天空からの招待状 : 佐々木俊尚 ドキュメンタリーの時代

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コラム:佐々木俊尚 ドキュメンタリーの時代 - 第22回

2014年12月9日更新

第22回:天空からの招待状

台湾政府で建設事業の航空写真を20年にわたって撮り続けてきたという、異色の映画監督がつくった作品。台湾全土を空撮した映像が次々と展開し、山並みや海岸、田園といった美しい光景が紹介される。さらには自然破壊の恐ろしい実態も描かれ、文明への警告が語られる。しかし私が非常に興味深いと感じたのは、そうした環境問題的ストーリーではなく「空撮のみのドキュメンタリ」という手法そのものだった。

台湾のいまを全編空撮で捉えた 台湾のいまを全編空撮で捉えた

かなり凝った空撮映像だ。単に上空から俯瞰するだけではなく、鉄塔や高層ビルなどを斜めや真横からなめるようにパンしていき、時には小型無人ドローンぐらいの低空飛行にまで下りて、海での漁のようすや遊んでいる子供たちの動きの細部まで入りこんでいく。さすがに表情まではわからないけれど、逆に表情を描かず、彼らの身体のさまざまな所作だけを俯瞰して見ることによって、人間の「生」を別の角度から照射して見せられているような感覚をいだく。

自然も同様だ。さまざまな角度から森や海や川を撮影し、ときにそれは模様のようにも見える。自然の美しさは至近距離で感じる肌触りや空気感だけにあるのではなく、樹木や水や繁茂する草や岩石、砂原などの要素が、モザイクのように組み立てられた構成美にもあるのだということをあらためて気づかされる。

画像2 俯瞰することで見えてくる現実も…

間近に見ているだけでは気づかないさまざまな自然破壊も。海岸の消波ブロックは、波打ち際を歩いて見ているときには「ああテトラポッドがあるね」という淡い感想しか思いつかないけれど、俯瞰した映像で遠くまで延々と消波ブロックが続いているのを見せつけられれば、「海辺の景観がこれほどまでに損なわれているとは」という衝撃を観客に与えることができる。

これはデータジャーナリズムのアプローチに似ている。ジャーナリズムは人間にインタビューして人間を取材するものだ、というのは私が新聞記者だったころに先輩たちからさんざん教え込まれた原理原則だったが、しかし最近は「データを取材する」という新たな手法が登場している。政府や自治体、企業などが持っている大量の公開データが最近はたくさんあるので、こうしたデータを読み取るというやり方だ。データの多くは単なる数値の羅列で、それがエクセルの表みたいなかたちで配付されているだけなので、普通の人には読み取るのが難しい。これを専門的技能によって読み取り、さらにそれを図解などをフルに使ってわかりやすくまとめるのが、データジャーナリストの仕事。

航空写真家として活動してきたチー・ポーリン監督 航空写真家として活動してきたチー・ポーリン監督

人間のなまの肉声はもちろん大事だが、しかしそれだけでは気づかないこともある。データジャーナリズムは、人間の肉声とは別の次元に潜むさまざまな事実を切り出すことによって、より立体的に人間社会のリアルを映し出すことができる。

本作の空撮映像も同じだ。至近距離で見た人間や自然のアップ映像からは見えない美しさや残酷な事実を、より立体的に切り出すことができている。本作は人間の搭乗するヘリコプターから撮影されているが、最近は超小型の無人ドローンも普及してきている。ドローンによる撮影がもっと一般化して、独自の撮影技法なども確立してくると、この「空撮によって人間社会の生々しさを別角度から切り取る」という新たな手法も広がっていくだろう。

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■「天空からの招待状
2013年/台湾
監督:チー・ポーリン/製作総指揮:ホウ・シャオシェン
12月20日より、シネマート新宿・六本木ほか全国順次公開
作品情報

[筆者紹介]

佐々木俊尚

佐々木俊尚(ささき・としなお)。1961年兵庫県生まれ。早稲田大学政経学部政治学科中退。毎日新聞社社会部、月刊アスキー編集部を経て、2003年に独立。以降フリージャーナリストとして活動。2011年、著書「電子書籍の衝撃」で大川出版賞を受賞。近著に「レイヤー化する世界―テクノロジーとの共犯関係が始まる」(NHK出版新書)など。

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