遠いところ

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遠いところ

解説

沖縄県のコザで幼い息子を抱えて暮らす17歳の女性が、社会の過酷な現実に直面する姿を描いたドラマ。

沖縄のコザで夫と幼い息子と暮らす17歳のアオイは、生活のため友達の海音と朝までキャバクラで働いている。建築現場で働く夫のマサヤは不満を漏らして仕事を辞めてしまい、新たな仕事を探そうともしない。生活が苦しくなっていくうえに、マサヤはアオイに暴力を振るうようになっていく。そんな中、キャバクラにガサ入れが入ったことでアオイは店で働けなくなり、マサヤは貯金を持ち出し、行方をくらましてしまう。仕方なく義母の家で暮らし、昼間の仕事を探すアオイにマサヤが暴力事件を起こして逮捕されたとの連絡が入る。

「すずめの戸締まり」に声優として出演した花瀬琴音が主人公アオイ役を演じ、映画初主演を果たした。「アイムクレイジー」の工藤将亮監督が、実際に沖縄で取材を重ねて脚本を執筆し、オール沖縄ロケで撮影を敢行した。第23回東京フィルメックスのコンペティション部門で観客賞を受賞。

2022年製作/128分/PG12/日本
配給:ラビットハウス
劇場公開日:2023年7月7日

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(C)2022「遠いところ」フィルムパートナーズ

映画レビュー

3.5遠いところへ、一歩ずつ

2023年8月4日
iPhoneアプリから投稿

 ヒロインも周りの人々も、甘い、おかしい、間違っている!と指摘するのは容易い。けれども、そう割り切るには重たく、果てしないものが本作には詰め込まれていた。「中学からキャバやるのは当たり前」という冒頭のセリフを「まあ、そんなものか」と、客らとともに聞き入れたところから、もう他人事では済まされなくなっていた、と思う。
 頼りない夫の傍でこそこそと金を隠し貯め、あっさり持ち逃げされるアオイ。働かずふらふらし、時には暴力的になる夫マサヤ。酒びたりの義母とその恋人。似たもの同士の友人たち。昔気質の祖母、そしてかつてアオイを捨てた父。誰しも余裕がない。それでも、祖母は幼いケンゴを日々預かり、困窮したアオイを父のもとに連れて行く。義母も、転がり込んできたアオイたちを受け入れる。親友・ミオは保険証のないアオイの治療費を肩代わりする。けれども、アオイの転落は止まらない。
 アオイも彼らも、自分ひとりがやっと浮かべる板ぎれにしがみつき、大海を当てどなくさまよっている。自分の前で親しい人が沈むのは見たくないから、必死に手を差し伸べる。しかし、その手にしがみつけば、共に溺れてしまうと、彼らは互いに分かっている。だからこそ、過剰な期待はしない。救えるとも、救ってもらえるとも思っていない。そのギリギリさ、それゆえの感覚麻痺が息苦しく、堪らなくなった。「ソープでもなんでもして、しっかり稼ぎなさい」と札一枚をヒラヒラさせて説教する父が、アオイから最も遠い分、人でなしだと存分に嫌悪できる存在で、ある意味救いだった。
 砂浜を駆け、水面を弾き飛ばしながら「遠いところに行きたい」と笑っていたアオイ。ラスト、彼女は必死に浮かび続けるのを放棄し、ざぶざぶと海に向かっていく。その先に、何があるのか。彼女が向かって行ったのは、絶望ではないと信じたい。そのためには、この物語が、海の向こうの遠いものだと割り切ってはいけない、と思う。
 中盤、足を踏み外す決意をしたアオイが目にした、セーラー服の少女。あれは、かつての彼女なのだろう。アオイは息を呑み、そのまま彼女を見過ごしてしまう。少女を見過ごさず、一歩踏み出し声をかけるのは、彼女ではなく、ともに今を生きる私たちだ。

