カンヌ最高賞「ザ・スクエア」監督、「北欧社会で“男であること”も描きたかった」

2018年4月27日 14:00


リューベン・オストルンド監督
リューベン・オストルンド監督

[映画.com ニュース]理想的な父親像の崩壊を題材にした「フレンチアルプスで起きたこと」のリューベン・オストルンド監督の新作で、昨年、第70回カンヌ映画祭コンペ部門に初ノミネートで最高賞のパルムドールを受賞した「ザ・スクエア 思いやりの聖域」が4月28日公開する。今作は現代アートの世界を舞台に、格差や差別などの社会問題と、高いモラルをもった人間の理想と現実を鋭くユーモラスに描いた風刺映画だ。来日したオストルンド監督に話を聞いた。

--映画のタイトルでもある、設置された四角形の枠内では「すべての人が平等の権利を持ち、公平に扱われる」というアート作品を発表されたことがこの映画を作るきっかけになったそうですね。

「『ザ・スクエア』が私が初めて手掛けたアートプロジェクトです。とはいえ、私はアート作品というより、横断歩道の交通標識のようなものだと思っています。2011年に若い少年の集団同士の強盗事件を扱った『プレイ』(第24回東京国際映画祭で上映)という映画を作りました。それは、繁華街のモールで実際に起こった事件からインスピレーションを受けたものですが、裁判記録を読むと、日中に大人がいたにもかかわらず、大人は止めようとせず、被害者の少年たちもほとんど助けを求めようとしなかった。社会学で言うところの、傍観者効果というものです。そこで、私と友人は、何か人間として助け合おう、傍観者効果を打ち破るようなシンボルを作りたいと思い立ち、社会契約、例えば横断歩道のように、道に白線があるだけで車は止まり、歩行者に注意するというようなアート作品として発表しました」

--今作は現代アートと映画という異なった表現方法で作られた、ハイブリッドな作品とも言えます。

「アート作品は、その文脈を知的に言語化して作品を説明します。更に、映画の場合は説明するだけではなく、物語と映像的な手法で観客を惹きつけなくてはいけないと感じています。映画を作る時、私はそのテーマに合った様々な状況を作ります。今回のテーマは、社会契約とは何か、お互いに助け合えるのかということを考え、そういった状況の物語を作っていった。現代アートと映画は異なるものですが、今回、一緒に機能していくことも可能だと発見しました。映画がアート作品の宣伝をするような役割を果たしているのです。実際に『ザ・スクエア』はスウェーデンの3つの通りに設置されて、現在、4つ目を制作中です。映画の中と外の両方で物事が展開していく、興味深い手法だと思います」

--監督が実際にアートプロジェクトで経験されたことが、脚本に反映されているのでしょうか。

「アート作品の宣伝のためにPR会社を使ったことはないのですが、コンドームの場面以外は私が経験したり、実際に話を聞いたことです。PR会社の炎上商法は、脚本的に考えて、人道的なアートを非人道的なやり方でPRし、成功したらおもしろいと考えたのです。PR会社や、現代美術館のチーフキュレーターと呼ばれる立場の人にもたくさんインタビューをしました。また、最近では、Youtubeで様々な映像が見られますので、MOMAのキュレーターのインタビューなども参考にして物語を作っていきました」

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--主人公のクリスティアンは、決して悪人ではないのに、愚かな判断ミスから災難に巻き込まれてしまいます。現代社会に生きる人間の誰もが身につまされるような物語です。

「大抵の映画はもうちょっとシンプルな設定で、主人公がいて、敵がいてという構図。私が興味があるのは、私たちが失敗したとき、何かの期待に添えなかったとき、あるいは面目を潰したときなんです。そういった状況になったとき、私はどうするのだろうかと考えるのです。例えば、『フレンチアルプスで起きたこと』の主人公は、雪崩が起きたときに逃げてしまいますが、私も逃げるだろうなと(笑)。モラルのある人とない人を対比させるのではなく、そういった良くない行動を自分から切り離さないで、己にも起こり得ることとして捉えたいのです」

--美術館のキュレーターは女性も多いですが、今回、主人公を男性にした理由はなぜでしょうか?

「自分が男なので、男性キャラクターに肩入れしやすいことと同時に、北欧社会で“男であること”ということも描きたかったのです。これは、前作の『フレンチアルプスで起きたこと』と共通します。北欧は非常に強いフェミニズムのムーブメントがあった社会ですし、以前は男性が力を持つ父権社会で、それ以外に女性や子ども、移民というグループがあるという見方をされていました。今は、それを映していたカメラが反対側を回って、男であることの特権や男性であることはどういうことかということを問われる時代。私自身、#MeTooムーブメントが広がっている今の時代に男性であることはとても興味深いことだと感じています」

--こういった問題を扱った作品がカンヌで最高賞を受賞する、現代社会について考えさせられます。

「もちろんパルムドールはとてもうれしかったです。カンヌのような大きい映画祭で受賞すれば、映画が注目されます。ハリウッドやマーベル原作の映画ではないですが、受賞したからこそ多くの人に見てもらうことができました。また、伝統的にカンヌは今日的なテーマを題材にした作品を大事にするという傾向があります。受賞後の今は、世界各地でたくさんの取材を受けて、こうやってこのテーマについて語り、問題を提示していくことが映画を作ること以外の私の仕事だと思っています」

ザ・スクエア 思いやりの聖域」は、4月28日から東京・ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマ、立川シネマシティほか全国で順次公開。

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フランスのスキーリゾートにやってきたスウェーデン人家族の状況が、ある事件をきっかけに一変する様をブラックユーモアを交えて描いたドラマ。

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