DJロバート・ハリス「マンチェスター・バイ・ザ・シー」は小津安二郎をほうふつ
2017年6月12日 18:00
[映画.com ニュース] 第89回アカデミー賞で主演男優賞、脚本賞に選ばれた「マンチェスター・バイ・ザ・シー」(公開中)のトークイベントが6月10日、東京・シネスイッチ銀座で行われ、DJで作家のロバート・ハリス氏が参加した。
マット・デイモンがプロデューサーを務めたヒューマンドラマ。ボストン郊外で便利屋として生計を立てる男リー(ケイシー・アフレック)が、家族を失った16歳の甥(おい)パトリック(ルーカス・ヘッジズ)の面倒を見るために悲痛な思い出が残る故郷に舞い戻り、自身の過去と向き合っていく。リーの元妻ランディをミシェル・ウィリアムズが演じている。
6月12日時点で上映館が96館に拡大、国内興行収入は1億円を突破するヒットを記録し、多くのリピーターも呼んでいる。ハリス氏は「今までのハリウッド映画は“悲しみは乗り越えられる”というメッセージが込められているものばかりだった。しかし本作は“乗り越えられない悲しみもある。それでも人は生きていける”ということを教えてくれました。だからリーは空っぽな状態でも、お兄さんのことを愛したし、甥への愛情を持てた。そこが美しかった。今まではこんなハリウッド映画はありませんでした」と絶賛した。
「この映画には、悲劇の中にも、監督の優しさや思いやりの目線が詰まっているように思える。昔、日本映画の字幕翻訳をやっていたことがあるのですが、『マンチェスター・バイ・ザ・シー』を見ていて感じたのは小津安二郎の映画。派手なドラマチックさはないけれど、人々の言葉の裏に感情が見えますよね」と日本が誇る巨匠の名を挙げたハリス氏。「劇中、リーが大事に持っている3つの写真がある。誰の写真か画面には映らないけれど、想像できるのです。そのような細部への配慮を、この映画にはすごく感じる。だから、何度見ても楽しめるのではないでしょうか」と具体的なシーンを絡め、ケネス・ロナーガン監督の演出力の高さを解説した。
当初はデイモンの監督・主演が予定されていたが、ロナーガン監督とアフレックに託したという経緯を持つ今作。ハリス氏は、その点を踏まえ「ケイシー・アフレックの過去作も見ていて、彼は怒りと、その奥の孤独を秘めている俳優だと思っていました。ですから、恐ろしさと同時に悲しみを感じる。そんな彼がリーを演じていて、ものすごく自然だと感じました。きっとマット・デイモンじゃできなかったことでしょう」と語った。