コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第27回

2002年3月5日更新

FROM HOLLYWOOD CAFE
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ILM(Industrial Light & Magic)といえば、小学生のころのぼくには聖地のような存在だった。当時は「スター・ウォーズ」や「レイダース」、「E.T.」などの特撮映画が大ブームで、それらの仕事を一手に引き受けていた特撮工房がILMだったのである。映画のパンフレットには、ミニチュア大のミレニアム・ファルコン号やブルースクリーンの前に立つハリソン・フォードの姿など、特撮映像の「種明かし」が必ず載っていて、ぼくは職人たちの地味ながらもその徹底した仕事ぶりに感激したものだ。思えば、ぼくが映画製作に興味を持つようになったのも、ILMがきっかけだったのかもしれない。

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その後、ぼくの趣味は、SF大作から現実的なものへと移っていったのだけれど、それでもILMという名前は、自分のなかでキラキラとした輝きを失わなかった。小学生時代、女の子よりもSF映画に興味があったぼくにとって、それは初恋の思い出のようなものだったのだ。

あれから20年後、ついにぼくはその聖地を訪れることになった。「E.T.」の20周年記念バージョン公開に先駆けて、ILMの訪問取材が可能になったのだ。新「E.T.」は、ILMのCG技術によって生まれ変わっている。その作業をしたスタッフにインタビューするというのが、この取材の目的なのだが、ぼくにとってそんなことはどうでもよかった。ILMの中に入れるのなら──。

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ILMはサンフランシスコから車で1時間ぐらいの、サン・ラファレルという地区にある。もしこの場所を1人で突き止めようとしても、きっと見つけられないと思う。なにしろILMには看板もロゴも出ていない。十数年前にこの建物を買い取ったときから、外見にはなにも工夫を施していないので、さえない会社にしか見えないのだ。見事なカモフラージュである(もちろん、撮影は不許可だ)。しかし、入り口を抜けると、そこにはストーム・トルーパーが待ちかまえていた。さっそく記念写真をパチリ。やたらとミーハーな自分にびっくりである。

しかし、残念なことにこのときがぼくの気分のクライマックスで、あとは下り坂が待っていた。なにしろ組織が大きすぎるのだ。現在1500人近くのスタッフが、「マイノリティ・リポート」や「MIB2」、「超人ハルク」など10本以上の作品に関わっている。社員はプロジェクトごとに班分けされていて、お互いが交わることはない。なんだか、会社としての一体感に欠けるのだ。たとえば、数カ月前にピクサーを訪問取材したことがあるけれど、あそこも600人ぐらいの大所帯ながら、家庭的な雰囲気があり、まとまりがあった。各自がピクサーの作品を支えているんだという自負を持っていた。でも、ILMの若いスタッフたちからは、それを感じられなかった。与えられた仕事を、言われた通りにただこなしているだけという感じ。実際、若くて、従順そうなオタクくんばかりが目についた。ちょっと、いや、かなりがっかりだった。

筆者紹介

小西未来のコラム

小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。

Twitter:@miraikonishi

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