10月20日更新
個人の尊厳や生命を奪う組織悪にメスを入れ、日本のはらわたを凝視する問題作 沈まぬ太陽

- 完成度を問うよりもまず、あれほどまでに物議を醸した原作をよくぞ映像化したと称えたい。これは個人の尊厳や生命までも疎かにした組織悪にメスを入れ、この国のはらわたを凝視する問題作だ。政治の闇と癒着した往年の日本航空の内情を取材して限りなくノンフィクションに近い印象を与えた原作に対し、映画版は表向きフィクションだと強調するが、虚実ないまぜのタッチは受け継がれた。 西岡脚本は、企業体質が招いた... >>続きを読む
一瞬たりとも油断のできない映画。謎のショットが必然的なショットになる 母なる証明

- 文章に味があって、話も面白い小説を読んだ気分がする。「母なる証明」を見て、私は最初にそう感じた。が、これでは言い足りない。この作品の「映画的豊饒さ」には、文学を語る際の形容が当てはまらない。 まずなによりも個々のショットの粒立ちが素晴らしい。加えて、物語の流れに、なんともいえぬコクがある。細部の豊かさが、映画の全身を循環する血液のように行きわたり、一瞬たりとも脈動が止まない。いいかえれ... >>続きを読む
一言では説明できない多彩な面白さに満ちたエンタテインメント快作 パイレーツ・ロック

- 洋上の海賊ラジオ局を舞台に60年代のブリティッシュ・ロックを満載したミュージカル群像劇にして、保守的な体制に敢然と立ち向かう勇気ある自由人たちの社会派ドラマ、1人の青年の悩みや成長、初体験を描く青春ラブストーリーにして、破天荒なキャラクターたちが繰り広げるナンセンス・コメディ、さらにはクライマックスには「タイタニック」もビックリの感動的な海洋パニック映画になる。一言ではまったく説明できない多... >>続きを読む
10月13日更新
法と心の隔たりについて描くシンプルにして重厚な人間ドラマ さまよう刃

- かけがえのない存在を殺められたのに、少年法に守られた加害者は極刑に処されない。そのとき、あなたはどうするか。これはサスペンスの形を借りて、法と心の隔たりについて描くシンプルにして重厚な人間ドラマだ。少年たちから最愛の娘をクスリ漬けにされ、醜い性欲を遂げる肉の塊として扱われる光景を映し出すビデオテープを見てしまった父は、怒りと憎しみに狂い復讐を決意する。少年に償わせるためにまず更正させるべきと... >>続きを読む
コンプレックスに囚われたクヒオの必死さがおかしい クヒオ大佐

- 英語も話せない純日本男が、米軍パイロットの制服と怪しげなカタコト日本語だけでアメリカ人に化けて、女を騙すなんて、あり得ない。クヒオ大佐結婚詐欺事件を昔ニュースで聞いて感じた疑問に、吉田大八監督はスコーンと答を出してくれた。 海外旅行が今ほどポピュラーではなかったちょっと前の時代。騙される側の心理には、大国、先進国のアメリカに憧れと負い目を感じる複雑な感情があるというのだ。確かに、アメリ... >>続きを読む
男の猛り狂った一途な思いを、ゆるやかに対象化するユーモアのさじ加減が見事 アンナと過ごした4日間

- よるべなき少年の胸張り裂けんばかりの狂恋を描いた青春映画の傑作「早春」が忘れがたいイエジー・スコリモフスキの17年ぶりの新作。やはり孤独な中年男レオンが主人公である。彼は家の向かいの看護婦寮に住むアンナの部屋を、夜な夜な見つめ続ける。そして、遂にある行為に及ぶ。男にとっては至福と恩寵に満ちた4日間の出来事を、映画は息詰まるようなサスペンスと絶妙な距離をもって描き出す。 フランドル絵画を... >>続きを読む
10月6日更新
身勝手な男の破滅物語ではなく、しなやかな女性の自立物語に ヴィヨンの妻/桜桃とタンポポ

- 黄金期の日本映画を思い出すような密度の濃い作品である。脚本の田中陽造は、太宰治が得意にしていた女性のひとり語りの短編を、うまく膨らませているなあと感心した。青春の通過儀礼のようでちょっと気恥ずかしくなるような、太宰文学のエッセンスともいえるキザなフレーズを随所に散りばめている。根岸吉太郎監督は、この脚本に血を通わせながら丁寧に映像化した。 子連れヒロインの佐知(松たか子)は貧乏のどん底... >>続きを読む
強い絆で結ばれた家族の愛を描くアンサンブル・ドラマ 私の中のあなた

- 白血病の姉のドナーとなるべく遺伝子操作で生まれてきた11歳の少女が、両親を訴えた。こう聞くと、法廷シーンがメインの訴訟ドラマを想像するが、法廷シーンはごくわずか。重いテーマとセンセーショナルな設定が想像させる哀しい涙とは裏腹に、これは倫理と感情がせめぎあうなか、強い絆で結ばれた家族の愛が溢れたアンサンブル・ドラマ。そこではアビゲイル・ブレスリン演じる問題の次女すら、時間を交錯させて家族の歴史... >>続きを読む

