コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第299回

FROM HOLLYWOOD CAFE

コロナ禍のなか、フィービー・ウォラー=ブリッジの新ドラマ「RUN」がスタート

HBOの新作「RUN」
HBOの新作「RUN」

ゴールデングローブ賞を主催するハリウッド外国人記者協会(HFPA)に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリストの小西未来氏が、ハリウッドの最新情報をお届けします。
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ロサンゼルス郡とカリフォルニア州の両方から自宅待機命令が出されてから、すでに10日が経過した。食料品店や薬局なら買い出しに行けるし、レストランからデリバリーしてもらうことも可能だ。ジムに行けないのはつらいが、運動のための外出は許されている。取材や出張の予定が軒並みふっとんだショックはあったものの、人生初の自宅待機体験を楽しんでやろうという心の余裕があった。はじめのうちは。

でも、世の中は暗くてイヤになる話題ばかりだし、おまけにルールを守らない一部の人たちによって、行動範囲が狭められていく。いまや公園で子供たちを遊ばせることも、海岸でランニングすることも出来なくなった。せめて楽しい映画やドラマでもあればいいのだが、職業柄、大量の映画やドラマを視聴しているので、現実逃避できるコンテンツは残っていない。

事態をこれ以上悪化させないためには、必要な措置であることは理解しているし、自分がかなり恵まれた状況にいることも分かっている。

でも、新たな日常がもたらす刺激が失せて、かつては当たり前だったことが出来ない不自由さを痛感するようになると、ゴールのないマラソンを走らされている気になってきた。マラソン経験は決して多くはないが、42.195キロという果てしなく思える距離も、一歩ずつ進めばいつか終わりが来ることを経験上理解している。でも、いまはどれだけ走ればいいのか分からないし、そもそも前に進んでいるのかどうかもわからない。

主人公に突然届いた大学時代の彼氏からのメールで物語が動き出す
主人公に突然届いた大学時代の彼氏からのメールで物語が動き出す

そんななか、まるで救世主のように新ドラマ「RUN」が現れた。しかも、制作総指揮は「Fleabag フリーバッグ」「キリング・イヴ Killing Eve」とノリにノっているフィービー・ウォーラー=ブリッジである。企画・制作総指揮(共同)を務めているのは、イギリスの舞台監督でウォラー=ブリッジ作品常連のヴィッキー・ジョーンズだ。鬱ぎ込んだ気分を吹き飛ばしてくれることを期待しつつ、さっそくオンラインの視聴リンクをクリックした。

主人公は、アメリカの田舎町で平凡な生活を送る30代女性のルビー。ある日、ルビーの携帯に「RUN」(=逃げろ)という短いテキストが届く。送り主はビリーなる人物。躊躇したのち、ルビーはまったく同様の「RUN」と打ち込んで、返信ボタンを押す。そして、そのまま空港に直行し、ニューヨーク行きの飛行機に飛び乗るのだ。

ビリーとは、ルビーが大学生のころに付き合っていた彼氏だ。いまから17年前、ふたりはある約束を交わしていた。もし、どちらかが現実生活から逃げたくなったら、「RUN」というテキストを相手に送る。そして、もしも相手が同じテキストを返信したら、すべてを投げ出して、ニューヨークのグランドセントラル駅で落ちあおう、と。かくして、運命の再会を果たしたふたりは、大陸横断鉄道に乗りこむ。「RUN」は逃避行に出た男女を描く、1話30分のドラマなのだ。

“運命の再会”でロマンチックな展開…とはいかない?
“運命の再会”でロマンチックな展開…とはいかない?

通常のラブストーリーであれば、男女が運命の再会を果たせば、そこでジ・エンドとなる。だが、「RUN」は男女が再会したところから物語が始まる点がユニークだ。ルビーとビリーは駆け落ちした熱愛カップルとはほど遠く、現実生活から逃れるために手を組んだ運命共同体に近い。疎遠にしていたから、お互いの現状を知らないし、そもそもどうして現在の生活を捨ててきたのか分からない。だが、かつては恋におちた関係であるし、身体的に健全な男女であるから、肉体的には強く惹かれあう。そんなふたりが一緒に逃げなくてはならないところから、笑いとドラマが生まれてくるのだ。

思い返せば、「Fleabag フリーバッグ」は性に奔放なヒロインの言動で笑わせつつ、徐々に明かされる彼女の過去でぐっとハートを掴んでいった。「RUN」はメリット・ウェバー(「ナース・ジャッキー」)とドーナル・グリーソン(「エクス・マキナ」「アバウト・タイム 愛おしい時間について」)が演じる男女のかけあいの面白さや、逃走劇が提供するサスペンスで引きつけつつ、のちに明かされるふたりの逃走理由が共感を呼ぶ仕掛けになっている。

「RUN」のメールを送った彼氏役をドーナル・グリーソンが演じる
「RUN」のメールを送った彼氏役をドーナル・グリーソンが演じる

これまで3話しか見ていないが、あいにく「Fleabag フリーバッグ」や「キリング・イヴ Killing Eve」ほどにはハマれていない。それは、「RUN」そのものよりも、新型コロナウイルスの現実がフィクションに侵食してしまったせいだ。

ニューヨークやシカゴの雑踏の場面では誰も社会的距離を取っていないじゃないか、と感じてしまうし、列車の車内で誰もマスクをしていないことが気になる。ふたりが事に及ぼうとするときも、ロマンティックな気分になるより、「濃厚接触していいのか?」と心配してしまったり。続きは事態が収束してから見た方がよさそうだ。

「RUN」は、4月12日(現地時間)から全米放送開始。

筆者紹介

小西未来のコラム

小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を選考するハリウッド外国人記者協会(HFPA)に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」(http://www.miraikonishi.com)では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。

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