コラム:シネマ映画.comコラム - 第18回

2022年9月30日更新

シネマ映画.comコラム

リベンジスリラー→(良い意味で)騙された 「PIG ピッグ」は愛と喪失を巡る“美しい映画”

第18回目となる本コラムでは、10月7日からの劇場公開を前に、9月30日から10月2日までの3日間、先着100名様限定で“公開直前プレミア上映(配信)”する「PIG ピッグ」をピックアップして、見どころなどを紹介します。

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【作品概要】

ニコラス・ケイジが主演を務め、溺愛するブタを取りもどそうとする男を演じた作品。「へレディタリー 継承」、「ジュマンジ」シリーズのアレックス・ウルフが共演し、長編デビューとなったマイケル・サルノスキが監督を務めています。新宿シネマカリテの特集企画「カリコレ2022/カリテ・ファンタスティック!シネマコレクション2022」(2022年7月15日~8月11日)で上映され好評だったことから、単独劇場公開へと結びつきました。

2021年製作/91分/G/アメリカ
原題:Pig

【物語】

オレゴンの森の奥深くでひとり孤独に暮らす男ロブ。彼にとって唯一の友だちは忠実なトリュフ・ハンターのブタで、収穫した貴重なトリュフを取引相手の青年アミールに売った金で生計を立てていました。そんなある日、ロブはライバルのハンターから襲撃を受けて負傷し、ブタを連れ去られてしまいます。愛するブタを奪い返すため、ロブはアミールとともに犯人を探し始めますが……。


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ニコラス・ケイジが“後世に残したい出演作”として選出 「私の最高の仕事」

PIG ピッグ」が全米公開されたのは、2021年7月。それ以降、海外メディアの情報に触れていくうちに「ニコラス・ケイジが主演した『PIG』、めちゃくちゃ良作っぽいぞ……!」と期待値が高まっていました。

米アカデミー賞前しょう戦のひとつとして注目される米ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞では、監督のマイケル・サルノスキが新人監督賞を獲得。続けて、バラク・オバマ元米大統領による“2021年のお気に入りの映画14本”にも選出され、米IndieWireが発表した「187人の批評家、ジャーナリストの投票による2021年の映画ベスト50」では14位にランクインしています。

極めつけは、主演のニコラス・ケイジの自己評価が高いという点。本人役として出演した最新作「The Unbearable Weight of Massive Talent(原題)」のプロモーションで、米掲示板型サイト「レディット」のAMA(Ask Me Anything)に登場したケイジは、一般ユーザーから寄せられたさまざまな質問に答えています。

そこでユーザーからこんな質問を投げかけられました。

「後世に残せる映画が3本しかないとしたら?」

ケイジは「救命士」「リービング・ラスベガス」とともに、なんと「PIG ピッグ」を選んでいるんです! 続けて「PIG ピッグ」出演の理由を聞かれると、こんなコメントを残しています。

「オペラ的な演技を一連の映画でやったので、もっと静かで自然な演技スタイルに戻りたいと思っていた。あの映画は私にはフォークソングや詩のよう感じられた。そして、ロブというキャラクターはとてつもない悲しみと、自らに課した孤独と戦っていた。2020年から21年にかけてパンデミックを経験した私たちも、おそらく同じように喪失感と孤独を感じており、だからこそ多くの人の共感を呼んだのだと思う。大好きな映画のひとつで、おそらく私の最高の仕事だと思う」

そう、ケイジ自身が「私の最高の仕事」と評しているんです。となると、これは“スルー厳禁”でしょう……!

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●(良い意味で)騙される! 愛と喪失に関する“美しい物語”だった

「俺のブタを返せ。」という激強コピー。慟哭のリベンジスリラー。劇中カットに写っているケイジが、ズタボロ&血みどろ。これらの要素から、当初はこんなストーリーを予測していました。

・最愛のブタを奪われた男が、武器を手に取り、犯人を追い詰めていく!

・男には、実は壮絶すぎる過去があって……その要素が白熱の戦いに作用していく!

つまり、犬がブタに変わった「ジョン・ウィック」です。しかも「主演:ニコラス・ケイジ」ですから、そんな展開は容易に想像がつきますよね。ブタ奪還のために、命をはるニコラス・ケイジ(それはそれで格好いい)。きっと過度な暴力描写があふれかえるのでしょう。

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ところが……完全に騙されました(良い意味で)。実は本作“リベンジスリラー”とうたっていますが、鑑賞してみると、印象がガラリと変わってしまうんです。どちらかといえば、愛と喪失に関する“美しい物語”と言えるでしょう。ケイジの演技を絶賛する意見が多いという点も納得です。予測とは180度異なりましたが、本当に素晴らしい演技でした。

物語は、3部構成。各パートのタイトルには“料理の名前”が付けられています。これらがストーリーに関わっていくので、そのリンクにも、ぜひご注目を。物語にトリュフが絡んでいるから、料理の名前? いえいえ、もっと深い意味合いが生じてくるのです。キーとなっていくのは「記憶(思い出)」というもの。「どんな味だったのか」「誰と食べたのか」「どのような感情を抱いていたのか」「何処で食べたのか」。これらの要素が複雑に絡み合いながら、意外な方向へと導かれていくんです。

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●ロブは何者? 徐々に明かされる過去に惹きつけられる

本作の特徴のひとつは「過去を“見せず”に過去を描く」というもの。フラッシュバックなどは一切使用せず、現在軸をメインに物語を展開。この潔さが、鑑賞者をグイグイと惹きつける要因にもなっているのです。

トリュフ・ハンターのブタと孤独に暮らしているロブ。彼は、なぜこのような生活を送っているのでしょうか。その点が一切明かされないまま「ブタ強奪事件」が発生。ここから私たちは、ロブの「ブタを追い求める旅」に同行することになるのですが……しばらく鑑賞していくうちに気づくはずです。この旅が「ロブの過去を知る」という点でも機能していることを。

ブタの行方を追い求めてやってきたのは、大都会ポートランド。とある人物が、ロブに対して、こんなことを言うんです。「お前の名前はかつて世間で通用した。今はいないも同然。存在していないことと同じだ」。ポートランドの“裏側”にも詳しく、ロブのことを知る者も多い。無口かと思いきや、人の本質を射抜く言葉を紡ぎ出す(レストランを舞台にしたシーンでは、名言連発です)。

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ロブは、一体何者なのでしょうか?

次第に明かされていくロブの過去。そこに旅の同行者・アミールの意外なバックグラウンドが絡んでいく。つまり「謎解きミステリー」という観点でも楽しめる作品となっているのですが……油断は禁物。不意に“感動”がやってきますから。

大切なものを失ってしまうこと。人は、その現実とどのように向き合い、再生への道を歩み出すのか。

「ブタを返せ」が推進力となっていく物語は、心に染み入るラストへ向かっていきます。鑑賞後も強い余韻が残る、秀逸な1本です。ぜひご覧になってみてください。

(執筆/編集部 岡田寛司)

>>【(良い意味で)騙されちゃう「PIG ピッグ」】

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