コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第243回

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第243回:アレクサンダー・ペインが描く親子の物語「ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅」

アレクサンダー・ペインは個人的には好きな映画監督だけど、これまで声高には宣伝していないような気がする。たぶん、彼の作る映画の素晴らしさをどれだけ熱く語ったところで、その魅力が伝わることはないだろう、と勝手に諦めてしまっているためだろう。たとえば、J・J・エイブラムスクリストファー・ノーランの新作なら、ふだんは映画をあまり観ない人まで響く可能性があると思うけれど、ペイン監督作品となるとまず期待できないから。

それでも、最新作「ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅」について語らずにいられない。

これはアレクサンダー・ペイン監督の第3作「アバウト・シュミット」と同様、親子の物語だ。息子のデビッド(ウィル・フォーテ)は、田舎の家電量販店に勤める40代の若者だ。2年間同棲していた彼女にも出ていかれ、ぱっとしない毎日を過ごしている。

そんななか、父ウッディ(ブルース・ダーン)が失踪騒ぎを起こす。年老いた父は、100万ドルが当選したという詐欺まがいのダイレクトメールを真に受けて、ネブラスカ州にある会社まで賞金を回収しに行くと言ってきかない。デビッドは仕方なく、父を連れてモンタナから車で送る羽目になる。寡黙で、アルコール浸りの父のことをなにも知らずに育ってきたデビッドは、ふたりきりの長距離ドライブと一連のトラブルを通じて、父に対する理解と敬愛の念を深めることになる。

これだけ書くと、ありきたりの感動ドラマを想像するかもしれないけれど、風刺やダークなユーモアが散りばめられているのがアレクサンダー・ペイン作品の特徴だ。ふたりは父の生まれ故郷に立ち寄ることになるのだが、ここで出会う人々がいちいち個性的だ。また、父が億万長者になったという噂が広まったとたん、態度を豹変させる人が続出して、厄介なことになってしまう。

全編モノクロで撮影されているし、老いというテーマが絡んでいるから、いつもよりもシリアスなトーンだけど、「サイドウェイ」や「ファミリーツリー」といったこれまでの作品と同様、僕は腹を抱えて笑いつつも、切ない気持ちに陥りながら「ネブラスカ」を鑑賞した。笑いとペーソスの絶妙なバランスこそ、アレクサンダー・ペイン作品の魅力なのだ。

同時に、監督がどうやってストーリーを締めくくるのか不安で仕方がなかった。だって、父は宝くじになんて当たっていないのだから、目的地に着いたとき、老い先短い彼には絶望しか待ち受けていない。まさか、後味の悪い結末になるんじゃないかと危惧していたのだけれど、さすがペイン監督が10年以上映画化を温めていたという脚本だけある。意外性に満ちた、爽やかなエンディングが待ち受けていた。

ここまで書いてはみたけれど、自分にはアレクサンダー・ペイン作品の魅力を語るに足りる文章力を持ちあわせていないことにいまさら気がついた。悔しいなあ。

ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅」は、2014年2月に全国で公開。

筆者紹介

小西未来のコラム

小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を選考するハリウッド外国人記者協会(HFPA)に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」(http://www.miraikonishi.com)では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。