劇場公開日 2012年6月2日

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外事警察 その男に騙されるな : インタビュー

2012年5月21日更新
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渡部篤郎、新たなる代表作「外事警察」に抱く思い

いつの時代でもどんなジャンルであっても、最初の一歩を踏み出すには勇気が必要だが、それが求められているものであれば、その道の開拓者として名前を残すことになる。日本版CIA、裏の警察と言われる“外事警察”をテーマに、知られざる裏の組織を描いた「外事警察 その男に騙されるな」もその開拓者であり、ドラマから映画へフィールドを広げ、これまでの邦画にはない緊張感あふれるサスペンスエンタテインメントをつくり上げた。ドラマに続き、映画でも主役をつとめる渡部篤郎は「これまでに公安ものの作品はあったけれど、外事警察を描いたものはなかった。最初に外事ものを作ることができたことはラッキーですね。だって、これから先の外事ものはきっとこの作品をベースにするだろうから」と、開拓者のひとりになれたことを喜び、その魅力を解説する。(取材・文/新谷里映、写真/本城典子)

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渡部が演じるのは、“公安の魔物”と言われる住本健司。任務遂行のためなら手段を選ばない、捜査のためならメンバーでさえもあざむく、民間人をもスパイとして利用する、そんな冷徹さを持った男だ。「住本に騙されるな」というセリフが幾度となく登場することからも、複雑なキャラクターであることは容易に察しがつく。演じる本人も「単に非道とか冷徹とかではかたづけられない」と分析する。

「住本は“公安の魔物”と言われているけれど、人を陥れるひどい男には思えなかったんですよね。感じたのは、正義感。彼は大きな目的=国益を守るために、たくさんのものを犠牲にしている。国益と文字にしてしまうと簡単なことのように聞こえるかもしれないけれど、それはものすごく大きなものであって、彼はそれを守ろうとしている人物。悪という犯罪があり、その悪を退治しなければならない場合、退治する側は悪と同じくらいの思いがないと犯罪を未然に防ぐことはできない。そういったものがこの作品のテーマのひとつでもあると思うんです」

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麻生幾の同名小説「外事警察CODE:ジャスミン」を原案に、「ALWAYS三丁目の夕日」シリーズや「探偵はBARにいる」などを手掛ける古沢良太が、ドラマ同様に脚本を担当。渡部は、自分が出演すると決まった作品の台本を読むとき、どんな役にするのか、この役はこういう声なんじゃないか、こういう感じなんじゃないか……と、役に近づく作業をしながら読むという。今作に関しては「素晴らしい脚本、100点満点の脚本」と絶賛する。住本の独特のセリフや細やかな表情はもちろん、渡部篤郎=外事=住本というハマリ役となっただけに、期待に応える難しさもあったはずだが「それはね、(演技が)上手いから大丈夫(笑)」と、茶目っ気たっぷりにかわしつつ渡部流の役作りを紐解く。

「これをやったら役作りになるとかはなくて、役者自身のバロメーターでしかないんですよね。僕の場合は、私生活にちょっとでも支障が出るようなことがあると、それは役に入っていることになるんです。たとえば、気が重いとかね。ただ、今回に関してはすでにテレビシリーズという山をひとつ越えているので、タフな気持ちでいられたというのはあります。韓国語を話すことも役にとって必要なことなので、苦ではなかったですね」

現在、44歳。「ケイゾク」シリーズをはじめ、数多くのドラマや映画に出演。2010年には映画「コトバのない冬」で監督デビューを果たすなど、表現者として着実にステップアップしている。その秘訣は「柔軟であること」「プレーンでいること」だといい、撮影現場が「楽しくて仕方ない」と言葉を続ける。「劇場版では、住本が協力者として取り込みスパイ行為を指示する果織を真木よう子さんが演じていて、彼女は僕が考えている以上の果織の気迫や悲しみを演じています。共演者である僕は、最初に一番いいポジションでその演技を見ることができるわけですよ。そういう環境に身を置くことができることは、すごくうれしい」。追い込んでいく住本の、“騙し”の演技も光っている。

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住本役があまりにもハマっていることと重みのある題材ゆえに、渡部のイメージが住本=怖い男に近くなってしまうのは必然ともいえる。それでも「外事の取材って、どうも固いインタビューになりがちなんだよね」と自ら軌道修正し、「韓国ロケで相当楽しませてもらったから韓国で何を食べたのかとか聞いてみる?」「住本のスーツって全部オーダーメイドだって知ってる?」と、クールな印象を覆す会話で場を和ませるあたりから、撮影現場で共演陣を引っぱっていたことがうかがえる。そして韓国ロケを経験したことで、映画俳優として「多くを学ぶことができた」と3週間にわたる隣国でのロケを振り返る。

「もともと台湾や韓国や中国の映画が好きだったこともあって、今回の韓国ロケは、彼らの力を借りる、胸を借りようと撮影に臨んだんです。国境を越えるわけだから、不自由なことは多少あるのが当然。でも、韓国は映画を作るということに関して国が協力していますからね、それは大きかった。映画を撮る環境は素晴らしいです」。また、共演したキム・ガンウにも賛辞を贈る。「真面目な方でした。海外の方にとって日本語はものすごく難しいと思うんです。撮影の合間も彼はずっと日本語を勉強していて、『これでいいのか?』とセリフを確認していましたから。うれしかったのは、あるインタビューで彼が(日本の俳優との仕事について)言葉も違うし、どういうリアクションができるのか不安だったけれど、そこに国境はなかったと言ってくれたこと」。アジア映画に興味を持っていた渡部にとって、ガンウの「国境はない」という言葉は心に深く響いたに違いない。

これまでに描かれてこなかった“外事警察”というジャンル、リアルな題材は「これを娯楽として捉えていいのか」という不安を観客に抱かせるかもしれない。そんな不安に対し、渡部は「それは僕もずっと思っていること。日本はまだどこか閉鎖的なところがあって、これは娯楽作品かそうではないのか? 娯楽だとして娯楽として捉えていいのか? と決めたがるんですよね。でも、(どんな内容であっても)真似しなきゃいいんです。戦争映画を見たら戦争反対と思えばいいだけで、僕は『外事警察』は純粋な娯楽作品だと思っています」と主演作への愛を堂々と語る。そして、「映画化はドラマ自体に自信がなければできないこと。俳優としての経験値が増え、映画化に対してもある程度の判断ができるようになるものですが、今回の外事は『いける!』と思ったんですよね。映画ならではの迫力があるはずです」と言葉に力を込めた。

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