



ジェームズ・キャメロン監督が「タイタニック」のために、原寸大のタイタニック号を建造、しかも、その船室の壁紙から船体の金属板を止める鋲のひとつひとつまでを詳細にリサーチし尽くして、きっちり再現したのは有名な話。船ひとつでここまでこだわった監督が「星」を創るとどうなるのか? その成果がこの「アバター」だ。
船から星へ、スケールが格段にアップしたのに伴って、キャメロン監督のこだわりぶりもさらに増幅。監督は製作発表時から、「地形や生物だけではなく、その歴史や文化も含めて、星を丸ごと創造する」と宣言。天文物理学はもちろん、地質学、植物学、動物学、文化人類学、言語学までを総動員して、食物連鎖から住民の文化までを含めて創造されたのが本作の舞台、衛星パンドラだ。そのこだわりの一例が、先住民ナヴィの「言語」。文法を含めた言語体系が丸ごと考案され、ナヴィ族を演じる俳優たちは、外国語を学ぶようにこの言語を学んでいる。
この結果、衛星パンドラの光景は、驚異的であるだけでなく説得力を持って観客に迫る。空に浮く山が互いに衝突し、砕けた岩の破片を落下させる。森に生息する昆虫と植物の間のような生物が、夜になると発光しながら浮遊する。巨大な牙を持つ六本足の肉食獣が跳躍する。先住民ナヴィ族は翼を持つ生物に乗り、自然と共存する文化を営む。キャメロン監督が創造した未知の新世界が、その歴史までを含めた、ひとつの星丸ごとという圧倒的なスケールで描かれていく。



もうひとつの注目ポイントは、本作が“大人の観客向け”の3D映画であること。これまでの3D映画はファミリー向けアニメかティーン向けホラーが主流で、「スクリーンから飛び出す映像ありき」の作品が多かった。「3D映画といっても見かけだけのこけおどしでしょ?」と侮ることなかれ。「アバター」は驚かすための3D映画ではなく、奥行きがあり、あたかも自分が映画の世界に入り込んでしまったような臨場感をもたらす、かつてない“体験映画”になっているのである。
主人公は元海兵隊員のジェイク(サム・ワーシントン)。戦闘での負傷により下半身不随の車椅子生活を余儀なくされた彼は、衛星パンドラの先住民ナヴィ族と人類のDNAを組み合わせた結合体<アバター>と、リンクマシンによって人間の意識を同期させる実験“アバター・プロジェクト”に参加し、<アバター>によって自由に動ける身体を獲得する。彼はその姿でパンドラで暮らし、先住民ナヴィ族の自然と共に生きる文化に魅せられていき、ナヴィ族の族長の娘ネイティリ(ゾーイ・サルダナ)と恋に落ちる。だが、“アバター・プロジェクト”の目的は、この星の希少な鉱物資源を採取することであり、ジェイクは人間とナヴィ族との間で葛藤し、ある決断を下す……。
まったく異なる文化の接触から生じる賛嘆と摩擦、社会的任務と個人的感情の葛藤、そして恋、友情、信頼――。「アバター」は、こうした普遍的テーマの数々が盛り込まれた、大人の観客向けの物語になっている。見たこともない映像で描かれる、見たこともないスケール感で描かれる世界、そして誰もが感情移入する壮大なストーリー……世界中が注目する「アバター」を見逃すことができない大きな理由は、ここにある。


さらに、少しマニアックだが、「アバター」は技術面でもこれまでの3D映画とは異なっている。
現在の3D映画が50年代や80年代に流行した立体映画とまったく違うのは、「カラーのまま」で「目が疲れない」3D映画システムが実現したからだ。05年の「チキン・リトル」で開発されたデジタル3D技術は、赤青方式ではなく偏光方式で「カラー」をそのまま再現。通常のフィルムは1秒24コマだが、その6倍1秒144コマを実現。映写機も2台ではなく1台なので映像のチラツキがなく、長時間見ていても目が疲れない。
この新技術を知ったキャメロン監督が着手したのが、「アバター」のデジタル3D化。彼はVFXマン出身の技術オタクでもあり、新しい映像技術が大好きで、「アビス」でCGによる液体表現を開発、その技術を発展させて「ターミネーター2」のT-1000を描いたのはご存知の通り。3D映像についても、すでに03年のドキュメンタリー「ジェームズ・キャメロンのタイタニックの秘密」で新たな撮影システムを考案済み。「アバター」ではこのシステムをさらに進化させ、他にも“パフォーマンス・キャプチャー”を進化させた“エモーション・キャプチャー”や、キャプチャー撮影をしながら合成後の映像が見られる“バーチャル・プロダクション”などの新システムを考案。それらのキャメロンが開発した最新3D技術を駆使して創られたのが「アバター」なのだ。
さらにすごいのは、キャメロンが「アバター」の撮影現場にスティーブン・スピルバーグ監督とピーター・ジャクソン監督を招いてこの新技術を披露し、2人にこの新技術の提供を申し出たこと。キャメロンは自分の開発した技術を独り占めしないのだ。2人がこぞって3D作品に取り組んでいるのは、キャメロンのこの招待があったからかもしれない。
今後は、ハリウッド大作のスタンダードは「3D」になりそうな勢いだ。4月にはティム・バートン監督の「アリス・イン・ワンダーランド」が登場、「バイオハザード4」「ソウ7」、そして「パイレーツ・オブ・カリビアン4」など人気シリーズの新作はそろって3D映画化を宣言。今、まさに「アバター」から3D映画の新時代は、幕を開けようとしている。「アバター」を体験することは、その歴史的瞬間に立ち会うことでもあるのだ。







