紗倉まなが紡ぐ“普通の女性”とAVとの等身大の関係 森口彩乃、佐々木心音、山田愛奈が繊細に体現

2017年11月24日 17:00

(左から)紗倉まな、佐々木心音、山田愛奈、森口彩乃
(左から)紗倉まな、佐々木心音、山田愛奈、森口彩乃

[映画.com ニュース]人気AV女優の紗倉まなによる同名小説を、「ヘヴンズ ストーリー」「64 ロクヨン」などを手がけた瀬々敬久監督が映画化した「最低。」が11月25日公開される。それぞれ違った年齢、立場の3人の女性が、日常の延長線上でAVとかかわることになり、その背景や周囲の人間たちとの関係性を丁寧に紡ぎ出した物語だ。公開を前に、主人公の女性3人を演じた森口彩乃佐々木心音山田愛奈、原作者の紗倉に話を聞いた。(取材・文/編集部 写真/間庭裕基)

夫との閉塞した関係に悩む子供のいない30代の主婦・美穂、田舎の家族たちから逃げるように上京し、AV女優として多忙な毎日を送る25歳の彩乃。奔放な母親に振り回されながらも、絵を描いている時だけは自由になれる17歳の女子高生・あやこ。境遇も年齢も性格もバラバラながら、ある出来事をきっかけに彼女たちの運命が大きく動き始める。

--原作も映画も、一人の人間として普通の日常生活を送りながらAV業界で働く女性、彼女らとかかわりを持つ男性や家族たちと、誰もが持つ人間関係や感情が丁寧に描かれています。また、映画も、原作のタイトルと同じ「最低。」になりました。小説が映画化されることについて、完成した作品を見た感想を教えてください。

紗倉「小説のタイトルは、物語を書き終えた最後に付けました。小説は4人の女性の話で、文章のどこにも“最低”という言葉は出てこないのですが、この仕事をしていると、心の中でAVという仕事を選んでしまったこと、そのことで誰かを傷つけてしまったこと、そして、自分の選択でがんばり続けている私自身も含め、全く後ろめたさを感じずにやっている女性は、誰一人としていないんじゃないかと思って。それを考えたときに、心の中でつぶやく言葉って、なんだろうと考えてこのタイトルを選んだんです」

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「小説『最低。』は、映像に向いていないと思っていたので、最初に映画化のお話を聞いて驚きました。瀬々監督についても、ピンク四天王のおひとりというよりは、『64 ロクヨン』の監督というイメージだったので、なぜ引き受けてくださったのかわからないくらいうれしかったです。3人の女優さんも、素晴らしい演技でそれぞれの登場人物を体現してくださって、ひとりひとりの才能が結晶した映画になってとてもうれしくて。私はどのシーンでも泣いてしまいました。全くこの仕事にかかわったことがない女の子が見るのと、私が見る感覚は全く違うと思いますが、一観客として見ても、映画『最低。』」として仕上がっていました」

--小説にも登場していますが、ズジスワフ・ベクシンスキーというポーランドの画家の絵が映画で印象的な使われ方をしていますね。

紗倉「父の影響もあるのですが、もともと絵が好きで。3回見たら死ぬ絵なんて言われている画家のようですが、彼の過去を調べたら、もともと建築系の仕事をしていて、構造物をたくさん描いていて、途中からクラシックを大音量で聞きながらあんな絶望的な絵を描く人だと聞いて、ああ、これはとてつもない闇だ……と、すごく気になって見ていた時期があって小説に取り入れました。映画では、あの画家とそこが重なり合うんだという意外性が好きでした。父は構造的な絵が好きみたいですが、私は彼の描いた人間が好き。そこでは趣向が違ってもめましたね(笑)」

--森口さんは、役柄の美穂と共感できる部分はありましたか? また、美穂と同様に、今回初めてカメラの前でヌードになるという経験をされました。

森口「とても感情移入できる役でした。私は未婚ですが、誰でもが経験するような、今までお付き合いした方や、家族との関係で持つ感情やフラストレーション、そこに共感しながら演じました。この役のお話をいただいたときは、とてもうれしかったのですが、まず母に『こういう役なんだけども…』と話して了承してもらいました。そこからは、自分といかに向きあうかという闘い。最初に、カメラの前でお披露目するのが、AVの事務所に行って脱ぐシーンで、役柄とリアルに一緒だったので、正直すごく怖さがあったけれど、1回皆さんにお見せしたら、心が決まった感じがありました。そこは美穂と一緒で、こうやって、AVの世界にどんどん足を踏み入れていくんだろうなという実感がすごくありました」

