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「無伴奏」池松壮亮&斎藤工、矢崎仁司流“陰翳礼讃”で体現した青春の光と影

2016年3月25日 12:00

矢崎仁司監督、池松壮亮、斎藤工「無伴奏」

矢崎仁司監督、池松壮亮、斎藤工
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[映画.com ニュース]1969年、日本中で反戦運動や学園紛争が巻き起こった激動の時代に青春期を送った、直木賞作家・小池真理子氏の半自叙伝的小説「無伴奏」。矢崎仁司監督が当時の空気感を丁寧に再現し、成海璃子池松壮亮斎藤工ら若手実力派俳優をメインキャストに、若者たちの恋と青春の光と影を繊細かつドラマチックに映画化した。3月26日の公開を前に、池松、斎藤が矢崎監督とともに撮影を振り返った。(取材・文/編集部、写真/余澄)

同級生とともに学生運動を行っていた女子高校生の響子(成海)は、友人に連れられて足を運んだ喫茶店「無伴奏」で、大学生の渉(池松)とその親友・祐之介(斎藤)らに出会う。響子は大人びた雰囲気を持つ渉に惹かれていくが、二人の恋には思わぬ結末が待ち受けていた。

「僕自身はあの時代に乗り遅れた世代だったけれど、ある種の強い憧れがあった」と話す矢崎監督。「当時は死というものがごろごろしていたような気がしました。三島由紀夫やアルバート・アイラーが死んだとかということが頭にあって、街を映すときは頭の中でジャズが鳴っていました」と回想する。原作者の小池氏からは、「仙台を舞台にして欲しい。できるだけ喫茶店『無伴奏』を再現して欲しい」というリクエストを受けた。数々のロケハンの後、喫茶店『無伴奏』をロケセットで再現することは不可能と判断し、タバコが煙る昭和の名曲喫茶をセットで作り上げた。

俳優ふたりは、当時の若者を演じるにあたっての役作りをこう振り返る。「あの時代を引っ張り出して、今のお客さんに見せるということを、どう掴もうかなとずっと考えていました」(池松)、「当時のカルチャーを見ていると、ものすごく個が強くて、主張を強くする時代だったと思いますが、今とかけ離れているかといったらそうではなく、共通する普遍的な部分も多いと思います。時代考証を突き詰めるというよりは、おそらく監督がキャスティングをした時点で、責務を全うできる役者にその役をくださったと、信頼すべきだと思いました」(斎藤)

日本映画界を牽引しているといっても過言ではないふたり。池松の「愛の渦」「海を感じる時」、斎藤の「欲動」や数々のドラマ作品など、官能性を漂わせる作品でも臨場感ある演技が高く評価されている。

池松は「今回、祐之介というフィルターを介した斎藤さんしか見ていませんが、ああいう役をやるときの斎藤さんってキレッキレ。斎藤さんに成海さんと僕は完全に踊らされました。そして、本当に優しい方。いろんな心がわかって、自分の目で見て分析される方なんだと思いました」と繊細な心遣いが演技に反照する斎藤との初共演を語る。


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ふたりは実年齢で9歳の年の差があるが、今作では同じ大学生という設定だった。斎藤は「一緒に演じて、池松さんの精神的な深さを感じた」といい、「小説的な方。行間の様に、そこに映っているものではなくて、後姿とか佇まいが印象的で。じゃあまたねって、立ち去った後に存在感が増す人はそういない」と池松の独特の存在感とその余韻を称えた。

劇中では、渉と祐之介の互いのガールフレンドとのラブシーンだけでなく、ふたりが肌を重ねあう場面も。原作にもある描写だそうだが、見るものの心を射通す映像に仕上がった。「茶室の中は、谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』のように、撮影の石井勲さんと照明の大坂章夫さんが、久しく見ない日本の闇と光に挑んでくれた」と矢崎監督。「池松さんと斎藤さんの闇に蠢(うごめ)く愛は、私にとって、一晩中見ていたいシーンでした。終わりたくなかったです」と述懐すると、すかさず池松が「それはさすがに……」と反応し笑いを誘った。

池松と斎藤は、現場で好きな映画や監督にについて話す機会もあったそう。「僕が夜遅くまで撮影で、斎藤さんが早めに上がる日に、たまたま僕がまだ見ていなかったロウ・イエ監督の『二重生活』の感想を聞いたら、その晩、僕が帰る前に、斎藤さんがDVDと葉書を一緒に置いていてくれたんです。斎藤さんの手紙もすごく素敵でしたし、僕ももともとロウ監督が好きで、そして矢崎監督もお好きだと聞いていたのでうれしかったです」(池松)

斎藤は矢崎監督の現場を「具体的な演出という形はなく、すべてが準備されているような感覚」だったと振り返り、「矢崎組の職人さんたちが現場のことは熟知しているので、どのポジションで参加するかというのは入り口でしかなく、すべてをみんなが感覚的に共有して、すごく美しい現場でした。カメラの前に立つのを待っている時間こそが肝になっている。カメラに映らない何かを映そうとしている人なんじゃないかと思いました」と語る。

響子の揺れ動く感情を軸に、渉、祐之介ら若き登場人物それぞれの秘めた思い、複雑な心のひだという“カメラに映らない何か”が、俳優と製作陣の映画への愛とともにスクリーンに立ち上る美しい一作だ。

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