コラム:映画館では見られない傑作・配信中! - 第7回

映画館では見られない傑作・配信中!

“配信時代”を生き抜くソダーバーグの挑戦 センセーショナルな「ザ・ランドロマット パナマ文書流出」を見逃すな

映画評論家・プロデューサーの江戸木純氏が、今や商業的にも批評的にも絶対に無視できない存在となった配信映像作品にスポットを当ててご紹介します!

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Netflixの今年最大の話題作は間違いなく11月27日から全世界配信開始のマーティン・スコセッシ監督最新作「アイリッシュマン」ということになるだろう。だが、同作は11月5日には東京国際映画祭でも上映されるし、おそらく昨年の「ROMAローマ」のように、いくつかの映画館でも上映され、年末から来年にかけての賞レースでも話題の中心となるはずなので“映画館では見られない”作品ということにはならないはずだ。

「ザ・ランドロマット パナマ文書流出」メリル・ストリープが世界を揺るがした機密文書に迫る
「ザ・ランドロマット パナマ文書流出」メリル・ストリープが世界を揺るがした機密文書に迫る

そんななか、なぜかあまり大きな宣伝もされずに今月Netflixで独占配信が開始された「ザ・ランドロマット パナマ文書流出」は、いち早く“配信の時代”を見抜き、映画、テレビ、配信というメディアを縦横無尽に駆け巡りながら幅広いジャンルの監督作やプロデュース作を積極的かつ野心的に発表し続けている、今最も注目すべき映像作家のひとり、スティーヴン・ソダーバーグの最新作。まさにこれぞ“映画館では見られない”必見の話題作だ。

主演はメリル・ストリープ。共演がゲイリー・オールドマンアントニオ・バンデラスシャロン・ストーンジェフリー・ライト、デヴィッド・シュワイマー、ロバート・パトリックジェームズ・クロムウェルと超豪華。キャストの名前を並べただけでも、これが映画ファンなら見なければならない1本だということが分かるだろう。今年のベネチア映画祭にも出品された作品で、従来の権利売買、配給網に乗っていれば間違いなく全国公開されていただろう。

内容も極めてセンセーショナルでタイムリー、かなり攻めている。その強烈な内容でモデルとなった弁護士から配信差し止めを求める訴訟を起こされているほど。ひょっとすると、宣伝が大規模でない理由はそこにあるのかもしれない。

“ランドロマット”とはコインランドリーの意味、つまりここでは資金洗浄の比喩だが、日本人にはあまりピンと来ない響き。サブタイトルに“パナマ文書”が入っているからなんとなく分かる人には分かるが、この邦題はちょっと不親切だし、もったいない。

映画は2016年に起きた、有名政治家や企業家など世界中の富裕層の租税回避のためにペーパーカンパニーを乱立させていたパナマの法律事務所の機密文書が流出した一大スキャンダルを題材に、国際金融システムにおける不条理やモラルなき利益追求主義をブラックユーモアたっぷりに描いていく。

ストリープ演じる主婦エレンは、観光船の事故で夫を亡くす。だが、観光船を運営する会社が入っていた保険は詐欺まがいのもので、謎のペーパーカンパニーにまた売りされ、被害者家族への和解金の目処も立たない。エレンは、独自に保険会社の調査を開始し、その大元がパナマに本社を持つ謎の会社であることを突き止めるが……。

オールドマンとバンデラスが狂言回し的に演じるのは、パナマを拠点に国際的な租税回避網を築いて莫大な利益を上げた法律事務所モサック・フォンセカの創業者ユルゲン・モサックとラモン・フォンセカ・モーラ。そのふたりが、何ひとつ悪びれることなく世界中の強欲な金持ちの金を税金から回避させた手口を自慢話のように語る一方、醜悪な守銭奴の代表として汚職スキャンダルで失脚し、逮捕された中国の政治家、薄煕来とその妻、谷開来も登場、谷開来がイギリス人実業家ニール・ヘイウッドを毒殺した事件まで描かれる。

