好感度ダウン覚悟で“AVの時代”描く男たち 山田孝之主演「全裸監督」撮影現場レポート

2019年6月17日 07:00


“AVの帝王”に扮した山田孝之
“AVの帝王”に扮した山田孝之

[映画.com ニュース] AV監督・村西とおるを題材にしたNetflixオリジナルシリーズ「全裸監督」の撮影現場に、映画.comが潜入した。神奈川県・川崎市の某所に創出された“1980年代の歌舞伎町”に集ったのは、主演の山田孝之をはじめ共演の満島真之介玉山鉄二、総監督を務める武正晴。潔白であることが美徳とされる現在に、彼らは“アダルトビデオ”に命をかけた男たちの物語を、つむごうとしていた。

好景気にわいたバブル期の日本で、“AVの帝王”と呼ばれた村西氏のノンフィクションをもとに映像化。前科7犯、借金50億、米国司法当局から懲役370年求刑など、度重なる逆風にも屈せず、すさまじいバイタリティで時代の先頭を走り、“エロ”を通じ世間を挑発し続けた伝説の男の半生を描き出す。

画像2

報道陣が訪れたのは、2018年12月に撮影が行われたビデオ会社での場面。AV制作を始めた村西(山田)、その相棒の荒井トシ(満島)、出版社社長・川田研二(玉山)ら“村西軍団”が、食事をしながら口論している。つくるのはいいが、委員会を説き伏せなくては販売できない。八方塞がりか……、停滞ムードがただようなか、アシスタントの順子(伊藤沙莉)が、恵美(森田望智)という女子大生を連れてくる。「AVに出演させてほしいんです」。恵美こそが、後に黒木香として一世を風靡するその人だった。狂乱の時代の歯車が、轟音をたてて動き出した。

コンプライアンスが厳しくなる一方の昨今において、これだけ“性の衝動”をむき出しに描く作品は、絶滅危惧種とさえ言えるのではないか。座長として作品を引っ張る山田は、「今作の描写や表現は、地上波はおろか映画でもなかなか実現が難しい。Netflixでは必要ならばそれができるということで、『刺激的な作品になる』と感じ、『ぜひ』と返答させていただきました」とオファー当時を振り返る。

表現の限界への挑戦――。クリエイターの創意を最大化することがモットーのNetflixでは、昨今のドラマや映画で触れられなかった題材を扱うことができる。表現者にとって、それは無上の喜びを意味するのだろう。セットは極めて精巧にして大規模であり、スタッフ・キャスト陣の滾るエネルギーは今にも暴発しそうなほど。この作品から、時代を変える。現場はそんな野心で満ち満ちていた。

画像3

玉山は、今作が持つ意義を力説する。「日本のあらゆる輸出品のなかで、“アダルトビデオ”も大きな輸出品の一つなんだ。今作プロデューサーは、胸を張ってそう言っていました。考えたら、そうかもしれない。しかし当時の村西さんの破天荒さを、映像で表現できないという歯がゆさは、作り手ならば誰しもが感じていると思います。村西さんの生き方は、『言ってはいけない』という自主規制をする僕らの背中を、ドンと押してくれている。『もっとやっていいんだ』という好奇心が、今の世の中や作り手にとって必要だと思っています。日本の裏の文化、裏のメイド・イン・ジャパンを、もっと海外の人たちに知ってもらえたら。日本ってすごく面白い国だ、と思ってもらえたら。多様性のある考え方で見てくださったら嬉しいです」。

さらに満島は、「世界と垣根がなくなっていく瞬間に立ち会えている喜びと責任と。この現場に入って演じていると、毎日が本当に楽しくて。カメラが回っているかどうかは関係なくて、生活がエネルギッシュになっているんです」と話す。全身に力がみなぎっているように、「ずっと高揚していて。普通のときもなんか、変になってしまう(笑)。そのみなぎっている感じにも、出合えてよかった。この時代の人間の熱量を、この作品で世界に示すことができれば、未来が変わってくる」と続ける。

本番の声がかかると、カメラの前の山田らは猛烈な勢いで食べ物を口に詰め込み始める。テーブルに置かれた鍋やコロッケなどを俯瞰して映し出すモニターを見ると、画面端のいたるところから手が伸びては引っ込み、瞬く間に食べ物が消えていく。「OK」とカットがかかるやいなや、キャスト陣は満島を先頭にセット外に飛び出し、休憩所に一目散に向かっていった。満島がマシンガンのように冗談を飛ばし、爆発的な笑い声が上がり続けた。タバコと酒と札束と、誰も彼もが持て余した情動に突き動かされて街に繰り出し、とりつかれたように働き遊び狂ったあの時代を、彼らはその身に内包しているようだった。

画像4

武総監督は「解放感というか、力がみなぎってくるというか。この作品でそういう感覚に触れ、充実している」と手応えを隠さない。そして山田と玉山から“ムードメーカー”と称された満島は、「みんなが個性的だし、しっかりキャラが立っているし、自分が頑張ろうとか引かなきゃとかバランスをとる必要がない。芝居をやっていても、セリフの間にある呼吸がすごく面白いんです。カメラが回っていても自然と話しちゃうし、解放している感じがする」と同調した。

これに山田は、「スタッフもだよね。チーム全体が解放している(笑)」と、“たまらない”という表情で合いの手を入れる。さらに満島が「玉山さんが言うように、みんな閉塞感を感じるなかでこの作品に入り、『こんなこと本番で言っちゃっていいのか!?』みたいなこともバンバン言っています」と笑い、玉山は「この作品が世に放たれたとき、キャスト各々は好感度が下がってるんじゃないかな(笑)」と冗談交じりでぶっちゃける。山田が「まさに村西さん含め、原作の方々に言われました(笑)。『出演して大丈夫ですか?』って」と畳み掛けると爆笑が包み込み、武総監督も「この作品で、みなさんも解放されてください」と願いを託していた。

「全裸監督」は、8月8日からNetflixで配信開始。

Amazonで今すぐ購入

フォトギャラリー

DVD・ブルーレイ

Powered by価格.com

関連ニュース

映画ニュースアクセスランキング

本日

  1. ヘンリー・カビルがジェームズ・ボンドに扮するフェイク予告編、爆発的再生数を記録

    1

    ヘンリー・カビルがジェームズ・ボンドに扮するフェイク予告編、爆発的再生数を記録

    2024年4月23日 11:00
  2. 伊藤健太郎、4年ぶりに日テレドラマ出演 森本慎太郎主演「街並み照らすヤツら」の重要人物

    2

    伊藤健太郎、4年ぶりに日テレドラマ出演 森本慎太郎主演「街並み照らすヤツら」の重要人物

    2024年4月23日 06:00
  3. 菅田将暉が“狂気”に狙われる 黒沢清監督との初タッグ作「Cloud クラウド」特報公開

    3

    菅田将暉が“狂気”に狙われる 黒沢清監督との初タッグ作「Cloud クラウド」特報公開

    2024年4月23日 07:00
  4. 帰ってきてはいけない――初七日の風習から生み出された“家系ホラー”「呪葬」7月12日公開

    4

    帰ってきてはいけない――初七日の風習から生み出された“家系ホラー”「呪葬」7月12日公開

    2024年4月23日 17:00
  5. 草なぎ剛「僕の代表作になった」 主演作「碁盤斬り」に誇らしげ

    5

    草なぎ剛「僕の代表作になった」 主演作「碁盤斬り」に誇らしげ

    2024年4月23日 16:35

今週