コラム:細野真宏の試写室日記 - 第48回

細野真宏の試写室日記

映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。

また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。

更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)

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第48回 「アナと雪の女王2」。前作は、実は「前編」だった?! 前作を見た人で、本作を見ない人はいるのだろうか?

2019年11月15日(字幕版)、18日(吹替版)@ディズニー試写室

いよいよ今週の金曜日(11月22日)から、特に日本では大注目作「アナと雪の女王2」が公開されます!

今から5年前の2014年の3月14日に公開された「アナと雪の女王」は、歴史的な記録を作りましたが、まずはその記録の作られ方から振り返ってみましょう。

そもそも「アナと雪の女王」の公開日は、アメリカでは2013年11月27日だったので、日本では3か月半ほどの「宣伝期間」をしっかりと確保していました。

ただ、これだけだとハリウッド映画の日本公開では、よくある手法ですよね。

ところが、「アナと雪の女王」では明らかに違っていたのです!

まず、配給元のディズニーがテーマ歌「Let It Go~ありのままで~」のポテンシャルに気付き、異例の展開をしていました。

それは、ディズニー試写室で別の作品の試写を見る際に、急きょ「アナと雪の女王」でエルサが「Let It Go~ありのままで~」(字幕版)を歌い上げるシーンをそのまま流すようにしたのです!

完成披露試写会や通常の映画館で他作品の「予告編」が上映前に流れるのは当たり前の光景ですが、公開前の数分の歌のシーンだけを、別の作品の試写を上映する前に丸々流す戦略は、私は他では見たことはありません。

この手法は「流石!」の一言で、このシーンを見せるだけで「Let It Go~ありのままで~」という歌の良さが伝わりやすくなりますし、革新的な映像も同時に見せることができるので、あの紹介の仕方は最高だったと思います。

私は、記憶では3回くらいこの歌の映像を見ましたが、だんだん「これはアカデミー賞の楽曲賞は取るだろうな」と普通に思えてきました。

もちろん作品自体も早く見たくなり、その後に本編も見て、「これはアカデミー賞の長編アニメ賞も確実だな」と出来の良さに感心していました。

そして、公開前の3月2日にアカデミー賞が発表され、見事に「W受賞」を果たすわけですが、「アナ雪伝説」はこれが終わりではなく始まりだったのです!

公開時期を春休み期間と上手く合うように設定したり「アカデミー賞効果」やマスコミ試写での高評価もあって、オリジナル作品であったのに初速は3日間で興行収入9億8640万5300円と、興行収入50億円くらいは見込めそうな、まずまずな結果となりました。

ところが「口コミ」と共に、オリジナルを超えるようなエルサ役の松たか子、アナ役の神田沙也加の歌が響き渡る「日本語吹替版」の需要が「春休み期間」も合わせて高まり、週末動員ランキングでは3月17日で初登場1位になってから、2014年4月21日で「名探偵コナン 異次元の狙撃手」が登場するまで「5週連続1位」を記録していたのです!

しかも「名探偵コナン 異次元の狙撃手」に負けたのは初週だけで、4月28日からは再び週末動員ランキング1位に返り咲き、春休みを駆け抜けGWでも1位になるだけではなく、4月28日から6月30日まで「10週連続で1位」を記録し、合計で「15週も週末動員ランキング1位」にとどまったのです!

注目すべきは、作品の完成度の高さによる「口コミ」です。自然と作品に入り込め楽しめる「音楽映画」として、新規に加えてリピーターも増え、毎週のように興行収入が上がっていっていたのです!

そして、4週、5週、6週目と、ほぼ同じ興行収入を稼いで勢いが止まらず、公開からわずか1か月ほどの4月19日には「ディズニー作品」で最短の「興行収入100億円突破」を記録したのです。

さらに、今でこそ常識化しつつあるイベント的な「“みんなで歌おう♪”歌詞付き」バージョンといった上映スタイルも出てきて親子で参加する流れも加速していきました。

ブルーレイやDVDの発売も迫っていた公開16週目の段階では、週末の興行収入は1位でもピーク時の半分以下の2億7438万円くらいになりましたが、もうこの段階での興行収入は242億円を突破していたのです。

しかも、週末動員ランキング1位から落ちても、17週目(3位)に興行収入は246億円を超え、ブルーレイやDVDの発売直前の18週目(4位)には興行収入が248億円、ブルーレイやDVDの発売後の19週目(8位)には興行収入が251億と伸び続け、最終的に日本の「歴代興行収入3位」の255億円を記録したのです!

