中国アクション映画にも挑む金子修介監督 「リンキング・ラブ」「こいのわ」2週連続公開

2017年11月1日 12:00

中国映画の製作準備に追われる金子修介監督
中国映画の製作準備に追われる金子修介監督

[映画.com ニュース] 大ヒット作「デスノート」の金子修介監督による新作が10月下旬から11月にかけて相次いで公開される。青春SFコメディ「リンキング・ラブ」(公開中)と、広島を舞台に65歳のバツイチ社長(風間杜夫)の婚活を描いたハートフルコメディ「こいのわ 婚活クルージング」(11月11日に広島先行公開、11月18日に東京公開)だ。目下、製作費10億円の中国アクション映画「シベリア風雲」(来秋公開)の製作準備中で多忙な日々を過ごす金子監督に話を聞いた。(取材・文・写真/平辻哲也)

1984年、日活ロマンポルノ「宇能鴻一郎の濡れて打つ」で監督デビューし、33年のキャリアを持つ金子監督にとって、長編映画が2週間のうちに連続公開されるのは初めての経験だ。「いろんな理由で映画は遅れるわけだけども、『リンキング・ラブ』は当初、もう少し早くて6月公開だった。『こいのわ』は10、11月と勝手に思っていたけど、事態がどんどん変わっていき、連続公開になったんです」と話す。

リンキング・ラブ」は、金子監督のアイドル論とハリウッドの名作「バック・トゥ・ザ・フューチャー」を混ぜた娯楽作だ。女子大生・美唯(田野優花)がバブル末期の1991年にタイムスリップ。アイドル好きの父親を振り向かせるために、美唯がお母さん(石橋杏奈)を中心とするアイドルグループASG16を結成させる……。バブル当時の風俗が満載で、AKB世代の若者からバブル期に青春を過ごした50代まで幅広い年代が楽しめる作品に仕上がっている。

原作は「アイア・コーポレーション」の社長、萩島宏氏の同名小説。「美唯がお父さんとけんかして、25年前にタイムスリップして、お母さんとAKBみたいなグループを作る……。なぜ、タイムスリップするか、いずれ答えはあるだろうと思ったけども、一切書いていない。ただ、そのアイデアは面白かったので、具体を埋めていった。(バブル末期の就活を描いた)『就職戦線異状なし』(主演・織田裕二)も撮ったし、撮るべき映画だと感じた」。

監督が最初に思い浮かんだのは、“アイドル冬の時代”ということだった。斉藤由貴主演の「香港パラダイス」など数多くのアイドル映画を撮り続け、99年には著書「失われた歌謡曲」を発刊。アイドル論には長年の蓄積がある。「87年に“おニャン子クラブ”が解散して、97年に“モーニング娘。”が発足するまでの10年がアイドル冬の時代。アイドルは与えられた歌を一生懸命歌うところに美学はあった。でも、バブル時代になると、若者自身の生活の方が充実して、アイドルの需要がなくなった。 “アイドル冬の時代”がなぜ生まれたかは解明していないと思うんだけど、今回、エンタテインメントで解明した」と話す。

その“冬の時代”に、突如、結成される自立したアイドルグループ「ASG16」。彼女たちが歌うのは、現代から持ってきたAKB48の大ヒット曲だ。中盤では「制服が邪魔をする」、クライマックスでは「Everyday、カチューシャ」「フライングゲット」「恋するフォーチュンクッキー」を披露する場面は見どころ満載。「彼女たちがだんだんアイドルになっていく過程の中で、互いに切磋琢磨しながら、かわいさを獲得していく。それが今の集団アイドルの姿。5、6人だと、けんかもすると思うんだけど、16人もいると、対立もない。互いにライバルではあるけど、仲間ということが先にある。(仲間割れして)出ていってしまった分は補充すればいいってことになるんです」。こうしたアイドルへの考察は劇中でも生かされ、アイドルのミニ歴史を垣間見ることができる。

主演の田野はAKB48を運営する事務所「AKS」からの推薦メンバーから抜擢。「動画を見て、“この子ならいける”と思った。15年に宮本亜門演出のミュージカル『ウィズ オズの魔法使い』の主演に抜擢され、お芝居に目覚めた。劇中ではラップに初挑戦してもらった。緊張していたが、なかなか。分かり易いラップで、きちんと韻を踏んでいる。原案は息子に書かせた。ASGのメンバーには、AKS所属の元アイドルの子も入っていてダンスシーンは目立っている。石橋杏奈もアイドルやった方がいい。プロデュースするよ」。

もう1作の「こいのわ」は、市が婚活事業を展開する広島を舞台に、歩きスマホの衝突を防ぐ電子機器の開発で財をなした65歳の大富豪・門脇誠一郎(風間杜夫)が自身の会社の社長を解任されたのを機に、第2の人生のパートナー探しに奔走するというハートフルコメディ。片瀬那奈が、相手役となる35歳の独身編集者、ナギを演じる。

2014年8月に香川・小豆島で開催された「瀬戸内こどもフェスティバル」で選考委員を務めた際、「瀬戸内海賊物語」の益田祐美子プロデューサーから、「美しい瀬戸内を舞台に映画を撮らないか」と声をかけられたのがきっかけ。「40年来のカープファンだということもあり、ノッたんだけども、本が形になるまでは苦労した。第1稿は、主人公の娘が若者と結婚して、誠一郎とナギはどうなるのか……というもの。日本映画的な父娘の話に収れんしていくんだけど、どうも面白くない。そんな時、プロデューサーが『2人がエッチしてもいいんじゃない』と言ってくれた。地方発の真面目な感じで受け取られる映画では、普通言われないよね。それがハードルを飛ぶきっかけになった。日本映画の常道から外れて、2人がけんかしながらも、最後は結ばれるというハリウッドの王道にイケると思った」

劇中では「男はつらいよ」を引用。誠一郎は、寅さんの生き方に共感しているという設定だ。「ニール・サイモンの戯曲集を読み直したら、芸能ネタが相当あって、こんな風にやってもいいんだと思った。映画には、お見合いして、フラれて、集団見合いになるという流れがある。恋してフラれると言えば、寅さん。寅さんがエッチをしていたのか、分からないけど、そういう理念を持ちながらも、やることは逆というのが人間だろう、と思ったわけです。『男はつらいよ』と(広島が舞台の)『仁義なき戦い』は高校の時からの主流。得意分野に引きずり込んだという感じです」。

金子監督は2作の宣伝に力を入れる一方、初の中国映画となる「シベリア風雲」(来秋公開)の準備で、東京とハルビンを往復する多忙な日々を過ごしている。製作費は10億円。中国映画で言うと、中の上といった規模の作品だという。アムール川を越えロシアに渡った中国移民が、ロシアン・マフィアと戦うというアクションだ。「主演が二転三転していて、3度クランクインが伸びているんです。最初は8月20日イン。スタッフは7月から拘束しているので、スタッフはオーバーギャラが発生しているけど、監督は…」。環境の違う海外で、苦労も多いようだが、62歳の巨匠は新境地を見せてくれるはずだ。

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