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--佐々木さんは、「マリアの乳房」に続いて2度目の瀬々監督作品です。今回演じる彩乃は、誰もが抱えるようなコンプレックスや家庭の事情を持ちながら、軽い気持ちでAVに出演し、それが天職であるかのように演じる女性。どのような役作りで撮影に臨みましたか?

佐々木「もともと作品は読んでいましたし、また瀬々さんの作品に出られるのがうれしくて。AV女優って、ちょっと偏見の目で見られてしまう肩書きかも知れないけど、私はもう、飛びつくように『よっしゃ、髪も切ります!』のような感じでしたね。ただ、役柄については、終始もやもやとしている感じでした。やっぱり彩乃自身が心情晴れないというか、もがいているところの真ん中にいる子だったので、撮影中はすっきりしなかったです。私自身、これまでグラビアもヌードもやっています。両親はぜんぜん平気だったのですが、地元の友達やおじいちゃんには、『何やってるんだ?』みたいな、偏見の目で見られたこともあるので、そういう部分は共感できてやりやすかったです。AV女優ですが、中身は普通の女子。だから、変に癖をつけないように演じました」

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--モデルとして活躍してきた山田さんにとって、初めての映画出演は、どのような経験になりましたか? また、母親役の高岡早紀さんとの共演はいかがでしたか?

山田「もともと映画出演の経験も全くなく、アダルトな要素が入っている作品。でも原作を読んで、すごくやりたくて。映画のオーディションはこれまでたくさん受けていたものの、何度も落ちていて……。今回は本当にやりたい役だったんです。でも、ぜんぜん考えないで受けました。考えすぎるとわからなくなるので。受かった後も、瀬々さんとお話しをして、自分のやりたい演技をやらせていただいた上で、アドバイスをいただいたので、初めての経験でしたが、とてもやりやすい現場でした。高岡さんからは、カメラが回っていないときでも、お母さんのように近しい感じでお話くださったのでうれしかった。“カメラがまわっていなくても、相手がいるときに、相手の感情を邪魔しない。後ろ姿でも演じる……”など具体的なアドバイスをしてくださいました」

--紗倉さんのファン、瀬々監督の新作に期待する人、女優陣のファン、小説の読者、AV業界に関心を持つ人……などさまざまな興味を持った観客が集まりそうな作品ですね。

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紗倉「いろんな期待をもって見に来てくださる方が多いと思いますし、男性と女性で感想は違うと思いますが、瀬々さんがよくおっしゃっている、この業界の人ならではの承認欲求みたいなもの、心が駆り立てられるものが散らばっている映画です。繊細だけど、美しくて強い女性たちの姿を見ていただきたいです」

森口「例えば外国の映画って、セックスシーンがあっても偏見なく見られると思うんです。この作品はそれに近くて、タッチがフランス映画みたい。あやこが絵を描くシーンから始まって、絵が完成する場面など、とてもアートな映画でもある。特に女性には、小さくても心のどこかをつつかれる部分があると思うので、多くの女性に見ていただきたいです。ひとりで悩んでいる方たちの勇気やパワーにつながれば良いと思います」

佐々木「裸を見に来る、それもいいと思います。そういう目的で見に来た人でも孤独って誰しもが感じるものだし、人間の孤独に寄り添える作品じゃないかな。これを見た人の人生がちょっとだけ軽くなればいいな、そんな気持ちです」

山田「登場人物の誰かにきっと共感できる部分があると思います。人間が普段表に出さないことを、この映画では描いています。孤独や思春期ならではのもやもやが、自分ひとりじゃないと多くの人に届けばよいなと思います」

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「半落ち」「クライマーズ・ハイ」などで知られるベストセラー作家・横山秀夫の著作で、2012年「週刊文春ミステリーベスト10」第1位、13年「このミステリーがすごい!」第1位など高い評価を得た警察小説「64(ロクヨン)」を映画化。

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