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コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第293回

2018年6月8日更新 小西未来

第293回:SNS時代に問われるスターの在り方。大復活ドラマの打ち切りが意味することとは…

11年ぶりに復活した大ヒット主演ドラマを人種差別ツイートで打ち切りに追い込んだロザンヌ・バー 11年ぶりに復活した大ヒット主演ドラマを
人種差別ツイートで打ち切りに追い込んだロザンヌ・バー
Photo by Alberto E. Rodriguez/Getty Images

日本ではあまり馴染みがないけれど、アメリカで1980年代後半から90年代中頃まで人気を博した「Roseanne」というシチュエーション・コメディがある。よくあるホームコメディなのだが、経済的にぎりぎりの生活をしている家庭が舞台という設定が当時は斬新だった。主人公を演じるコメディ女優ロザンヌ・バーの実体験に基づいたストーリーが、多くの視聴者の共感を集めた。

だが、94年に男女6人の友情と恋愛を描くシチュエーション・コメディ「フレンズ」がスタートすると、入れ替わるように失速。人々の関心は、田舎町を舞台にした冴えない人々のドラマから、マンハッタンを舞台に展開する若者たちのライフスタイルに移り、 「Roseanne」は97年にシーズン9で幕を下ろした。

その「Roseanne」が、今年3月に復活した。録画視聴も含めると、初回放送を2726万人が視聴。米ABCはすぐに翌シーズンへの継続を決定し、同番組は好調のまま5月22日にシーズン10の全米放送を終えた。

しかし、5月29日に主演のバーがツイッターで人種差別発言を行うと、事態が急展開を迎える。米ABCは「ロザンヌ・バーのツイッターでの発言は、忌まわしく、嫌悪を催させるものであり、我々の価値観と相容れないものです」と、「Roseanne」の継続を破棄。親会社ウォルト・ディズニー社のロバート・アイガー最高経営責任者も「我々に出来ることはひとつ。正しいことをすることです」と、ABCの決断を支持する声明をツイッターを通じて発表した。

継続決定が一転、放送終了へ 継続決定が一転、放送終了へ Robert Trachtenberg/ABC via Getty Images

「Roseanne」はトランプ大統領のお気に入りで、彼の支持派が主な視聴者層だったことから、突然の放送終了は大騒動に発展。トランプ大統領までもがツイッターで非難をしたが、ディズニーは毅然とした態度を取った。大人気番組を失う経済的損失よりも、ブランドに傷がつくことを恐れたのだ。いまやどのメディア企業も巨大な複合体だ。ひとつのコンテンツをクロスメディアの手法で多角的に展開できる一方で、否定的なイメージが全体に広がるリスクを抱えている。そのためスキャンダルには敏感で、映画プロデューサー、ハーベイ・ワインスタインのセクハラ疑惑が発覚したときも、アマゾンはすぐにワインスタイン・カンパニーが企画中だったテレビドラマの中止を即時決定しているほどだ。グローバルにビジネスを展開するディズニーが、人種差別を容認する姿勢を見せるという選択肢があるはずもなく、「Roseanne」の再放送を行っていた米Huluやバイアコム傘下の米ケーブル局も揃って放送中止を決めている。

だが、今回の事件は米ABCの自業自得だとみる向きもある。もともとバーは奔放な言動で知られており、90年にメジャーリーグの国歌斉唱を行った際は、金切り声をあげて股ぐらを掴むジェスチャーを行い、ブッシュ大統領から叱責を受けた前科の持ち主だ。権力者に媚びず、「Roseanne」では同性愛など当時はタブーとされていたテーマに果敢に取り組む姿勢が評価されていたが、放送終了後は保守派に転向。熱心なトランプ支持者となり、右派が好む陰謀説をツイッターで垂れ流していた。もともとの奔放な性格に、いつしかバランスを欠いた思想が加わっていたのだ。

それでも米ABCが「Roseanne」を復活させたのは、同社を含むネットワーク局がテレビドラマにおいて劣勢に立たされているからだ。かつてテレビドラマといえばネットワーク局だけが手がけていたものだが、いまではケーブル局やストリーミング会社が加わり、年間500本前後も制作されている。そのなかで生き残るために、映画のドラマ化や往年のドラマのリブートなど、もともと知名度の高い企画が優先されることになり、「Roseanne」も復活となったわけだ。

18年1月の米テレビ批評家協会プレスツアーに集合した「Roseanne」のキャストたち 18年1月の米テレビ批評家協会プレスツアーに集合した
「Roseanne」のキャストたち
Photo by Frederick M. Brown/Getty Images

米ABCの思惑通り、復活版「Roseanne」は大ヒットとなるものの、バーのツイートにより自滅。ただし、問題はバーのみなので、彼女が演じるキャラクターを排除し、スピンオフとしての継続が画策されているという。

今回の事件で明らかになったのは、インターネットが普及する前の時代のスターを起用する際は、慎重になったほうがいいということだ。かつてはマスメディアがある程度情報をコントロールできたから、都合の悪い情報はもみ消されていた。また、一般の人々によって詮索をされることはないし、被害者の声が広く伝えられることも稀だった。つまり、どんな悪事を働いても、権力さえ握っていれば、トップの座に居座ることができたのだ。

実は、「Roseanne」が88年に放送を開始したとき、全米ナンバーワンのシチュエーション・コメディといえば、「ザ・コスビー・ショー」だった。その主人公を演じたビル・コスビーは、いま、かつての性的暴行で有罪判決が下ったばかり。インターネットの洗礼を受けていないかつてのスターたちには、用心したほうがよさそうだ。

[筆者紹介]

小西未来

小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を選考するハリウッド外国人記者協会(HFPA)に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」(http://www.miraikonishi.com)では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。

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