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cma

3.5遠いこころ

2023年7月8日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

アオイ役で映画初主演という花瀬琴音の存在感と演技が素晴らしいことは最初に記しておきたい。東京出身ながら撮影前の1カ月間沖縄で生活したそうで、方言が違和感なく聞こえるし、性的なシーンや暴力がらみの場面など難しい演技が求められる要所でもリアルで切実だった。

京都府出身の工藤将亮監督は、沖縄の子どもの困窮した状況やDVなどを描いたルポルタージュ本を多数読み、独自に沖縄での取材を重ねて脚本を書いたという。映画は、2歳くらいの息子がいる17歳のアオイがキャバクラ勤めで生活費を稼ぐ一方、20代前半くらいの夫マサヤが仕事を勝手に辞めてヒモ状態になり、アオイに遊ぶ金をせびり暴力を振るうといったクズっぷりを見せていく。

アオイはその後絵に描いたような転落人生をたどっていくのだけれど、彼女の内面も周囲の人物らの思いもほとんど伝わってこない。アオイはなぜ十代半ばで結婚し子を産んだのか、働かないDV夫と別れようとはなぜ思わないのか、マサヤはなぜ働きたくないのか、祖母をはじめ周囲はなぜ離婚をすすめないのか、行政や民間の支援を求めることを本人も親族もなぜ考えないのか、アオイの友人・海音があの行動に出たのはなぜか等々、観客が当然抱くであろう心理や動機をめぐるいくつもの「なぜ」が描かれないまま、彼女たちはただただ追い詰められていく。

若年層が困窮する状況を提示する意義はもちろんあるだろう。だが悲惨な現状を客観的に見せるだけならルポルタージュやドキュメンタリーにもできる。劇映画のフォーマットを選んだからには、人物の心の内に分け入り、なぜそう行動するのか、なぜそんな生き方を選ぶしかないのかを、分かりやすく説明してとは言わないにせよ、せめて考えるためのヒントくらいは示唆できなかったか。演者たちが素晴らしかったからこそ、なおさらもどかしい。彼女ら、彼らの心は必ずそこあるはずなのに、悲しいほど遠く感じた。

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高森 郁哉

3.5見終わった後、誰かの感想知りたくて仕方ない

2024年9月20日
iPhoneアプリから投稿

まるでノンフィクションのように、登場人物の説明がないまま物語りは行って欲しくない悲惨なところへ、下へ、下へと落ちていく感じでした。
子役の男の子が可愛すぎて、あの自然さは本当に女優さんの子供なのでは?と思うほど。

撮り溜めてあった映画を処理しようと軽い気持ちで見始めた事を後悔しました

ラストで彼女の選択が一番悲しいものであるのなら、お願いだから『子供だけはおいて行ってー』と画面に向かって叫びました。

お願いだから。

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Syuna 31

4.0途中方言が解らず字幕を表示させて初めから観た

2024年6月20日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

特殊な監督だ。加えて知らない俳優達の名演技のおかげで見事にイライラさせられる(特に旦那のマサヤ役の俳優に)。「沖縄の現代のリアリティを描いた」と監督が言ってたが沖縄に限らず、今だに至る所で起こり得る事なのだろう。

[メモ]
・元々「遠いところ」の意味は「沖縄」の事であり、主人公達が出ていきたい「沖縄の外」でもあるらしい。
・後ろ姿を意識したカメラワークが上手い。
・主人公アオイを演じた花瀬琴音の映画初主演作。(過去に『すずめの戸締まり』に声優として出演)
・工藤将亮監督が、実際に沖縄で取材を重ねて脚本を執筆し、オール沖縄ロケで撮影。
・第23回東京フィルメックスのコンペティション部門で観客賞を受賞。
・チェコの第56回カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭で最高賞を競うコンペティション部門に日本映画として10年ぶりに正式出品。約1200席ある上映会場のチケットは事前に完売。上映後は約8分間にわたるスタンディング・オベーションによって、観客から熱狂的に迎えられた。

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