コラム:若林ゆり 舞台.com - 第15回

2014年9月16日更新

若林ゆり 舞台.com

第15回:容姿端麗な城田優が、まさかのコンプレックス体験を重ねて演じる「ファントム」のせつなさ!

今回は城田にとって、初めて単独の座長となる大舞台。作品に対する責任感も、尋常なものではない。

「今回は僕がカンパニー全体を見ているという自覚があるので、けっこう生意気になってますよ(笑)。(吉田)栄作さんも先輩ですけど初ミュージカルで『優について行くから』とおっしゃるし、マルちゃん(マルシア)も『ねえ、ここ優だったらどうやる?』なんて聞いてきて(笑)。僕は教えること、演出することが好きなんだなとつくづく思うんです。どうすればいちばん伝わるかということを考えながらやるので、自分でも非常に勉強になる。『すごくわかりやすい』とか感謝してもらえたりするんで、うれしいですね。だからそろそろもう役者やめて、演出のほうに行こうかと(笑)」

こんな城田の頼もしい発言を聞いていると、「よくぞここまで成長を」と、とても感慨深くなる。なぜなら、私は彼が16歳のときの初舞台、ミュージカル「セーラームーン」(タキシード仮面役)を見ているからだ。恵まれた容姿でカッコイイはずなのに、猫背と自信なさげな態度が台無しにしていた。

「そうそう、猫背でした! あの頃はさっき言ったようにコンプレックスの塊で、背が高いのがイヤだったから腰と背中を曲げて、そのまま舞台の上に出ちゃったんですね。もっと自信をもって、『オレってカッコイイでしょ?』って思えてたらピンと立ててたはずなんですけど。そのころは、容姿が仕事をする上でのネックになっていて、『ガイジン顔すぎて使えない』、『背が高すぎる』とか、『絶対売れない』と言われていましたから。その点において、エリックのコンプレックスは感覚として理解はできる。この(エリックが使っている)マスクで顔を隠したら、『入らないで!』という感情になれるし、すぐエリックになれるんです」

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ミュージカル俳優として急成長を遂げたのには、今回の演出家、ダニエル・カトナーが手がけた舞台「4 Stars」への出演も大きかった。世界でもトップレベルのミュージカルスター3人と並び、城田は日本代表として堂々の共演を果たした。想像を絶する高さのハードルをクリアしたのだ。

「ハードルって、自分で決めるものなんですよね。あのときは英語の壁もあった。表現力はいくら持っていたとしても、英語になった途端にまったく違う感覚になってしまうので。いつもの稽古時間の10倍くらいは長くやりました。その時点でのその人の置かれた状況、キャパシティ、タイミングとやらなきゃいけないことでハードルの高さは変わってくるものですけど、僕が選ばれたからこそ、なおさらハードルは高くなったんです。なぜなら、容姿がこうだから。お客さんたちは大半が『ああ、城田くんは英語ができるから出てるのね』って思われていたかもしれない。でも僕は日本で、みなさんと同じように中学校の教科書で初めて英語を学び始めた人間で、自分で勉強して、努力をして言葉も発音も直してきたんです。だってもしそこで僕が非常に日本人っぽい発音で歌ったら、『なんでコイツ選ばれてんの?』ってことになっちゃう。なんで僕が選ばれたのかってことを見せつけるためには、自分が、いま自分が見えている以上に素晴らしい実力を発揮しなきゃいけないということで、非常にハードルが高かったです。ほかの3人は母国語で歌うわけですし、その歌を歌いこなしている世界トップの方たちですから。片や僕は初めてだし、英語だし。完全にアウェイですよね。圧倒的に不利。そういう意味でも非常に成長させてくれた舞台でした」

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「ファントム」でも城田が自分で設定したハードルは、とてつもなく高い。しかし、彼はそれを確実に飛び超えてみせた。いままでにない、若く未熟でやさしく、純粋かつ繊細な城田ファントム=エリック。彼の人間としての愛、喜び、憎しみ、絶望、悲しみといった魂の叫びが美しいメロディに乗って劇場に響き渡り、その衝撃的なまでのせつなさに胸を締めつけらずにはいられない!

「今回はスター選手ばかりではない、フレッシュな選手もベテラン選手も、いろんな選手のいるカンパニーです。でも、だからこそ出る化学反応もあると思うし、上げられるレベルはすべて上げて、『ファントム』の世界観を出したい。何度も上演されていますが、今度は違うねと言わせたい。僕自身もミラクルプレイヤーになれるよう努力して、僕の力で目の前に立ちはだかる階段をエスカレーターに変えてみせます!(笑)」

ミュージカル「ファントム〜『オペラ座の怪人』の真実〜」は9月 29日まで、東京・赤坂ACTシアターで上演中。10月5日~15日、大阪・梅田芸術劇場メインホールで上演。詳しい情報は公式HPへ。
 http://www.umegei.com/musical-phantom/

筆者紹介

若林ゆりのコラム

若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。

Twitter:@qtyuriwaka

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