「新・平家物語」「大殺陣」 : 芝山幹郎 テレビもあるよ

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コラム:芝山幹郎 テレビもあるよ - 第22回

2011年4月28日更新

映画はスクリーンで見るに限る、という意見は根強い。たしかに正論だ。フィルムの肌合いが、光学処理された映像の肌合いと異なるのはあらがいがたい事実だからだ。

が、だからといってDVDやテレビで放映される映画を毛嫌いするのはまちがっていると思う。「劇場原理主義者」はとかく偏狭になりがちだが、衛星放送の普及は状況を変えた。フィルム・アーカイブの整備されていない日本では、とくにそうだ。劇場での上映が終わったあと、DVDが品切れや未発売のとき、見たかった映画を気前よく電波に乗せてくれるテレビは、われわれの強い味方だ。

というわけで、2週間に1度、テレビで放映される映画をいろいろ選んで紹介していくことにしたい。私も、ずいぶんテレビのお世話になってきた。BSやCSではDVDで見られない傑作や掘り出し物がけっこう放映されている。だから私はあえていいたい。テレビもあるよ、と。

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「新・平家物語」

撮影中の市川雷蔵(左)と溝口健二。雷蔵は溝口の死後、大映の看板スターとなる 撮影中の市川雷蔵(左)と溝口健二。
雷蔵は溝口の死後、大映の看板スターとなる
写真:Album/アフロ [拡大画像]

溝口健二のカラー作品は2本しかない。「楊貴妃」と「新・平家物語」だ。このあとが遺作の「赤線地帯」になるのだから、「新・平家物語」の位置はやや特殊というべきだろう。

ただし、大河小説の映画化という仕事は、どう見ても溝口の作風には合っていない。しかも主人公が、「平氏にあらずんば人にあらず」とか「驕る平家は久しからず」とかいった悪役イメージの強い平清盛である。さて、これはどう料理したらよいものか。

溝口は2本の柱を立てた。1本は清盛(市川雷蔵)出生の秘密であり、もう1本は低く見られていた武士階級の台頭という革命的変化である。だが、冷徹なリアリストだった溝口にしてみれば、2本の柱は少々ロマンティックな匂いを放ちすぎる。話の展開も鳴り物入りのドラマにならざるを得ない。人や物を見抜く視力が強い監督だけに、歌い上げるという作法はかゆくてたまらなかったはずだ。

そこで溝口は、もう1本補助線を引いた。脇を固める俳優たちに渋い顔ぶれをずらりとそろえたのだ。清盛の父・忠盛に大矢市次郎。白河上皇に柳永二郎。政商・朱鼻の伴卜に進藤英太郎。左大臣頼長に千田是也

煮ても焼いても食えない脇役をこれだけそろえれば、「新人」市川雷蔵の浮き上がりはぐっと抑えることができる。燃え上がる油を熾(おこ)る炭火に変貌させることもできる。つまり、12世紀中葉の大がかりな歴史ロマンを、地味派手な歴史秘話へと変身させ……。

溝口健二の狙いは、たぶんそのあたりにあったと思う。にもかかわらず、彼は明らかに手を焼いている。美術の水谷浩、撮影の宮川一夫といった職人の練達の技はさすがだが、それだけでカバーできないのも映画のむずかしさだ。名匠にして苦戦あり。駄作ではないだけに、溝口の不服がじわりと伝わってくる。

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新・平家物語

NHK BSプレミアム 5月3日(火) 10:00~11:49

監督:溝口健二
原作:吉川英治
脚本:依田義賢、辻久一、成沢昌茂
撮影:宮川一夫
出演:市川雷蔵久我美子林成年、小暮実千代、大矢市次郎柳永二郎
1955年日本映画/1時間49分

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「大殺陣」

1963年には「十三人の刺客」があった。「大殺陣」は翌64年の公開だ。脚本はどちらも池上金男。監督はともに工藤栄一

いわでものことを書いたのは、「大殺陣」の映画史的位置を確認したかったからだ。「集団抗争時代劇」がこの時代の特徴的な産物だったことを思い出してもらいたかったからだ。

この映画にスターは出ていない。善悪や正邪の境界は判然としない。陰謀があり、反乱があり、それに巻き込まれた登場人物が狂ったように右往左往する。

映画のエンジンは、そのドライブ感だ。時は延宝6年というから、西暦1678年。徳川4代将軍家綱に世継ぎがおらず、大老の酒井雅楽頭(大友柳太朗)が永世権力の確立を図ったことから波紋が生じる。

酒井に反感を抱く勢力は当然出てくる。酒井一派の弾圧も苛烈をきわめる。逃げ込んできた友人をかくまおうとした神保平四郎(里見浩太朗)は、抗争に巻き込まれてしまう。

そこにさまざまな人物がからむ。軍学者の山鹿素行(安部徹)、遊び人の御家人(平幹二朗)、酒井の腹心の大目付(大木実)。ま、筋は察しがつくだろう。

大殺陣」を撮ったとき、工藤栄一は35歳の若さだった。もともと構図に凝る人だが、この映画でも重心の低さや奥行の深さは際立っている。が、脂っ気が旺盛で、工夫を厭わぬ体力があったことも見逃せない。つまり彼は、入念に造型した構図を惜しげもなく破壊する。手持キャメラを導入し、役者を泥田のなかに叩き込み、彼らの死闘を執拗な長まわしで撮るのだ。この落差が、水力発電のようなエネルギーを生む。「集団抗争」の看板に偽りがないことも明快に証明される。このジャンルは意外に見飽きない。脂っこいしぶとさをたたえて、いまも生き残っている。

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大殺陣

NHK BSプレミアム 5月10日(火) 13:00~14:59

監督:工藤栄一
脚本:池上金男
出演:里見浩太朗平幹二朗大友柳太朗大坂志郎大木実
1964年日本映画/1時間59分

[筆者紹介]

芝山幹郎

芝山幹郎(しばやま・みきお)。48年金沢市生まれ。東京大学仏文科卒。映画やスポーツに関する評論のほか、翻訳家としても活躍。著書に「映画は待ってくれる」「映画一日一本」「アメリカ野球主義」「大リーグ二階席」「アメリカ映画風雲録」、訳書にキャサリン・ヘプバーン「Me――キャサリン・ヘプバーン自伝」、スティーブン・キング「ニードフル・シングス」「不眠症」などがある。

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