コラム:若林ゆり 舞台.com - 第137回

2026年9月2日更新

若林ゆり 舞台.com

「嫉妬も隠さない」高め合う歌舞伎界の若手花形3人衆、市川染五郎、尾上辰之助、市川團子の絆が熱い!

右から市川染五郎、尾上辰之助、市川團子
右から市川染五郎、尾上辰之助、市川團子

市川染五郎、尾上辰之助、市川團子。歌舞伎界の次代を担う同世代、盟友同士の3人が、歌舞伎座「秀山祭九月大歌舞伎」で初めて揃って舞台に立つ。3人が共演するのは、染五郎が曽我五郎、團子が曽我十郎、辰之助が静御前を勤める舞踊「春調娘七種(はるのしらべむすめななくさ)」と、「ひらかな盛衰記」「逆櫓(さかろ)」。初めて3人が揃った「娘七種」の稽古初日から、特別な時間が始まっていたようだ。

團子「本当に、踊っていても自然と頬が緩んでしまうような気持ちでした(笑)。でも、それが“だらける”ような雰囲気ではないのが、すごくうれしくて。お互いを高め合うなかに、普段からよく話している3人だからこその関係性も出る。3人で同じ振りを踊るところでは、ちょっとした息遣いを感じられるのも楽しいです。(2人を見て)僕だけ盛り上がっている可能性もあるけどね(笑)」

市川染五郎
市川染五郎

染五郎「僕も楽しかったです。歌舞伎には『車引』や『勧進帳』など、3人の登場人物が中心になる作品がありますけれど、『娘七種』は本当に3人しか登場しない作品。それを同世代で勤められることがうれしいです。これまで3人で『こういうものをやりたいね』という話は重ねてきましたが、実際に3人とも同じ舞台上にいるという状況が、とても不思議というか、新鮮でした。3人が同じ舞台からの目線を共有していることが、すごくうれしかったです」

尾上辰之助
尾上辰之助

辰之助「もちろん稽古中のいまは、まだまだ未完成な部分はあります。でも、“息”というか、3人の呼吸や舞台での調和には、まったく問題がないと思いました。踊りは揃いすぎても、揃わなさすぎてもよくないので、気を遣いすぎないことが大事なのかなと。3人それぞれが自分のやりたいこと、思い描いたものを出して、それが調和するんだと稽古初日に確信しましたので。いい意味での気の遣わなさを大事にすれば、より面白い舞台になると思います」

市川團子
市川團子

「春調娘七種」は、曽我五郎、十郎兄弟と、なぜか静御前が一緒に七種を打ちながら踊る華やかな舞踊だ。

辰之助「『曽我物』(曽我兄弟を扱った作品群)という歌舞伎のなかでもメジャーなシリーズに、静御前が出てくるのはこれしかありません。関係性を探れば、曽我兄弟の仇である工藤祐経は頼朝の直属の家来で、義経を思う静御前にとっても頼朝は敵のようなもの。ある意味、仇が同じという見方はできます。でも、だからといって深いストーリー性があるわけではありません。昔の人が『この物語の主人公と、この物語のヒロインを一緒に出したら舞台映えするんじゃないの?』と考えた、単純な成り立ちではないかと。ですから難しく考えず、見たままの華やかさを楽しんでいただけたら。この踊りは役者で見せるもの。“役者を見に来た”という楽しみ方でもいいと思います」

染五郎「一言一句、思っていたことを言われてしまいました」

辰之助「一言一句、言いました(笑)」

染五郎「もう本当に、その通りです。逆に、考えることを忘れて見ていただきたいくらい。お客様の意識をつかんで離さず、『見ていたらいつの間にか終わっていた』というのが目標です。五郎、十郎、静御前のキャラクターの違いをくっきり見せ、理屈ではなく、歌舞伎のおおらかさや様式美を感じていただく一幕にしたいです」

團子「日本舞踊も、たとえば現代のK-POPやダンスとも、大元は変わらない。その人の体の使い方や癖が個性として出る。その癖を魅力にまで昇華して、それが役とマッチしたときには、たった2秒くらいのことでも『この瞬間が好き』とハマって、そこだけリピートしたくなることもあるはず。『この人が演じる、この役が好き』と思っていただけることを目標に勤めたいと思っています。十郎は穏やかだからといって、体を使わないということではありません。また、いまの言葉でいう“音ハメ”のような楽しさも大切にして、しっかり体幹を使って踊りたいと思います」

画像5

それぞれの役柄は、染五郎の五郎が荒々しく、團子の十郎は穏やかで、辰之助の静御前はおしとやかという役どころ。それは普段の3人にも当てはまるのだろうか?

團子「ハマりません! どう考えても、私は五郎のタイプだと思います」

染五郎「そうかな?」

團子「違う?」

辰之助「五郎とは、またちょっと違うよね。團子ちゃんは團子ちゃん。五郎に当てはまる人間がいまいたら怖いもん(笑)」

染五郎「大河(辰之助の本名)は女方をよく勤めていますし、襲名披露『寿曽我対面(ことぶきそがのたいめん)』では五郎も演じている。五郎も十郎も静も全部できる人ですけれど、この3人だったら静という感じがする。團子くんも全部できる人ですが、このなかでは十郎なのかなという感じです。そういう意味では、ハマるところにハマったような気がします」

辰之助「歌舞伎俳優は、年齢や経験によって演じる役の路線も変わっていくと思うんです。僕も子供の頃は、自分が女方になるという意識はありませんでした。ですが近年、曾祖父や祖父、父のような線の太い立役(物語を引っ張るヒーロー的な男性役)路線を追い求めるのではなく、自分の個性を生かして女方から二枚目のものをやっていくということを決めた。そうしたら楽になりました。染五郎さんも、以前はより線の細い二枚目を演じていたのが、いまは線の太い役もお似合いになる。そうなっていく姿を見るのも、非常にうれしいです。3人がそれぞれ違う特性を持っていて、その個性を伸ばしてきたからこその配役。いまの僕たちにハマったと思います」

筆者紹介

若林ゆりのコラム

若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。

Twitter:@qtyuriwaka

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