【デル・トロ監督インタビュー:後編】“彼”の造形のポイントはまさかの“お尻”だった!?

2018年3月3日 12:00

オスカー獲得にも期待がかかる
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[映画.com ニュース]第90回アカデミー賞で最多13部門にノミネートされた「シェイプ・オブ・ウォーター」(公開中)の世界観を、ギレルモ・デル・トロ監督の言葉からひも解くインタビュー連載企画。後半では、デル・トロ監督が私財をなげうってまでこだわり抜き、作り上げたという本作のもう1人の主役、“不思議な生き物”について語ってもらった。

とある出来事によって声を失った清掃員イライザ(サリー・ホーキンス)と、イライザの職場である政府の極秘研究所に捕らわれた不思議な生き物の絆を幻想的に描いた本作。「パンズ・ラビリンス」や「パシフィック・リム」、「クリムゾン・ピーク」などこの世ならざる者やクリーチャーへの深い造詣や愛を作品に注入してきたデル・トロ監督がたどり着いたのは、「言葉を失ったプリンセス」と「アマゾンで神と崇拝された生き物」の種族を超えた恋愛物語だった。

このラブストーリーを成立させるうえで、絶対条件として定められたのが「女性が恋できるかどうか」だった。大前提として、クリーチャーが魅力的に映らなければそこに恋は生まれない。イライザが“彼”にひかれていくように、観客が自然と受け入れられるようなデザインにすることが求められた。そこでデル・トロ監督が採用したのが、投票システムだった。

「女性の意見だけではなくて、男性の意見も、彫刻家からも、いろんな人から意見をもらったんだ」と明かしたデル・トロ監督は、「最初の方のクリーチャーの顔だったら、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥの妻は『その唇じゃあ私は絶対キスしない』って言ったんだよ。それで唇をデザインし直した。そして彫刻家の1人からは、体型をもっと水泳選手のようにスリムにしないといけない、という意見が出た。また、特に目についてみんなから色々意見が出たんだ。かわいいのか、知的なのか。あとお尻についてもいっぱい意見が出たね。(最終的に)とってもいいお尻にしたよ」と目を輝かせて語る。

常にニコニコと笑いながら、そしてお菓子をほおばりつつ、リラックスした様子でインタビューに答えるデル・トロ監督。意見交換もさぞかしスムーズに行われたのかと思いきや、「僕は結構、変えたくないところは絶対に変えないよ」と断言。「もちろん、意見はちゃんと聞いて考えるし、誰から来たって、いいアイデアは取り入れるけれどね。あくまで、選択肢が広がるっていうことなんだ。例えば、(“彼”の体が)光らないようにした方がよいという意見もあった。でも僕は、ピカピカにしたんだ(笑)! 目についてはとにかくいろんな意見が出たんだが、最終的には僕が良いと感じる目にした」。

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他者の意見を募りつつも、核の部分は譲らない。それは、デル・トロ監督の中に確固としたイメージが出来上がっているからだろう。話題に上がった“彼”の目のデザインも、どこか愛嬌があるものになっている。劇中、“彼”の顔が明らかになるのは、イライザに近づこうと水中から浮上したシーン。“彼”がまばたきする姿からはみじんの敵意も感じられず、純真無垢(むく)な性格が感じ取られる。キャラクターを決定づける“目”のデザインを担当したのは、「ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男」でオスカーにノミネートされた日本人アーティスト、辻一弘氏だ。デル・トロ監督は、「あれは『ヘルボーイ』の1作目で(辻氏が)発明したもので、『パンズ・ラビリンス』でも使った技術なんだ。こんな小さい所に機械は使えないからね。生きてる感じがあるよね」と愛おしげに語る。

デル・トロ監督は、イライザを演じたサリー・ホーキンスと、“彼”に命を与えたダグ・ジョーンズについても言及。「『サブマリン』という映画にサリー(・ホーキンス)が出ていて、あれは決定的だった。人を見る目と、聞くという行為がすごく良かったんだ。大体、良い役者ってセリフがうまい人って思いがちだよね。でも本当に良い役者っていうのは、よく聞き、そして目で見るものだ。彼女はカメラの前で輝く女性だと思うし、このクリーチャーを我々がいかに必死に作っても、彼女が本当に愛をもって彼を見つめなかったら、彼は死んでるも同然なんだよ。そしてダグ・ジョーンズは、本当にクリーチャーを生かしてくれる。日本には文楽があるけれど、まぁまぁの人(人形遣い)は動かすだけ。偉大な人は、完全に人形と一体になる。ダグも同じで、クリーチャーに“なる”んだ」と全幅の信頼を寄せる。

日本の特撮文化に心酔しているデル・トロ監督だけに、“彼”のデザインにも少なからず影響を受けているのだろうか。具体的には「ない」とのことだが、「ウルトラマンのシンプルな形はとても美しい。目と繊細な口、ちょうど三角形の調和の取れた位置。ウルトラマンって神のようだと思う。そして穏やかだよね」と話す口ぶりからは、劇中の“彼”と全く無関係ではなさそうだ。

最後に、デル・トロ監督がインタビュー中に明かした小ネタを1つ。劇中にはカレンダーがアイテムとして登場するが、ある重要なシーンの日付が「僕の誕生日の10月9日になっているんだ」とのこと。第74回ベネチア国際映画祭で金獅子賞、第75回ゴールデングローブ賞で2部門に輝き、映画史に残る1作になるのは間違いない。だが、楽しげに自作について語るデル・トロ監督は、どこまでも自然体のままだった。

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