10月13日更新
法と心の隔たりについて描くシンプルにして重厚な人間ドラマ さまよう刃

- かけがえのない存在を殺められたのに、少年法に守られた加害者は極刑に処されない。そのとき、あなたはどうするか。これはサスペンスの形を借りて、法と心の隔たりについて描くシンプルにして重厚な人間ドラマだ。少年たちから最愛の娘をクスリ漬けにされ、醜い性欲を遂げる肉の塊として扱われる光景を映し出すビデオテープを見てしまった父は、怒りと憎しみに狂い復讐を決意する。少年に償わせるためにまず更正させるべきと... >>続きを読む
コンプレックスに囚われたクヒオの必死さがおかしい クヒオ大佐

- 英語も話せない純日本男が、米軍パイロットの制服と怪しげなカタコト日本語だけでアメリカ人に化けて、女を騙すなんて、あり得ない。クヒオ大佐結婚詐欺事件を昔ニュースで聞いて感じた疑問に、吉田大八監督はスコーンと答を出してくれた。 海外旅行が今ほどポピュラーではなかったちょっと前の時代。騙される側の心理には、大国、先進国のアメリカに憧れと負い目を感じる複雑な感情があるというのだ。確かに、アメリ... >>続きを読む
男の猛り狂った一途な思いを、ゆるやかに対象化するユーモアのさじ加減が見事 アンナと過ごした4日間

- よるべなき少年の胸張り裂けんばかりの狂恋を描いた青春映画の傑作「早春」が忘れがたいイエジー・スコリモフスキの17年ぶりの新作。やはり孤独な中年男レオンが主人公である。彼は家の向かいの看護婦寮に住むアンナの部屋を、夜な夜な見つめ続ける。そして、遂にある行為に及ぶ。男にとっては至福と恩寵に満ちた4日間の出来事を、映画は息詰まるようなサスペンスと絶妙な距離をもって描き出す。 フランドル絵画を... >>続きを読む
10月6日更新
身勝手な男の破滅物語ではなく、しなやかな女性の自立物語に ヴィヨンの妻/桜桃とタンポポ

- 黄金期の日本映画を思い出すような密度の濃い作品である。脚本の田中陽造は、太宰治が得意にしていた女性のひとり語りの短編を、うまく膨らませているなあと感心した。青春の通過儀礼のようでちょっと気恥ずかしくなるような、太宰文学のエッセンスともいえるキザなフレーズを随所に散りばめている。根岸吉太郎監督は、この脚本に血を通わせながら丁寧に映像化した。 子連れヒロインの佐知(松たか子)は貧乏のどん底... >>続きを読む
強い絆で結ばれた家族の愛を描くアンサンブル・ドラマ 私の中のあなた

- 白血病の姉のドナーとなるべく遺伝子操作で生まれてきた11歳の少女が、両親を訴えた。こう聞くと、法廷シーンがメインの訴訟ドラマを想像するが、法廷シーンはごくわずか。重いテーマとセンセーショナルな設定が想像させる哀しい涙とは裏腹に、これは倫理と感情がせめぎあうなか、強い絆で結ばれた家族の愛が溢れたアンサンブル・ドラマ。そこではアビゲイル・ブレスリン演じる問題の次女すら、時間を交錯させて家族の歴史... >>続きを読む
“原作にはなかったが見たかったもの”を見せてくれる新生アトム ATOM

- AIBOやASIMOが誕生したのは、鉄腕アトムがいたから。日本人のDNAにはアトムによって“ロボットへの愛”が書き込まれている。そんな私たち日本人が納得できるアトムを、果たしてハリウッドが生み出せるのか? だが、この心配は不要だった。この映画でも、アトムの根幹は原作と同じ“心やさしい科学の子 みんなの友だち 鉄腕アトム”。年齢はアメリカの観客が幼児虐待に過敏なため、原作より大きい小学校... >>続きを読む
9月29日更新
愛でもトラウマでもなく、躓いた人がやっと踏み出す未来への一歩 あの日、欲望の大地で

- アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督の世界観をデビュー時から支えてきた脚本家、ギジェルモ・アリアガの監督デビュー作である。それゆえ本作でも現在と過去がパズルのように交錯し、ミステリーの様相を成している。しかしその思わせぶりな作り方が少しずるく見えたイニャリトゥ作品での脚本に対し、今回この構成でなければならない必然性を初めて見出すことができた。なぜなら主人公は過去に囚われながら現在を生き... >>続きを読む
ペ・ドゥナの肉体と全編のノイズに、性的な興奮をおぼえる愛の寓話 空気人形

- 非人間的なるものが人間の心を持つという、「ピノキオ」の変奏が見られる物語だ。是枝裕和監督は、東京・下町のうらぶれた風景の中に(過食症の女などの)さまざまな俗物たちを配し、男性の性欲の捌け口となるペ・ドゥナが演じる“空気で膨らむ人形”の心の動きをすくいとっていく。フワフワした浮遊感が、このラブドールの肉体性を際立たせる。 注目すべきは、この人形が1体5980円の商品名「CANDY」という... >>続きを読む
南アフリカ出身監督が描く超大国アメリカの脆弱な実態 正義のゆくえ/I.C.E.特別捜査官

- 9・11以降のアメリカは理不尽なくらい排他的な国になってしまった。自らも南アフリカ出身で苦労して米国市民権を取得した経験があるウェイン・クラマーの脚本&監督作だけあって、「正義のゆくえ/I.C.E.特別捜査官」で描かれる当局の不法滞在者に対する締め付けは、むしろそっちの方が犯罪的ですらある。 幼い息子を残してメキシコに強制送還される母親や、移民判定官と寝る代わりに偽造グリーンカードを入... >>続きを読む

