コラム:シネマ映画.comコラム - 第16回

2022年9月15日更新

シネマ映画.comコラム

日本アニメの影響を受けた喪失と癒しの物語「秘密の森の、その向こう

第16回目となる本コラムでは、9月23日からの劇場公開を前に、9月16日から19日までの4日間、先着100名様限定で“公開直前プレミア上映(配信)”する「秘密の森の、その向こう」をピックアップして、見どころなどを紹介します。

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【作品概要】

燃ゆる女の肖像」のセリーヌ・シアマが監督・脚本を手がけ、娘・母・祖母の3世代をつなぐ喪失と癒しの物語をつづった作品。本作が映画初出演のジョセフィーヌ&ガブリエル・サンス姉妹が8歳の少女を演じ、「女の一生」のニナ・ミュリス、「サガン 悲しみよこんにちは」のマルゴ・アバスカルが共演しています。2021年・第71回ベルリン国際映画祭コンペティション部門出品。

2021年製作/73分/G/フランス
原題:Petite maman

【物語】

大好きだった祖母を亡くした8歳の少女ネリーは両親に連れられ、祖母が住んでいた森の中の一軒家を片付けに来ます。しかし、少女時代をこの家で過ごした母は何を目にしても祖母との思い出に胸を締め付けられ、ついに家を出て行ってしまいます。残されたネリーは森を散策するうちに、母マリオンと同じ名前を名乗る8歳の少女と出会い、親しくなります。そして、少女に招かれて彼女の家を訪れると、そこは“おばあちゃんの家”でした……。


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■三世代をつなぐ“喪失”と“癒し”の物語

18世紀のフランスを舞台に、望まぬ結婚を控える貴族の娘と彼女の肖像を描く女性画家の鮮烈な恋を描いた「燃ゆる女の肖像」で、第72回カンヌ国際映画祭の脚本賞とクィア・パルム賞をはじめ、各国の映画賞を受賞し高い評価を得たセリーヌ・シアマ監督。そのシアマ監督が、本作では8歳の少女を主人公に新たな女性の深淵を描いています。冒頭、少女ネリーが老婦人たちと順番に「さようなら」と別れの挨拶をするシーンが続き、やがて祖母が亡くなったことがわかり、静かな“喪失”からはじまります。

ネリーの母のショックも大きく、その表情から喪失の深さが伺えます。亡くなるまで入院していたこともあってか、森の中にある祖母の家の家具には白いシーツがかけられ、無駄なもののないシンプルな空間として登場しますが、母にとっては思い出の家。窓越しに立つ母をカメラが捉えると、二つの窓に挟まれたように見えるショットにタイトルが被ります。原題は“Petite maman”で、直訳すると「小さなお母さん」です。母はいたたまれず、何も言わずに家を出てしまい、少女は二重の喪失を味わうことになるのです。

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■娘・母・祖母の時空を超えた出会い

祖母の家に父と残されてしまったネリーは、母が子供の頃に遊んでいた近くの森の中で、母と同じ名前の少女マリオンと出会います。このネリーとマリオンを双子のサンス姉妹が演じているので、観客は次第に不思議な空間に迷い込んだような感覚になるでしょう。しかもマリオンに招かれて彼女の家に行くと、そこは祖母の家で、若き日の祖母がいるのです。ネリーはどこから時空を超えたのでしょうか。

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“喪失”の痛みの中、限られた時間をともに過ごし、やがてマリオンが8歳の時の母であるらしいことが明らかにされますが、ネリーとマリオン(サンス姉妹)が瓜二つであることから、二人の境界線が時々交差するように見えます。また、無邪気に遊び戯れる8歳同士の少女ではありますが、二人とも時折大人のような表情を見せるのです。“少女が時空を超えて、子供の頃の母親と出会い友情を育む”というアイディアを深く掘り下げ、シアマ監督は「多くの人が自分自身に置き換えて想像することができるし、親子の関係を見直すことにもなる」と述べています。

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■「宮崎駿監督ならどうする?」日本アニメの影響

“森の中”“少女”“癒し”といったワードなどから察した方もいると思いますが、シアマ監督は撮影中に方向性を見失った時、いつも「宮崎駿監督ならどうする?」と自分自身に問いかけたと打ち明けており、スタジオジブリ作品や細田守監督の「おおかみこどもの雨と雪」にも影響を受けたと述べています。また、子供の視線に合わせ、子供と大人が同じ経験を共有することを目指し、「子供も大人も自分の両親について考えるきっかけになるはず。異なる世代の間に新しい流れをもたらし、あらゆる世代に共通の感動を与えることによって、人々を結びつける作品になるように作った」としています。日本アニメの影響を受けている作品として見ると、より深く味わうことができるでしょう。

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1980年代から90年代に日本で公開されたミニシアター系作品に思い入れのある筆者の世代としては、フランスの名匠ジャック・ドワイヨンによる「ポネット」(1996)が思い起こされました。死んだ母の帰りを待ち続ける幼い少女のひたむきな姿を描き、少女ポネットを演じたビクトワール・ティビゾルが、4歳という史上最年少の年齢でベネチア国際映画祭主演女優賞を受賞したヒューマンドラマです。

「ポネット」
「ポネット」

それからもう一本は、スペインの名匠ビクトル・エリセが1973年に発表した長編監督第1作「ミツバチのささやき」です。スペインの小さな村を舞台に、ひとりの少女の現実と空想の世界が交錯した体験を、少女を演じた子役アナ・トレントの名演と繊細なタッチで描き出し、彼女のつぶらな瞳が忘れられません。(執筆&編集/和田隆

「ミツバチのささやき」
「ミツバチのささやき」

秘密の森の、その向こう」の公開直前プレミア配信は9月16日から19日までの4日間、先着100名様限定ですので、劇場公開前にいち早くご覧ください。

>>【「秘密の森の、その向こう」】

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