(ブルーレイやDVDの発売をもう少し遅らせていれば、歴代2位の「タイタニック」の262億円を超えていたのかもしれないのです)

最近だと、これに近い熱量を感じる動き方をした作品は、昨年の興行収入130.9億円を記録した「ボヘミアン・ラプソディ」なのかもしれません。

ボヘミアン・ラプソディ」の場合は、観客は、ほぼ大人でしたが、「アナと雪の女王」の場合は親子も対象で、ざっくりと2倍程度の興行収入になるのは大まかに納得はできます。

ちなみに、「アナと雪の女王」は「ボヘミアン・ラプソディ」と同様にアメリカ以外の国では、日本が最も興行収入が高い国となっています。

さらに言うと、実は「アナと雪の女王」は、アメリカと日本の2か国だけで「世界興行収入の半分以上」を稼ぎ出しているのです!

それほど、日本では「アナと雪の女王」という作品との相性が良かったわけですね。

さて、では「アナと雪の女王2」では、再び「アナ雪旋風」は吹き荒れるのでしょうか?

まず、前作と同様に、テンポ良く無駄なシーンがなく、終始クオリティーの高い映像なのは流石だと思いました。

歌も前作同様に自然に流れていき、ミュージカル映画のお手本のような出来栄えでした。

雪だるまのオラフはすっかり「癒しキャラ」や「ムードメーカー」的な存在として、ストーリーにメリハリを付けるキャラクターにまでなっています。

ただ、これはオラフに限らず、今回は、「前編」とも言える前作によってキャラクターは十分に浸透しているので、それぞれのキャラクターが個性を発揮しまくっています。

そうなのです、本作は「アナと雪の女王2」となっていますが、イメージとしては、「アナと雪の女王 後編」といった感じで、実は前作の「アナと雪の女王」は「前編」だったのだと思いました。

この2本で、ようやく「アナと雪の女王」という作品の世界観がキチンとまとまった気がします。

前作では世界観についていくのに必死だったり音楽を楽しんでいて考えていなかったのですが、そもそも姉妹なのにエルサには魔法が使えて、アナには魔法が使えないのは不思議ですよね。

なので、前作の「アナと雪の女王」を見た人で本作「アナと雪の女王2」を見ない人がいたら、私は、素直に「えっ、なんで?」という感じです。

とは言え、「アナと雪の女王2」の興行収入が前作と同様に250億円も行けるのか、というと、まだ未知数でしょうか。

まず、公開時期が前作のように春休み公開でなく、前作のようなハイペースにはなりにくい時期です。しかも1か月後には同じディズニー配給の強敵「スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け」まで公開されます。

前作の「アナ雪旋風」は、「Let It Go~ありのままで~」の浸透から「レリゴー旋風」とも呼ばれましたが、今回は“未知の旅”を歌った「イントゥ・ジ・アンノウン~心のままに」も同様に浸透し「ミチタビ旋風」が吹き荒れてくれるのかにもかかっていると思います。

歌というのは、どの段階でブレークするのか読みにくいものなので、こればかりは様子見でしょうか。

ちなみに「字幕版」は、終始安定した歌唱力だったので、大人には良いかもしれません。

とは言え「吹替版」も松たか子神田沙也加の歌唱力は健在で、どちらかをおススメするのなら「吹替版」ですかね。

例えば前作の「Let It Go」は原曲は英語ですが、頭にあるのは、松たか子が歌っている日本語版「Let It Go~ありのままで~」ですし、「雪だるまつくろう」にいたっては、原曲のタイトルすら頭にないくらいなので、私も含め多くの日本人は「アナと雪の女王」と言えば、吹替版のイメージなのだと思います。

「吹替版」のエンディングでは、後半は「字幕版」と同様の原曲が流れるので、聞き比べてみるのも良い気がします。

強いて言えば、母親の歌だけは「字幕版」の方が上なのかもしれません。

では肝心の「アナと雪の女王2」の興行収入ですが、今年は「アラジン」「天気の子」「トイ・ストーリー4」と興行収入100億円を突破した作品が3本も出ているので、まずは景気良く興行収入100億円は余裕で突破してほしいところです。

そして、「アナと雪の女王」の世界観は日本と相性が抜群だと思うので、150億円、200億円と期待をどんどん上回っていったらうれしいですね。

これは、前作のようにリピーターがどのくらいの規模で出てくれるのか、にかかっているような気がします。

本作でもエンディングの後には、ちょっとした映像が続くので、最後まで席を立たないようにしておきましょう!

筆者紹介

細野真宏のコラム

細野真宏(ほその・まさひろ)。経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。

 首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。
 10年連続完売を記録し続けている『家計ノート2020』が遂に完成し、「老後に2000万円が必要って本当?」も詳しく解説!