コラム:緊急事態コラム「新型コロナと映画業界のニュー・ノーマル」 - 第2回

映画館が営業再開するため、必要な条件は何か…鍵は感染者数と作品 ミリオンセラー経済解説者・細野真宏氏が解説

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新型コロナウイルスの蔓延による緊急事態宣言を受け、日本中のほぼすべての映画館が営業を休止しています。自宅での鑑賞をはじめ、映画やコンテンツを楽しむ需要自体は根強くあるものの、“映画館という場”は窮地に立たされています。

前回の記事では、映画.comが独自に実施した読者アンケートを通じ、“コロナ終息後の観客動員”を予想しました。そこで、新たな疑問が浮上してきました。

それは――そもそもの“初歩的な問い”ですが――「映画館が営業を再開するため、必要な条件はなにか?」です。

加えて、(緊急事態宣言の解除は大前提として)映画館が再開する条件が整うのは、いつになるのか。コロナ禍が完全に終息するまでか、あるいはその前か。そして営業を再開した後、映画館や観客に要求されることとは、何なのか。

今回はそれらを探るべく、社会保障にも詳しい経済解説者・映画評論家の細野真宏氏(経済本として日本初のミリオンセラーとなった「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」の著者)に話を聞きました。

同氏によると、営業再開のためには、大きく分けて2つの要素が鍵になると言います。ひとつは“感染者数”。もうひとつは“作品”です。


■鍵1:(実効)再生産数 全国の1日の感染者数が減っていかないと…

細野真宏氏
細野真宏氏

映画館が再開する具体的な時期は、緊急事態宣言が解除され、人々が(注意を払いながらも)普通に外出できるようになるまでは、実現され得ないでしょう。その時期を推測するための材料が、現状、あまりにも乏しいのです。

(注:5月5日時点で、政府は緊急事態宣言下での映画館の利用制限について、特定警戒都道府県以外の34県では、マスクの着用や十分な座席間隔の確保などを前提に、利用制限の緩和や解除が可能とする指針を示しました)

しかしながら、「営業再開のために必要な条件」は明確です。まずは「感染者数の推移」がキーポイントになります。細野氏によると「今回の新型コロナウイルスは100年前に世界的に猛威をふるった、いわゆる“スペイン風邪”と似た現象です。現代は医学が圧倒的に進歩しているとはいえ、“これでウイルスが消える!”といった特効薬の開発は当分、先だと思うのが現実的です」。

「そこで世界の考え方は“いかにウイルスと共存するか”になってきています。つまり1、2年の長期戦と見るのが妥当です。そして感染が限定的になったら、“生活を楽しみながら、感染対策もする”というライフスタイルに意識を変えることが大事になるのです」

では、その“感染が限定的になる”とはいつなのでしょうか? それは「全国の1日の感染者数が、全国の1日の回復者数より減っていく段階」とのこと。その時期は「今の推移を見ると全国的には、おそらく緊急事態宣言の解除となる5月末には達成される見通し」といいます。

ということは、映画館は6月から再開が可能なのでしょうか? 細野氏は「基本的には可能でしょう。ただ、第2波に備えるため絶対に医療崩壊を避けなければならないので“医療体制にどのくらい余力が生まれているのか”も大事な判断基準になる」と条件を挙げます。

さらに、経済活動が再開されたとて、完全な治療薬がないなか、いつまでこの状態が続くのでしょうか? 細野氏は「集団免疫」をキーワードとして挙げます。「スペイン風邪は、多くの人が感染することで免疫を確保した“集団免疫”により収束しました。一般に感染して治る人が増えると、ウイルスが広がらなくなるので感染力が弱まるのです。目安としては感染が“国民の6割を超えた段階で自然に収束に向かえる”のです。そのため私たちは生活を楽しみながらウイルスと共存し、1~2年の期間の対策が必要になりそうなのです」。

そんな状況の場合、映画館はどのような体制で営業することが理想でしょうか? 細野氏は海外の事例を基に、「まず新型コロナウイルスが流行り出した時に行われた“市松模様の座席の解放”(座席間隔をあけた販売)というのが必要条件でしょうか。それだと50%の座席の解放ですが、アメリカの場合は25%の座席の解放から始めるところもあるようなので、日本も25%でのスタートもあるのかもしれません。ただ、ソーシャルディスタンスは“最低1メートル”となるので現実的には50%解放で行けると思います」と予測します。

「いずれにしても、自粛疲れで早く映画館の大きなスクリーンで最高の臨場感を味わいたい、という欲求がどんどん増しています。そのため、映画館も最大限の対策をして、私たちも当面マスクを着用しながら感染を防ぐ工夫も重要です」


■鍵2:作品 上映作品はどうなる? 映画館と配給会社の思惑を予想する


細野氏は「映画館が営業を再開するタイミングは、公開される作品もキーポイントです」と話します。これはどういうことでしょうか。

上記の感染防止策を踏まえると、一時的にせよ、映画の市場規模は縮小せざるを得ない。したがって、興行収入の平均は例年を下回ることは必至。客足もいつ戻るのかわからず、混沌とした状況が続くことも予想できます。

例えば「平時ならば10億円稼いだはずの作品が、実際に公開してみたら2億円しか稼げなかった」という事態も起こり得ます。となると配給会社としては、混乱期はなるべくコストのかからない手法で糊口をしのぎつつ、世の中が安定した時期に自信のある新作で大きく稼ぎたい、と考えるのが道理です。

