10月6日更新
身勝手な男の破滅物語ではなく、しなやかな女性の自立物語に ヴィヨンの妻/桜桃とタンポポ

- 黄金期の日本映画を思い出すような密度の濃い作品である。脚本の田中陽造は、太宰治が得意にしていた女性のひとり語りの短編を、うまく膨らませているなあと感心した。青春の通過儀礼のようでちょっと気恥ずかしくなるような、太宰文学のエッセンスともいえるキザなフレーズを随所に散りばめている。根岸吉太郎監督は、この脚本に血を通わせながら丁寧に映像化した。 子連れヒロインの佐知(松たか子)は貧乏のどん底... >>続きを読む
強い絆で結ばれた家族の愛を描くアンサンブル・ドラマ 私の中のあなた

- 白血病の姉のドナーとなるべく遺伝子操作で生まれてきた11歳の少女が、両親を訴えた。こう聞くと、法廷シーンがメインの訴訟ドラマを想像するが、法廷シーンはごくわずか。重いテーマとセンセーショナルな設定が想像させる哀しい涙とは裏腹に、これは倫理と感情がせめぎあうなか、強い絆で結ばれた家族の愛が溢れたアンサンブル・ドラマ。そこではアビゲイル・ブレスリン演じる問題の次女すら、時間を交錯させて家族の歴史... >>続きを読む
“原作にはなかったが見たかったもの”を見せてくれる新生アトム ATOM

- AIBOやASIMOが誕生したのは、鉄腕アトムがいたから。日本人のDNAにはアトムによって“ロボットへの愛”が書き込まれている。そんな私たち日本人が納得できるアトムを、果たしてハリウッドが生み出せるのか? だが、この心配は不要だった。この映画でも、アトムの根幹は原作と同じ“心やさしい科学の子 みんなの友だち 鉄腕アトム”。年齢はアメリカの観客が幼児虐待に過敏なため、原作より大きい小学校... >>続きを読む
9月29日更新
愛でもトラウマでもなく、躓いた人がやっと踏み出す未来への一歩 あの日、欲望の大地で

- アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督の世界観をデビュー時から支えてきた脚本家、ギジェルモ・アリアガの監督デビュー作である。それゆえ本作でも現在と過去がパズルのように交錯し、ミステリーの様相を成している。しかしその思わせぶりな作り方が少しずるく見えたイニャリトゥ作品での脚本に対し、今回この構成でなければならない必然性を初めて見出すことができた。なぜなら主人公は過去に囚われながら現在を生き... >>続きを読む
ペ・ドゥナの肉体と全編のノイズに、性的な興奮をおぼえる愛の寓話 空気人形

- 非人間的なるものが人間の心を持つという、「ピノキオ」の変奏が見られる物語だ。是枝裕和監督は、東京・下町のうらぶれた風景の中に(過食症の女などの)さまざまな俗物たちを配し、男性の性欲の捌け口となるペ・ドゥナが演じる“空気で膨らむ人形”の心の動きをすくいとっていく。フワフワした浮遊感が、このラブドールの肉体性を際立たせる。 注目すべきは、この人形が1体5980円の商品名「CANDY」という... >>続きを読む
南アフリカ出身監督が描く超大国アメリカの脆弱な実態 正義のゆくえ/I.C.E.特別捜査官

- 9・11以降のアメリカは理不尽なくらい排他的な国になってしまった。自らも南アフリカ出身で苦労して米国市民権を取得した経験があるウェイン・クラマーの脚本&監督作だけあって、「正義のゆくえ/I.C.E.特別捜査官」で描かれる当局の不法滞在者に対する締め付けは、むしろそっちの方が犯罪的ですらある。 幼い息子を残してメキシコに強制送還される母親や、移民判定官と寝る代わりに偽造グリーンカードを入... >>続きを読む
9月15日更新
激しい動きで小手先の演技を封じられた松山ケンイチの一生懸命さに好感 カムイ外伝

- 1964年に連載がスタートした白土三平の壮大な長編「カムイ伝」と翌年に誕生した番外編「カムイ外伝」は、階級社会や身分差別の理不尽を追及した忍者コミックだった。バリケードの中で漫画誌を回し読みした全共闘世代にとっては、挫折感を伴った懐かしさが蘇ってくる。骨っぽい崔洋一監督にふさわしいテーマだと思った。共同脚本が宮藤官九郎なので突飛なストーリーになることを危惧したが、「カムイ外伝」の中の「スガル... >>続きを読む
女性監督ならではの視点でシャネルの原点を探ろうとした野心作 ココ・アヴァン・シャネル

- ファッション界に打って出る前の若いシャネルにスポットを当てることで、シンプルで動きやすいスタイルに頑固なまでにこだわった彼女の原点を探ろうとした野心作だ。 孤児院育ちでお針子をしていたシャネルの夢が、デザイナーではなく歌手になることだったというのも面白い。芸能界での成功に育ちは関係ない。貧しい境遇から独力でプラスの人生に這い上がりたいというシャネルのハングリー精神が見て取れる。今と違っ... >>続きを読む
少々過激な大人向けのB級ラブコメ 男と女の不都合な真実

- 男と女が相手に求めるものは違う。いつの時代も変わらないラブコメの王道テーマでは、ヒロインは白馬の王子様を待ちつづけるお嬢ちゃんなのがお約束。TV業界を舞台にした本作も同様だが、ここには他と一線を画す魅力が。それは少々過激な大人向けだってこと。 理想の男性の出現を夢見る色気不足の美人プロデューサーが、男の本音全開の恋愛カウンセラーに反発しながらも惹かれていくという常道を楽しませるのは、ジ... >>続きを読む

