菅田将暉&ヤン・イクチュン、スクリーンに焼き付けたそれぞれの存在意義
2017年10月22日 06:00
[映画.com ニュース] 寺山修司はボクシングにも精通していただけに、「あゝ、荒野」におけるその描写はち密でリアリティに満ちている。体現するにはかなり高いハードルがあることは想像に難くない。だが、菅田将暉とヤン・イクチュンはストイックに自らを追い込み、プロボクサーとして生きることでそれぞれの存在意義をスクリーンに焼き付けた。
ヤンは韓国である程度体を絞ってから来日したが、バリカン建二としてデビュー戦で“対戦”するトレーナーの松浦慎一郎による指導を「ハードトレーニング」だったと断言する。
「すごく体を使いすぎて、テニスエルボーができました。私は右利きなので特に右がひどくて、訓練を受けてはシップを張っていましたね。松浦さんの話では、訓練の量も中身も完全にプロ仕様だったそうです。全くのアマチュアの状態からなので、それくらい激しい訓練でした」
新宿新次として鮮烈なデビューを飾る菅田はさらに深刻で、血液中の酸素濃度が低下し皮膚や粘膜が青紫色になるチアノーゼを生まれて初めて出たそうだ。
「呼吸の量など、多分体が追い付いていかなかったんでしょうね。松浦さんが、ジムの他の場所で練習しているプロの方に『そんなトレーニングをさせちゃダメだよ』と怒られているのを見て笑うけれど、自分の体がサーっとなっていく(と血の気が引いて倒れるような動作)という感じでした」
だが、試合(本番)になると疲れや痛みが「全く気にならなくなる」とアイコンタクトを取って確認し合うあたり、成果は確実に体にしみ込んでいたのだろう。ボクシング・シーンは、顔面以外は当たってもOKのフルコンタクトだったという。菅田が「ヤンさんは腹筋が強いし、パンチもめちゃくちゃ重い」というだけに、ひとつ間違えばという“息もできない”ほどの緊張感をもたらす。
「熱くはなりましたね。それこそ油断してヤンさんのボディを食らったら倒れますから。ボクシングの試合をテレビで見ていても、ボディは効いているのか効いていないのか分からない。解説の人が足にきていますねと言っても、本当に?と思っていたけれど、急にストンってくる感じがすごく分かりました。その経験は面白かったですね」
リングという荒野での、命を賭した死闘。妥協することなく肉体と魂を存分にぶつけ合ったからこそ、互いの理解が深まり確固たるきずなが生まれたといえる。満足げな笑みを浮かべながらヤンが語る。
「現場ではバリカン、新次としてつながっていたし、切っても切れない関係になっていたと思います。撮影に入る前の準備の段階から考えれば6~7カ月、ずっと役の気持ちをつくり続けてきましたし、それが切れてしまったら感情表現もできなくなってしまう。だから2人はずっとつながっていたんです」
同意を示して何度もうなずいた菅田にとっては、大きな刺激となったことは間違いなく、今後の糧としてほしい。もちろん、その表情からは十分に心得ていることがうかがえた。