コラム:細野真宏の試写室日記 - 第59回

細野真宏の試写室日記

映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。

また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。

更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)

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第59回 試写室日記 「ハスラーズ」、「37セカンズ」。“小規模公開=出来の悪い作品”ではなく、小規模公開でも見ておく価値が十分にある作品!

2019年12月10日@ショーゲート試写室(ハスラーズ)配給元:リージェンツ
2019年12月11日@アスミック試写室(37セカンズ)配給元:エレファントハウス、ラビットハウス

年間に1200本規模で映画が公開されると、当然、小規模公開の作品も多数出ることになるわけですが、「小規模公開=出来の悪い作品」という単純な話でもないのが作品選びの難しいところです。

今回紹介する2作品は同じ今週末2月7日(金)に公開され、共に公開規模が45館くらいとなっていますが、この2本は、まさに「出来の良い小規模公開作品」なのです!

まず、「ハスラーズ」の方は、ジェニファー・ロペスがアカデミー賞で助演女優賞にノミネートされるか注目された作品ですが、残念ながら前哨戦のゴールデングローブ賞助演女優賞のノミネートで止まってしまいました。ただ、「演技が注目される」ということは、そもそもの「作品自体の出来が良いことの証し」であって、「ハスラーズ」はアメリカで興行収入100億円を超える大ヒットを記録しています!

これまで「リーマン・ショック」を経済的な視点から描く作品は多くありましたが、やはり経済の話は難しいようで、それほど一般の人に届きにくいという面がありました。

ところが、本作では「リーマン・ショック」という題材を扱いながら、「ストリッパーたちがウォール街の男たちから大金を巻き上げる」という、それこそ“経済の知識が全く不要な実話がベース”となっているため、気軽に見られる利点があります。

私が本作で一番注目したところは、プロデューサーに、リーマン・ショックを描きアカデミー賞を受賞した「マネー・ショート 華麗なる大逆転」のアダム・マッケイや、アダム・マッケイ監督作の“おバカ映画”で主演を務めることの多いウィル・フェレル、そしてジェニファー・ロペスが名を連ねていたことです。この製作陣なら作品のクオリティーは保証されているようなものでしょう。

主演は、昨年に世界で予想外の大ヒットを記録した「クレイジー・リッチ!」で主演を務めゴールデングローブ賞で主演女優賞にもノミネートされたコンスタンス・ウー

ニューヨークのストリップクラブで、ちょっと冴えない感じの新人として働き始めた主人公デスティニー(コンスタンス・ウー)が、トップダンサーであるラモーナ(ジェニファー・ロペス)と出会い、教えを請いながらバディーを組みます。

お店には主にウォール街で儲けまくっている男たちが来店するのですが、徐々にバディーも軌道に乗り始めた矢先に「リーマン・ショック」…。

「リーマン・ショック」という経済危機は、多くの業種にダメージを与えるのですが、中でも、金融業界には壊滅的なダメージを与えたため、その影響をモロに直撃するのは、実は、金融マンたちが大金をバラまいていたストリップクラブだったりするわけですね。

ただ、それまでウォール街の金融マンらの数々の悪行を目にしてきたラモーナは、「真面目に働いても生活が苦しいのに、経済危機を引き起こした張本人であるウォール街の金融マンたちは、なぜ相変わらず豊かな暮らしをしているのか」と“逆襲”を開始します。

金融業というのは不思議な世界でもあり、実は割と犯罪まがいな事もやっていて、「犯罪まがい」と「犯罪」のスレスレの事案が多いため不問に付されることが多いのですが、ラモーナらの逆襲は「犯罪」になってしまうので、本作は「クライムムービー」という位置付けになるのでしょうか。

ただ、その逆襲の仕方や、それにまつわる人間模様も非常に興味深いため、実話でありながら「エンターテイメント作品」でもあるのです!

スリリングな展開ながら、ゴージャスで楽しく、時にはホロッとしてしまう「クライム・エンターテイメント」の傑作として仕上がっている作品でした。

次に「37セカンズ」ですが、こちらは邦画でメジャーではないので、存在さえ知らない人も多いのではと思われます。

ただ、間違いなく、邦画でありながら「非常にクオリティーの高い良質な作品」に仕上がっています!

まず、監督と脚本がHIKARIという聞いたことのない人物となっています。

それもそのはずで、大阪市出身で18歳で単身で南ユタ州立大学に留学し、今ではロサンゼルスに移住している女性監督で、本作が「長編映画のデビュー作」となっているからです。

特筆すべきは、本作は「ベルリン国際映画祭」で、「パノラマ観客賞」と「国際アートシネマ連盟賞」を史上初のW受賞という快挙を成し遂げているのです!

タイトルの「37セカンズ」というのは、出生時に「37秒間呼吸ができなかった」ために、手足が自由に動かない身体になってしまった女性が主人公の作品になっているからで、障がいを持つ主人公と、その罪悪感を持つ過保護な母親との関係などを中心に描かれています。

これだけだと、これまでにも似たような作品がありそうな気がしますが、本作は、様々な意味で、これまでに見たことのない作品となっています!

まず、主人公は障がいのため、ゴーストライターという立場にいますが、自立しようと漫画家を志望し、その過程において「性」への目覚めも生まれます。

これまで障がい者の「性」というと、実在の熊篠慶彦リリー・フランキーが扮して描いた「パーフェクト・レボリューション」などがありますが、本作の「37セカンズ」の方が圧倒的なリアリティーがありました。

過去の似たような作品と見比べてみても、本作の「邦画」としてのグレードの差が明らか過ぎるほど画面から溢れ出し突出しています!

見終わった後に、「これは今後が楽しみな監督が出てきたな」と珍しく少し興奮してしまいました。

当然、ハリウッドも黙っているはずがなく、すでにマイケル・マンが総監督を務めるテレビシリーズの監督の一人に選ばれたり、ユニバーサル・ピクチャーズなどで映画の大型プロジェクトが動き出しているようです。

ちなみに「37セカンズ」では、「パーフェクト・レボリューション」の“本人”である熊篠慶彦が一番自然な形で出演していたり、オーディションで選ばれた演技初挑戦の主役の佳山明も含めてキャスティングのセンスがかなり良いですね。

この映画については「百聞は一見に如かず」で、あらすじなどからは絶対に見えてこない「映画ならではの深さ」があるので、是非お近くで上映されているラッキーな人は見てみてほしい作品です!

筆者紹介

細野真宏のコラム

細野真宏(ほその・まさひろ)。経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。

 首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。
 10年連続完売を記録し続けている『家計ノート2020』が遂に完成し、「老後に2000万円が必要って本当?」も詳しく解説!