コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第220回

2013年4月8日更新

FROM HOLLYWOOD CAFE

第220回:ダニー・ボイル、大英帝国勲章辞退の真意とは?

ダニー・ボイル監督
ダニー・ボイル監督

日本では国民栄誉賞の選考の是非が話題になっているようだけれど、個人的にはダニー・ボイル監督がナイトの勲章を打診されたことが気になっている。イギリスには大英帝国勲章というのがあって、文化や学術、スポーツなどで功績をあげた人に授与される。勲章にはランク付けがあって、上位2階級が「ナイト爵」と呼ばれ、受賞すると男性には「サー」(例:サー・マイケル・ケイン)、女性には「デイム」(例:デイム・ジュディ・デンチ)という敬称がつく。

ダニー・ボイル監督の場合は、2012年のロンドンオリンピック開会式の総合演出の手腕が高く評価され、勲章を打診された。でも、当のボイル監督は「僕の好みじゃない」と拒否してしまったのだ。

先日、ロサンゼルスで直接取材をする機会があったので真意を尋ねると、監督はこう答えた。

「勲章をもらってしまったら、『トランス』のような映画を作ることができなくなるからね」

「トランス」の一場面
「トランス」の一場面

「トランス」とは、オリンピック開会式の準備をしながらボイル監督が同時進行で作った最新作だ。あの壮大でファンタジックな開会式とは対極の、ダークでツイストに満ちた心理スリラーに仕上がっている。

物語は、オークションハウスで働く主人公(ジェームズ・マカボイ)が、フランク(バンサン・カッセル)率いる強盗団に強迫され、名画を強奪するところで幕を開ける。しかし、主人公は頭を強打して記憶喪失になり、名画の隠し場所がわからなくなってしまう。困った強盗団は名うての精神科医(ロザリオ・ドーソン)の協力を仰ぎ、催眠術の力で名画の行方を探ろうとする、というのが一応の筋書きだ。どんでん返しがいくつもあって、さらに過去と現在と催眠中のトランス映像が入り交じって、パズルのような映画になっている。なんとなくクリストファー・ノーラン監督の「メメント」に似ているけれど、ボイル監督によれば憧れのニコラス・ローグ作品をイメージして作ったという。

撮影現場でのダニー・ボイル監督
撮影現場でのダニー・ボイル監督

最近のダニー・ボイル監督といえば、「スラムドッグ$ミリオネア」がアカデミー賞で作品賞・監督賞を含む8冠、「127時間」も6部門でノミネートされた。オリンピック開会式の総合演出まで務めたいま、サー・ダニー・ボイルとなって英映画界に君臨する道だって選べたはずだ。たとえば、映画賞に絡むような、社会的に意義のある安全な映画だけをやっていれば、ずっと威張っていられただろう。それなのにリスキーでやんちゃな映画を作らずにいられないところが、とっても彼らしい。

「僕にとって本当の特権というのは、好きなことを続けさせてもらうことだ。それ以外はなにもいらない」

勲章を断ってすっきりしたのか、監督のコメントはいちいち格好良い。他にも「トレインスポッティング2」とか、オリンピックの裏側とか、たっぷり語ってくれたんだけど、その話はまたいずれどこかで。

筆者紹介

小西未来のコラム

小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。

Twitter:@miraikonishi

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