黒沢清監督、「ダゲレオタイプの女」現場でタハール・ラヒムと「聖闘士星矢」トーク

2016年10月14日 12:00


黒沢清監督とタハール・ラヒム
黒沢清監督とタハール・ラヒム

[映画.com ニュース]黒沢清監督がオール外国人キャスト、全編フランス語で撮影した「ダゲレオタイプの女」が、10月15日から公開される。世界最古の写真撮影技法“ダゲレオタイプ”が引き寄せる愛と死を描いた美しいホラー作品だ。「長年の夢がかなった」と初の海外製作を経験した喜びを語る黒沢監督と、来日した主演俳優タハール・ラヒムがフランスでの現場を振り返った。

オリジナルで脚本も手がけ、海外初進出作となった今作、黒沢監督は「長年の夢がかなったなという思いが一番強いですね。言葉は話せませんが、映画を作ることにおいては俳優もスタッフも、通訳を通して、僕が望むことを全力を尽くして実現してくれる、という点においては日本と変わりないことがわかりました。今後も日本以外の国で撮るチャンスがあれば、ためらい無くやってみたい、という自信につながりました」と述懐する。

学生時代から、邦画やハリウッド映画と同じように、フランス映画に親しんでいたという。とりわけ「ヌーベルバーグの監督たちの作品は、ものすごく新鮮で強烈に見えた」そうで、「大学時代にスーパー8で映画を撮り始めた頃、基本的な映画の文法、表現のようなものは、ヌーベルバーグの作品に強く影響を受けていると思います」と明かす。そして、「フランスという国は、外国の言語、文化にとても寛容で、好奇心が強く、積極的に取り入れようとしてくれます。今回、そこに助けられました。ハリウッドだったら全然違うハードな経験をしていたかもしれません」と語る。

ラヒムは大学で映画理論を学び、その後演劇の道に進んだ。学生時代から黒沢監督の作品の大ファンであったと明かす。「こういう映画を作れる監督は他にいないと思うのです。怪奇映画ともホラー映画とも言え、そして作家主義の映画は、黒沢監督にしかない技術で作り上げられています。カメラの動き、カットの長さ、光の使い方、生きている人と死んでいる人、そういう境にある人の、形而上学的な哲学的な話……。これらの良さのすべてを黒沢監督一人が持っていると思うのです。今回の撮影の中で、監督がどういう仕事をしているかを観察することが、とても興味深い経験になりました」と感慨深げに振り返る。憧れの黒沢監督との現場では、こんなやり取りもあったそう。

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黒沢「タハールに演じてほしかったのは、ひとりの女性を愛することによって、生きていることと死んでいることは同じであるという境地に達する役なのですが、それが理解できるかどうかと聞いたら、それは『聖闘士星矢』に出てくる、とある状態なのかと尋ねられたんです。僕は『聖闘士星矢』を読んでいなかったので、それは何か逆に教えてもらったことがありましたね(笑)」

ラヒム「自分の知っている作品で、面白い例を出そうと思ったんです。あるシーンでは、これって『マトリックス』のネオですか? と尋ねたこともあったと思います」

黒沢「哲学書などではなく、もっと平易な漫画やハリウッド映画から、共通のある種のレベルの高い認識を持つことができる。文化ってそういうものなんだなと、こういうやりとりから改めて感じられたのがうれしかったですね」

初の海外での撮影ということで、「フランス人が見て、観光客しか興味を持たないような場所を撮影したくはなかった」との思いがあり、ロケーションにもこだわった。物語の舞台となる館はパリから車で1時間ほどの郊外で見つけたという。劇中の室内や庭などは、別の場所を組み合わせて撮影したそうだが、路地に取り残され、不穏な空気をまとった古い館は、黒沢映画ならではのドラマを感じさせる佇まいだ。

黒沢「ああいう館で、一度撮影してみたいと子どもの頃から思っていたんです。フランス人スタッフたちは最初、そんな古風な館は21世紀になってほとんど壊されるか、何かの記念館になってしまっていると言っていました。でも、ようやく見つかったんですよ。まさに映画的な場所で、その優雅で複雑な構造にフランス人たちも感動していました。パリ郊外にこんなところが残っているのが驚きだと新鮮な気持ちで撮影してくれたようです」

「またフランスでも、日本でも世界のどこでもよいので黒沢監督の映画に出たいです」というラヒムと、「機会がある限り今後も海外で撮ってみたい」と意欲を見せる黒沢監督。国境を越えた映画への情熱が生み出した傑作をぜひスクリーンで味わって欲しい。

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