスリルやサスペンスは希薄かもしれないが、登場人物の姿はどれも記憶に鮮やかだ。話し方や殴り方や走り方のひとつひとつが重なり合い、微熱を帯びた小宇宙が悪夢のようにあぶりだされてくる。この感覚に味がある。そういえば、アルトマンの名を高めた「M★A★S★H マッシュ」も、戦闘シーンが一切出てこない戦争映画だった。

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ロング・グッドバイ

WOWOWシネマ 5月11日(土) 0:45~2:45

原題:The Long Goodbye
監督:ロバート・アルトマン
脚本:リー・ブラケット
原作:レイモンド・チャンドラー
撮影:ビルモス・ジグモンド
音楽:ジョン・ウィリアムズ
出演:エリオット・グールドスターリング・ヘイドンニーナ・バン・パラントマーク・ライデル
1973年アメリカ映画/1時間52分

[筆者紹介]

芝山幹郎

芝山幹郎(しばやま・みきお)。48年金沢市生まれ。東京大学仏文科卒。映画やスポーツに関する評論のほか、翻訳家としても活躍。著書に「映画は待ってくれる」「映画一日一本」「アメリカ野球主義」「大リーグ二階席」「アメリカ映画風雲録」、訳書にキャサリン・ヘプバーン「Me――キャサリン・ヘプバーン自伝」、スティーブン・キング「ニードフル・シングス」「不眠症」などがある。

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