外見は軽快なコメディ・タッチだが、その芯は骨太で過激に挑戦的だ。その根底にあるのは、世界に蔓延するモラルなき金儲け至上主義と拡大する格差への怒り。持たざる者たちは徹底的に搾取され、何かが起こっても誰も責任を取らず、金持ちはより金持ちになり、その金が政治にも利用されている。クライマックスでストリープが見せるサプライズと闘争本能むき出しの叫びは、合衆国の現政権にも向けられている。だが、これは決して遠い海の向こうの話でも、他人事でもない。ソダーバーグは、笑わせ楽しませながら、見る者にしっかりと怒りを共有させてくれる。

セックスと嘘とビデオテープ」(89)、「エリン・ブロコビッチ」(00)、「トラフィック」(00)などで数々の賞を受賞したスティーヴン・ソダーバーグは、「サイド・エフェクト」(13)で映画監督引退を宣言後、テレビでの活動へ主軸を移して米HBOとの医療ドラマ「The Knick ザ・ニック」(Amazon Prime Videoで配信中)、アマゾン・プライムとの青春コメディ「レッド・オークス」(Amazon Prime Videoで配信中)、自らの監督作をシリーズ化したStarz!との「ガールフレンド・エクスペリエンス」(Amazon Prime Videoで配信中)、Netflixとの西部劇「ゴッドレス 神の消えた町」(Netflixで配信中)など幅広いジャンルのシリーズをプロデュース、日本やヨーロッパ各国では劇場公開された監督作「恋するリベラーチェ」(13)ももともとはHBOのテレビムービーで、アメリカでは劇場公開はされていない。

「ゴッドレス 神の消えた町」
「ゴッドレス 神の消えた町」

17年に「ローガン・ラッキー」で映画監督復帰するが、テレビや配信での活動もさらに活発化させ、シャロン・ストーン主演のHBOのミニシリーズ「モザイク 誰がオリヴィア・レイクを殺したか」(Amazon Prime Videoで配信中)では6話すべてを監督、続く劇場用映画「アンセイン 狂気の真実」(18)では全編iphone7+で撮影して話題となるなど、実験的な企画にも次々と挑んでいる。

「ハイ・フライング・バード 目指せバスケの頂点」
「ハイ・フライング・バード 目指せバスケの頂点」

今年もこの「ザ・ランドロマット パナマ文書流出」の前にすでにNBAを題材にした低予算の監督作「ハイ・フライング・バード 目指せバスケの頂点」(19)をNetflixで発表して好評を得ているし、すでにStarz!で製作総指揮を務めたグレッグ・アラキが監督するコメディシリーズ「Now Apocalypse(原題)」と米軍兵士がアフガニスタンで起こした犯罪を追ったドキュメンタリーシリーズ「Leavenworth(原題)」がスタートし、ストリープが続けて主演する劇場用映画の監督作「Let Them All Talk(原題)」もすでに撮影を終え、ポストプロダクション中と、その勢いは留まるところを知らない。

ソダーバーグこそ常に新しい表現手段や媒体を駆使して、次々と挑戦を続け、問い続ける最先端の映像作家といえるだろう。彼の活動からは今後も目が離せないのである。

筆者紹介

江戸木純のコラム

江戸木純(えどき・じゅん)。1962年東京生まれ。映画評論家、プロデューサー。執筆の傍ら「ムトゥ 踊るマハラジャ」「ロッタちゃん はじめてのおつかい」「処刑人」など既存の配給会社が扱わない知られざる映画を配給。「王様の漢方」「丹下左膳・百万両の壺」では製作、脚本を手掛けた。著書に「龍教聖典・世界ブルース・リー宣言」などがある。「週刊現代」「VOGUE JAPAN」に連載中。twitter.com/EdokiJun