一方で映画館としては、上映作品が調達できなければ、営業を再開できません。さらに、集客力の高い作品が上映できなければ、営業コストが嵩むばかり。なので一刻も早く、より魅力的な大作を確保したいわけです。こうして、配給会社と映画館の“つば迫り合い”が起こり得る……。

とはいえ、コロナ禍で生じた傷口をいかに広げないのも喫緊の課題です。可能な限りコストを回収するため、配給会社が我慢できず「最悪、当初の想定を大きく下回っても仕方ない」と公開に踏み切ることも十分にあり得ます。

ところで、新作の公開延期が相次いだ緊急事態宣言直前の映画館を振り返ってみると、TOHOシネマズ日本橋では「ジョーカー」「ローマの休日」「ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY」などが上映されており、その旧作中心のラインナップの珍しさが話題となりました。

営業再開直後では、このときと同じような状況になる可能性もあります。実際に本日5月7日から、感染が限定的な県では一部の映画館が営業再開を決定しましたが、やはり再上映や旧作が中心となっています。


■映画館でリスクが高いのはロビー 混雑解消に必要な施策は?


映画館で「座席の間引き」を行なっても、実は感染リスクが高くなるのは、劇場ロビーや物品販売の場所です。細野氏は「300席あるけど100席しか販売しない、など座席を間引いて営業することに加え、人の密集を減らすために1日の上映回数を調整することも大事な検討課題」と指摘します。

できるだけ人が密集しないようなタイムスケジュールがポイントになる、と。「鉄道のダイヤのように、一番効率的なスクリーン(上映作品)の組み方をする。これは、長年、タイムスケジュールを組み続けていた映画館のプロフェッショナルな腕の見せどころだと思います」。

また、「映画館の集客力をいち早く戻す最善の策は、物品が飛ぶように売れる、多くのコアなファンが駆けつける作品を優遇すること」とも話します。多くのファンが駆けつける作品。これは次のセクションでも言及します。


■今後を占う象徴的な作品はふたつ、「ドラえもん」と「Fate」


先日の映画.comによる読者アンケートの結果、「コアな映画ファンは映画館が再開すれば、すぐにでも行く」という傾向がわかりました。一方で、「ライトユーザーは映画館への警戒心を持っており、再開直後の客足は鈍そう」ということもわかりました。

ライトユーザー、特に複数人で来場する確率が高いファミリー層を動員できないと、本格的な回復には至りません。また、これだけ連日のように新型コロナウイルスの報道がなされるなかで、果たしてコアな映画ファンはどこまで動いてくれるのか。

細野氏は、全国での営業再開後の興行を占う試金石として、象徴的なふたつの作品を挙げます。

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ひとつは、東宝によるファミリー層向け最強コンテンツの一角「映画ドラえもん のび太の新恐竜」(8月7日公開予定)です。「いち早く公開延期を表明し、3月から8月にまでずらした同作。“子どもを安心して連れていけるかどうか”という親の判断が、映画館が“元に戻る”ポイントでしょう。もし、同作で再延期の判断が出れば、夏休み映画に暗雲が立ち込めるかもしれません」と語ります。ファミリー向けのキラーコンテンツを、最大手の東宝がどう配給するかによって、見通しが見えてきそうです。

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ふたつめは、コアファンを多く動員する可能性が高い「劇場版 Fate/stay night [Heaven's Feel] III. spring song」。「これは東京都の自粛要請により、ギリギリのタイミングで公開延期になりましたが、実は、公開予定だった全国の映画館では予約が殺到していて、ほぼ満席状態にまでなっていました。そのくらいコアなファンが多く、圧倒的に集客力が高い作品です」と明かします。

「このアニプレックスの配給作品は、週ごとの劇場入場者プレゼントも魅力で、リピーターも含め、集客の大きな助けになっています。これは3部作の最終章で、Iの興行収入は15億円でIIの興行収入は16.6億円となっていて、さらには最終章のIIIは作品の出来も良いので、平時であれば少なくとも15億円は稼いだはずなのです。この作品こそが、まさに物品が飛ぶように売れる作品なので、この集客力のある作品を最初に持ってくると劇場にも映画ファンにも双方に良い状況を生み出すと期待できるのです」

この2作品が、どのような興行を繰り広げるのか、注視したいと思います。配給サイドがGOサインを出すのか、あるいは様子見が続いてしまうのか。そしてファミリー&コア層は、果たしてどれだけ映画館へ来てくれるか……。

そこではおそらく、アフターコロナの映画市場の傾向、そして“新たな基準”が、浮かび上がってくるはずです。


■まとめ


・映画館が営業再開する鍵1:「感染者数」。全国の1日の感染者数が、全国の1日の回復者数より減っていく状況にならないと、全面的な再開は厳しい。

・映画館が営業再開する鍵2:「公開される作品」。配給会社と映画館とのせめぎ合い。再開直後は旧作中心の編成になる可能性も。

・再開後は当然、感染防止策の徹底が求められる。特にリスクが高いのは劇場ロビーで、混雑緩和には座席間隔をあけた販売、上映本数を減らすなどの対策が有効。

・6月から8月までは「ドラえもん」「Fate」の公開時期と観客動員に注目。ファミリー&コア層がどれだけ映画館へ来てくれるか、傾向が浮かび上がるはず。

筆者紹介

尾崎秋彦のコラム

尾崎秋彦(おざき・あきひこ) 映画.com編集部。1989年生まれ、神奈川県出身。「映画の仕事と、書く仕事がしたい」と思い、両方できる映画.comへ2014年に入社。「いろんな人に映画を好きになってもらうには?」を考えて記事を書いています。

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