ワーナー映画の2大ギャング : 芝山幹郎 悪党のいるダブル・ビル

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コラム:芝山幹郎 悪党のいるダブル・ビル - 第11回

2009年10月26日更新

第11回:ワーナー映画の2大ギャング

面白い映画に悪党が出ているとは限らないが、魅力的な悪党の出ている映画は、まずまちがいなく面白い。これは格言に近い。私の経験からいってもほぼ正しい。

悪党は、負の感情を解き放つことが許されている。悪党は、モラルに縛られない。いいかえれば、魅力的な悪党は快楽的だ。魅力的な悪党は知性が高い。そんな悪党の出ている映画を探してみよう。昔ながらの「2本立て=ダブル・ビル」形式を借りて、幻の映画館で悪党と悪党を競わせてみよう。今回は、「ギャング映画」の基礎を築いた2本の映画と、それに主演した2大俳優に照明を当ててみよう。

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犯罪王リコ」がなければ「ゴッドファーザー」は存在しなかったはずだ。「民衆の敵」がなければ「アンタッチャブル」は撮られなかったにちがいない。

2本の映画は、それくらい「原型的な作品」だ。ヘイズ・コード(映画倫理規定)の束縛で表面的には勧善懲悪の体裁をとっているものの、2人の主人公は本当に悪い。

2人はそろってシカゴのギャングだ。「犯罪王リコ」のリトル・シーザーは、アル・カポネを連想させる(近年のリサーチでは、サム・カルディネッラというギャングがモデルといわれている)。一方、「民衆の敵」のトム・パワーズは、ディーン・オバニオンという実在のアイリッシュ・ギャングがモデルといわれる。

どちらも強烈な個性だ。加えて、演じた役者が凄い。エドワード・G・ロビンソンジェームズ・キャグニーも、頭の芯にからみつく存在感を見せる。極め付きの古典とはいえ、2本の作品は、いまなお見る者の神経を痺れさせる不思議な力を秘めている。

■「犯罪王リコ」のリトル・シーザー

銃を構えているのが身長165cmのエドワード・G・ロビンソン 銃を構えているのが身長165cmのエドワード・G・ロビンソン Photo:Album/アフロ [拡大画像]

1930年代初頭、映画がトーキーになって間もないころ、ハリウッドの映画会社は競うようにそれぞれの特色を打ち出しはじめた。

ディズニーが漫画映画、MGMがミュージカル映画、ユニバーサルが怪物映画、そしてワーナー・ブラザースがギャング映画。

犯罪王リコ」は、ワーナーが送り出した最初のヒット作だ。映画は観客に大きなショックを与えた。リコに扮したエドワード・G・ロビンソンは、客を震え上がらせた。正真正銘の悪党をこれほど前面に押し出した映画は、だれも見たことがなかったからだ。

ロビンソンが扮したリコの本名は、チェザーレ・エンリコ・バンデッロという。リトル・シーザーの異名にふさわしく、この男はチビで見栄坊で大風呂敷で、しかし度胸と悪知恵なら人に負けていない。最初のうちこそケチな盗みを働いていた彼だが、シカゴに出てからは腕と才覚を生かし、あれよあれよという間に裏社会でのし上がっていく。

リコの手は、すぐに内ポケットの銃に伸びる。背は低いが頑健そうな身体つきで、人を見据えるときはまばたきひとつしない。声は粘っこく、一度聞いたら耳にこびりつく。アメリカ映画ではまったく特異な存在で、むしろ日本映画の月形龍之介山本礼三郎に匹敵する凄み、といいかえたほうが適切だろうか。

そんなリコが「まずは銃だ。理屈はあとで」と力ずくの態度を隠さず、暗黒街を制していく。邪魔者や競争相手を倒しつつ、小ボスから中ボスへ、さらには大ボスへと変身していくリコの姿は、まるで成長するマムシだ。その後のロビンソンが「私にはギャングの役しか来ないのか」と嘆いたのもむべなるかな。脇役全員が霞んで見えるほど、この映画のロビンソンはあくどく輝いている。

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画像2

犯罪王リコ

原題:Little Caeser
監督:マービン・ルロイ
製作:ダリル・F・ザナックハル・B・ウォリス
脚本:フランシス・エドワード・ファラゴー、ロバート・N・リー
出演:エドワード・G・ロビンソンダグラス・フェアバンクス・Jr.、グレンダ・ファレル
1931年アメリカ映画/1時間19分

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■「民衆の敵」のトム・パワーズ

ジェームズ・キャグニー(右)の演技がニコルソンやディカプリオの芝居の原型となった ジェームズ・キャグニー(右)の演技が
ニコルソンやディカプリオの芝居の原型となった
(C)1931 Warner Bros. Entertaiment Inc.
All Rights Reserved.
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ジェームズ・キャグニーの扮するトム・パワーズが、朝食の席で愛人(メイ・クラーク)につべこべ文句をいわれる。トムは逆上し、半分に切ったグレープフルーツを愛人の顔に押しつける。思わず息を呑むこの場面で「民衆の敵」は古典になった。

だがこの映画には、さらに強烈な場面がある。たとえば、敵対する組織との銃撃戦で自身も被弾したトムが、額からおびただしい血を流し、「俺もヤワだな(アイ・エイント・ソー・タフ)」とつぶやく場面。あるいは、扉を開けると、ミイラさながら包帯でぐるぐる巻きにされたトムがそこに立っている場面。後者などは文字どおり度胆を抜かれる場面だが、ここではくわしい説明を避けておこう。

トムは歩く癇癪玉だ。鉄拳は眼にも止まらぬ速さだし、銃の引き金を絞るときは眉ひとつ動かさない。自分を苦しめた相手に復讐するときはもちろん、ボスを蹴り殺した馬に対しても、彼は容赦なく制裁を加える。

つまり、トムは過激なサイコだ。というより、キャグニーの卓抜な造形力がトムをサイコに仕立てた。1930年代という時代の制約を思うと、これは驚異的に新しい演技だった。

だとすれば、トムに扮したキャグニーが、現在のジャック・ニコルソンレオナルド・ディカプリオを連想させるのも不思議ではない。いや、キャグニーをひとつの祖型として、ニコルソンやディカプリオが登場したといいかえるほうが実情に近いだろうか。

それにしても、「民衆の敵」のキャグニーはなぜこれほどドライなのだろう。この映画に比べれば、のちにキャグニーの名を高からしめた「汚れた顔の天使」や「彼奴は顔役だ」などは、人情味豊かな任侠映画の一種と呼んでも差し支えないと思えてくる。

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民衆の敵

原題:The Public Enemy
監督:ウィリアム・ウェルマン
脚本:ハーベイ・ショー
出演:ジェームズ・キャグニー、ジーン・ハーロー、ジョーン・ブロンデル
1931年アメリカ映画/1時間24分
発売元:ワーナー・ホーム・ビデオ
価格:2980円(税抜) DVD発売中

[筆者紹介]

芝山幹郎

芝山幹郎(しばやま・みきお)。48年金沢市生まれ。東京大学仏文科卒。映画やスポーツに関する評論のほか、翻訳家としても活躍。著書に「映画は待ってくれる」「映画一日一本」「アメリカ野球主義」「大リーグ二階席」「アメリカ映画風雲録」、訳書にキャサリン・ヘプバーン「Me――キャサリン・ヘプバーン自伝」、スティーブン・キング「ニードフル・シングス」「不眠症」などがある。

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