コラム:細野真宏の試写室日記 - 第10回

細野真宏の試写室日記

映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。

また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。

更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)

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第10回 「ペンギン・ハイウェイ」。日本のアニメーション映画はまだまだポテンシャルがある

2018年7月20日@東宝試写室

ペンギン・ハイウェイ」の短い映像を初めて「めざましテレビ」で見たときには、「う〜ん、あまり期待できないかな」と正直、思っていました。

ただ、そのあとに試写室で実際の本編の映像を見はじめると、「あれ、アニメーションのクオリティーは高いほうだ」と前のめりになっていきました。

見終わった今、私は、この作品の出来は良いと思っています。

個人的には、特に、最初の主人公の少年の一人語りと、最後の少年の一人語りの感じが「成長」や「想いの強さ」を感じられて好きですね。

エンターテインメント作品としても私は成立していると思います。

ただ、「えっ、この作品って原作が存在するの?」と思ってしまったくらい、ちょっと不思議で深い世界を描いています。

そのため、子供は単純に絵の可愛さなどで「面白かった」と素直に反応してくれそうですが、大人は少し深い世界観にちょっと戸惑う人も出てしまうかもしれません。

とは言え、そもそも日本のアニメーション映画の代表格といえる宮崎アニメも、実はもっと奇想天外な話をしていたんだと私は思っていますが……(笑)。

この「ペンギン・ハイウェイ」の場合は、ある一つの物理現象の名前をキーワードとして出すと、かなり理解しやすくなると思いますが、これはネタバレにもつながりかねないので、ここでは控えることにします。

本作が意外と深いのは、以下のような父親からの教えがいくつか少年の机まわりに貼ってあり、それらをもとに少年の「謎解き」が進んでいくことにもあります。

●「問題解決の考え方」

・問題を分けて小さくする

・問題を見る角度を変える

・似ている問題を捜す

●「問題が何かをよく知る」

●「複数の問題は一つの問題かもしれない」

この父親の教えの視点は、極めて正論で、これは社会現象を考えるとき、さらに経済などのニュースを読み解くとき、

あるいは、人間関係について考えるとき、といったように、本当にどんな分野でも共通するような重要な手法なのです。

それを大人の学者がやるのではなく、主人公の子供たちがやってみせることに、この作品の面白さがあります。

また、この作品で注目したいのは「スタジオコロリド」という、2011年にスタジオジブリなどの20代のクリエイターが集まってできた制作会社が作ったことです。

初めての長編映画でこれが作れてしまうのは、なかなかのポテンシャルを感じます。

配給会社は「東宝」本体ではなく、小規模公開作品を多く手がける「東宝映像事業部」になっていますが、そう言えば、今のところ宇多田ヒカルがテーマ曲を手掛けたアニメーション映画でコケた作品がないのも注目なのかもしれないですね。

物語のカギとなるお姉さん役の蒼井優を筆頭に、声優陣もさすがだなぁと感心する上手さです。

公開規模は193館と決して少なくはないので、まずは、ほぼ同時期に東宝で配給されるスタジオポノックの「ちいさな英雄 カニとタマゴと透明人間」に勝つと面白いのかもです。

「東宝配給で短編集ながらブランド化を狙っているスタジオポノック」 VS 「東宝映像事業部配給で長編デビュー作のスタジオコロリド」の行方に注目です。

筆者紹介

細野真宏のコラム

細野真宏(ほその・まさひろ)。経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。

 首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。
 10年連続完売を記録し続けている『家計ノート2020』が遂に完成し、「老後に2000万円が必要って本当?」も詳しく解説!